第12話:『アサシン嫁同盟、結成』
波多野家の「リビングだった場所(外壁は消滅)」に、3人の少女たちが、神妙な面持ちで並んで立っていた。
3人の母親たちの呼び出し。それも、ギルドの緊急招集赤色信号による、超超最高優先度の命令だった。
「緋村零華。クロエ・シュナイダー。大河内雅。……よく来てくれたわね」
志乃が、ハニーブロンドの髪を美しく揺らし、エメラルドグリーンの瞳で少女たちを見つめた。
その後ろには、はんなりと毒薬をビンに詰めている薫子と、仁王立ちでスマートフォンの位置情報を睨みつけているエレナが控えている。
その異様な魔圧と殺気に、若きエリートである少女たちも、冷や汗を流して身を硬くしていた。
「師匠……。この度は、一体どのような緊急事態にござるか?」
黒髪をポニーテールに結び、白赤の戦闘用巫女装束を纏った零華(19歳・剣聖)が、おそるおそる志乃に尋ねる。
志乃は、僕たちの残した置き手紙を、零華の前にスッと差し出した。
「これを見て」
「は、はい……『男のロマンを求めてダンジョンへ。探さんといてな』……。え? こ、これは、央太様のご筆跡にござるか!?」
手紙を読んだ瞬間、零華の琥珀色の瞳が大きく見開かれた。
「嘘……ターゲット(央太)の脱走。確率計算、0.03%だったはず。予測不能のバグが発生している」
シルバーボブのクロエ(18歳・メカニック)が、だぶだぶの白衣の萌え袖をぎゅっと握りしめ、丸いゴーグルを光らせる。
「まぁ! 不潔極まりない健吾様にそそのかされて、央太君が汚いダンジョンへ!? 信じられませんわ!」
金髪縦ロールの雅(20歳・財閥令嬢)が、フリルだらけのドレスを揺らし、純白のパラソル杖を叩きつけて憤慨した。
志乃は深く頷き、3人の前に歩み出た。
「そうなの。すべては、あの腰軽のゴミ(健吾)が、私の可愛い央太を誘惑したせいよ。央太は、あの不潔な男に毒され、自分の『義務』から逃げ出してしまった」
志乃は零華の肩に優しく手を置いた。
「零華。あなたは私の推薦する、央太の『筆頭本妻』よ。あのバカ夫のせいで、央太の純潔が汚される前に、ダンジョンへ潜って彼を救い出しなさい。……健吾の手足は折って構わないわ。央太は無傷で、私の元へ連れ戻すこと」
「は、はい! 御意にござる、志乃師匠! 央太様を健吾殿のような不純な男からお守りし、私が責任を持って『純潔なる一夫多妻』を成就させてみせます!」
零華は頬を真っ赤に染めながら、腰の名刀「白百合」を強く握りしめた。男性免疫ゼロの彼女にとって、央太は「生涯をかけて守るべき、初めての男性」なのだ。
「クロエちゃん。薫子ママからの伝言どすえ。健吾さんの動きを完全に止める、この『特性しびれガス弾』をあげるわ。央太さんには、この眠り薬入りのアメちゃんを、優しくお口に放り込んであげてね」
薫子がはんなりとクロエに薬品の束を手渡す。
クロエは「了解。ターゲット捕獲用の魔導ネット弾、および健吾駆逐用のプロトコル、展開準備完了。……央太は、私が安全に持ち帰って、生涯大切にメンテナンス(調教)する」と、無表情ながらも瞳の奥に独占欲をギラつかせた。
「雅ちゃん! あたしからの推薦状よ!」
エレナが雅に、真っ赤な印章の押された書類を渡す。
「これ、健吾の『全資産差し押さえ兼罰金100倍請求書』! 健吾を見つけたら、まずこれを顔面に叩きつけて! お小遣いゼロにして、身動き取れなくしてやんの!」
「おーほっほっほ! お任せくださいませ、エレナ様! マネーパワーと大河内の傭兵ネットワークを駆使して、アナーキー・ダンジョンを完全に包囲して差し上げますわ! 央太君を不潔な父親から救い出し、私の豪邸で一生優雅に不労所得生活をさせてみせますわ!」
雅は縦ロールを揺らし、傲慢ながらも央太への妄想で鼻息を荒くした。
こうして、目的や属性はバラバラながらも、『央太を救い出し、不潔な健吾を駆逐して、自分との一夫多妻生活へ連れ戻す』という点で完全に一致した、最強のエリート少女3人による『アサシン嫁同盟』が結成された。
「行くぞ、お主たち! 央太様を、不純な男の手から救い出すにござる!」
「了解。ターゲット追跡ミッション、スタート」
「おーほっほっほ! 大河内重工の最新ドローン、出撃させますわ!」
3人の少女たちは、それぞれの武器と野望を胸に、アナーキー・ダンジョンの入り口へと、凄まじい風を巻き起こして突入していった。
一方その頃、ダンジョンの第1層でウサギの肉を呑気に頬張っていた健吾と央太は、背筋を凍らせるような、強烈な悪寒を同時に感じるのだった。




