第14話:『第二の刺客・マッドサイエンティストの爆薬地帯』
「――ターゲット(央太)の体温、心拍数、および移動速度、検知」
第3層、薄暗い胞子植物が生い茂る湿地帯エリア。
霧が立ち込める薄暗闇の奥から、高低差のない平坦な機械音声が響いた。
そこに立っていたのは、シルバーボブの短い髪を揺らし、だぶだぶのオーバーサイズ白衣を羽織った少女。
第二夫人・薫子ママの推薦する、クロエ・シュナイダー(18歳)だった。
彼女は額にかけた大きなホログラフィック・ゴーグルをパチリと光らせると、白衣の萌え袖から、妙に未来的なデザインの魔導ランチャーを突きつけてきた。
「クロエさん……っ! 薫子ママの差し金ですか!」
僕は魔導杖を前に構え、湿地のぬかるみに足を滑らせないように身構えた。
「肯定。薫子様より『健吾駆逐用のしびれ薬』、および『央太無傷捕獲用の安眠キャンディ』を受領済み。これより、ミッションを実行する」
クロエは淡々と告げると、表情一つ変えずにトリガーを引いた。
――シューーーッ!!
ランチャーの砲口から、おぞましい勢いで紫色の霧が噴射された。薫子ママ特性の「吸入式しびれガス」だ。
「あかん! あれ吸ったら一瞬で手足動かんようになってお持ち帰りされるぞ! 央太、息止めて下がれ!」
健吾が叫び、コートの袖で口元を覆いながら大剣を構える。
だが、クロエの攻撃はそれだけではなかった。
湿地の天井から、十数機もの「多脚追跡ミニロボット」が糸を引くように降下し、僕たちの足元を目掛けて魔導ネットを射出してきたのだ。
「クロエさん、無表情のわりに行動がえげつなさすぎます!」
僕は咄嗟に、脳内で魔術式を高速で組み立てた。
実母・志乃譲りの強力な魔力適性。ハニーブロンドの髪が、僕の集中に合わせてエメラルドグリーンの微光を放つ。
「『魔力構造解析――通信プロトコル、オーバーライド』!」
僕は自分の魔導杖から、極小の電磁魔術波を放ち、迫り来るドローン群の周波数にピンポイントで干渉した。
志乃お母様から徹底的に叩き込まれた、超精密な魔力制御技術。
――ピピピ……警告、外部干渉、システムエラー。
「……! ドローンの制御権、奪取された。央太、魔術精密制御能力、極めて優秀。……胸の高鳴り、検知。さらに独占欲が増加」
クロエのシステムがハッキングされ、ドローンたちが一斉に機能を停止して泥の中にボトボトと落下した。
無表情なクロエの白い頬が、微かに朱に染まる。
「クロエさん、その僕を『お人形』みたいに扱おうとするプログラム、書き換えさせていただきました!」
僕は上品な標準語でスタイリッシュに言い放った。
「ターゲットの反抗的態度、非常に美味。私の白衣のポケットに入るサイズにデフォルメして、生涯私がメンテナンス(調教)したい。……これより、第ニ段階の捕獲プロトコルへ――」
「いや、怖いわ! あの子、薫子より目が据わっとる! 央太、ハッキングしたドローンを爆破して、その隙に逃げるぞ!」
健吾が慌てて関西弁で叫び、大剣を地面に叩きつけて泥煙を巻き上げた。
僕はハッキングしたドローンのバッテリーを過負荷でショートさせ、小さな爆発を起こす。
「――っ、魔力煙幕を検知。視界不良。……ターゲットの捕獲、一時断念。後悔、およびさらなる愛着。次回は必ず捕獲する」
立ち込める泥煙の奥で、クロエがボソボソと呟く声を背に受けながら、僕たちは湿地帯を全力で駆け抜け、なんとか第3層のさらに深いエリアへと逃げ込んだのだった。




