第8話 取り乱死
…村は静かだった。
……まって!こんなとこで消えたくない!
また。まただ。
ヒナタ!
ツキ!
これもアイツの仕業か!!
…くそぉ、
……初めての女の子の友達だったんだけどな。
ツキはエリの微かに振動する魂の叫びを聞き取っていた。
「ヒナタ…私、多分だけど分かった気がする。」
「…なに?」
「エリの声が聞こえた気がしたんだ。…多分、ツキ博士って奴がエリを消した。」
ヒナタは固唾を飲みツキの言葉を先読みした。
「うん。やっつけてやろうぜ!ツキ博士って奴を!!」
ツキとヒナタは、村人たちの無念を晴らすため、ツキ博士を倒す決意を固める。
ツキはヒナタと目を合わせ声を合わせる。
「サンナイとりーえ。として!!」
サンナイとりーえ。
土にサンナイとりーえ。と書いてある横に、強く魂が鼓動するように殴り書きされた文字があった。
生きて誇れ!お前の命だ!!
ツキは少しその文字を見て直ぐに前を向き進んだ。
文字は風化しても、この想いだけは風化させてはいけない、と強く思った。
しかし…頬は、濡れていた。
古本の匂いが空気になり漂う。
「ここって図書館かなぁ?」
私達は手がかりを求めて、村の図書館に向かった。
「このハイアントの本が有れば、多分だけど参考になる資料が書いてあるはず。」
図書館は古びてはいるものの、異様に静かな空間で、膨大な数の書物が並んでいる。その中で目を引く一冊があった。それは「ハイアント」という名の本だった。
本というか日記の様だった。
二人はその本を手に取り、慎重にページをめくる。
「I世界線と言うのを私達が生きてる地球だと仮定しよう。するとO世界は私達が生きる魂を保管し、半永久的に生きられる事だとする」
「…O世界っていうのが今私達が居るこの世界だよね?」
「うんそうだと思う。」
魂を保管?どういう事だろう。地球への戻り方も分からない。
「この本……」ツキが静かに言った。
ツキは続けてページをめくった。
「私はこの研究には同意しない。だからこの本を今書いている。今読んでいる頃にはもう既にあいつのストーリーは動き出している。…頼む。ツキ博士を…殺してくれ。」
「…ツキ博士を殺す?」
「なんだか現実的だね。」
…とにかく私達の目的はツキ博士を殺す事で、その目的を達成することで、地球へ戻れるような気がしていたのだ。
ヒナタは本の表紙を撫で、上を見ながら言った。
「だけどツキ博士はどこにいるんだろう。」
「…それが謎、だね。」
「…ツキ。私、多分だけど地球にいる気がする。普通の人じゃ行けない場所だと思うし。」
「確かに。その可能性はありそうだね。」
引き続きツキはページを捲った、が。
「…なにこれ、愚痴?」
ツキが顔を顰めて言った。
そこにはツキ博士に対する愚痴が長々と書いていた。その文字から伝わる悪意と殺意は読むと吐き気さえ感じてくるぐらいだった。
最後には、
「信用していたのに…。」
と懺悔するように余韻を残した文章を綴っていた。
ヒナタが具合の悪そうな顔をしていた。
「…ツキちゃん、私外の空気を吸ってくるね……。」
私はツキの様子がおかしい事がすぐに分かった。
「ツキちゃんっ。私も一緒に吸う!…空気。」
「……ツキちゃん、黙ってて。」
…え?
ヒナタは今までの顔とは裏腹に、憎悪と悪意に満ちていた。
図書館の空気が変わる。ヒナタが私の事を四方八方から監視しているような感覚が広がった。
………死ぬ?
いや、え?待てよ。今まで友達だったじゃないか。だけどこの殺意、直ぐに出来上がるような代物ではない様な。
ヒナタが足をツキの方へヒタヒタと進める。
「ツッキちゃ〜ん。可愛いかぁいいツッキちゃ〜ん。あそぼぅ〜あそぼぅ〜よぉぉおぉ、まず、まずゥ、はっらわた、みっせて。」
ツキが急に足を加速させこちらへ向かってくる。
殺意と古本の匂いが混ざり、気持ちが悪い。
「ねぇヒナタっ!話をしようよ!!」
空気が迫ってくる。
「どうして!なんで!なぜ!?」
私は必死に対話を欲するが、ヒナタは何にも応じてくれない。
「ねぇヒナタちゃん!」
ヒナタは村から取ってきた銃を手に持つ。
「…ねぇツキちゃん!!……あんたが私を殺したんだな。」
私を本棚に押し付けた。
そして銃を一回転させて、
……私のお腹に銃を置いた。
「ヒナタッ!!やめてっ!!!」
「ツッキちゃ〜ん。貴方わぁ、死ね。」
ヒナタは首をクネクネさせながら言った。
私はお腹に置かれている銃を抑えながら、ハイアントの本で見た言葉をそのまんま音読した。
「I世界線と言うのを私達が生きてる地球だと仮定しよう。するとO世界は私達が生きる魂を保管し、半永久的に生きられる事だとする」
……私はこれに賭けることにした。
「私の言葉をパクるんじゃねぇ!!!」
バンッ!
バンッ!!
バンッバンッ!!!
バンッバンッバンッ!!!!
エリーの言葉が脳裏に蘇る。情けない自分が惨めだ。
私のお腹はぽっかりと空いていた。
………どれくらい経っただろう。
私は青く丸い、私達が目指していた場所にいた。