05_タロウの場合 後編
付箋紙の貼られた紙を見て、ケイが言った。
「タロウ、前のクラスの時、こういうことして無いよな。
先生は良い人だし、お前一体何があった?」
そうなんだと驚いた顔をしてタロウを見るアイ。
「スミ、お前何か先生から聞いているんじゃないか?」
ケイは良く相手のことを見ている。
侮れないなと思いながらも佳澄は首を横に振ってタロウを見る。
タロウは俯いて暫く考え込んだものの1分程で顔を上げた。
「弟か妹が生まれるんだ。」
えっとアイは「もしかして悪阻?」と呟く。
「うん、4月になってから酷くなって父さん、母さんや弟妹の面倒で手一杯になった。」
「妹さんが確か来年入学で、下の弟はまだ3歳で二人共保育園に通っているって聞いた。」
と佳澄が情報を補足する。
「そっか、それでお前のことまで手が回らなくなったのか。」
「・・・うん・・・」
寂しそうにタロウは頷く。
「先生から聞いたけどご両親の手が回らない分、妹さん達の面倒をタロウが見ているって。」
ケイは項垂れている。
「酷いこと言ってごめん、妊娠は病気じゃないけど、悪阻はつらいからな。」
「ケイ・・・」
ケイの様子に困ったようにタロウとアイは佳澄の方を見る。
事情を少し聞いている佳澄は今は聞くなと首を横に振った。
「この話はこれでお終い。今は対策を考える時間。」
そう言う佳澄に3人は広げられた紙に視線を戻す。
「今回はね、家でやっている対策をサンプルに持ってきた。」
佳澄はA3サイズで印刷された紙を何枚も広げた。
「何これ???」
「見えない家事の見える化。」
「随分細かいんだね・・・」
料理、洗濯、掃除、買い物etc・・・
料理一つとっても献立を考える、決める、材料を決める、材料を台所に置く・・・
かなり細かく書かれている。
「これって・・・」
アイの言葉に佳澄はこれは今から3年前に我が家で使われていたものだと答えた。
「3年前?というと今は使ってない?」
「うん、弟が3歳になって色々あったから作って使っていたもの。
今は色んな事が出来るようになったもう少し簡略化したものを使っている。」
その言葉にケイは分かったと手を打った。
「そっか、タロウのところの弟が3歳だからか。」
「そう、こうやって家事を一つ一つ分解すればタロウのところの弟さんでも出来ること、結構あるよ。」
タロウはじっくり広げられた紙を見ている。
それを横目にアイが聞いてくる。
「スミ、何でこれを作ったの?」
「我が家の場合はお母さんが、フルタイムで働くようになって忙しくなったからかな。」
実際は寛や佳澄が色々と家事をしているのに自分がすることが無いと悟がごねたからである。
「弟に家事を手伝わせるにしても刃物や火を使うのは危ないでしょ。
体力も無いし、身長も足りないから出来ないことが多いけど、こうやって分解すれば3歳でも出来ることはある。
特におもちゃのお片付けはやってくれると本当に助かる。
それから自分でちゃんと準備して保育園に行ってくれるだけでも。」
その言葉にタロウが深く頷いた。
「うん。本当にそう。」
なんかあったというケイの問いにタロウはしみじみと答えた。
「出掛けに行きたくないってごねられると宥めるのが滅茶苦茶大変・・・」
「タロウって本当に妹さん達の面倒見ているんだね・・・」
「これは我が家の場合。
タロウのところでは全部使える訳じゃないだろうけど参考にはなると思う。
ただ、この時の家とタロウのところ、家族構成がほぼ同じだから使えることが多い筈。」
「そっか、ケイのところは一人っ子だし、私のところはお姉さんだから状況が違う。」
納得して頷く二人にタロウは言った。
「でも母さん、少しだけ元気になってきたし・・・」
そういうタロウの言葉を佳澄はぶった切る。
「甘い!」
えっ?ときょとんとするタロウ。
「甘い、甘すぎる。
子供が生まれたらその世話でお母さん、どれだけ大変になるか。
そこへ弟さんが赤ちゃん返りしたらどうなると思う?」
「それは・・・」
そう弟が生まれた時、妹が赤ちゃん返りしかけて苦労したことを思い出す。
「今の内に対策をして準備しないと大変なことになるよ。」
「・・・分かった・・・これ持って帰って父さんと相談する・・・」
閲覧、有難うございます。




