異次元エルブン・スローライフ〜夢の無限サメ殴り生活〜
宇宙の端には何があるのか?
古来より地球の学者たちを悩ませて来た答えが、ノリヒロたちエルブン夫婦の目の前にそびえ立っている。
大いなるサメの胃壁。
宇宙とは…無数の宇宙をすっぽり飲み込むほど巨大なサメの胃の中にあったのだ。
彼らがこの宇宙のさいはてに到達してから、すでに10年の主観時間が経過していた。
メキメキメキメキメキーー!!!
「今日こそ白黒付けてくれる!!
従来のサメ・デストロイ拳に横回転と縦回転と3方向の斜め超光速回転を加えた…7次元サメ・デストロイ拳!!!
これでけったいな胃袋もお終いじゃあッッ!!!」
ふんどしメスエルフによる、7次元サメ・デストロイ拳炸裂!!!
約600ギガ宇宙の衝撃波が発生!!!
ついにやったか…!?
「はーっはっはっは!!もらったー!!
今度こそワシの勝ちじゃあーッ!!!」
通算1000度目の勝利宣言!!しかし……
「はーっはっはっは……何ぃーッ!!!」
サメの壁健在!!
いくら殴れども、殴りいってもサメの壁!!
サメ殴りに興じる妻のふんどしメスエルフをよそに、オスエルフのノリヒロは農業に勤しんでいた。
森林由来の土や太陽によって、農業に必要なものは全て揃っている。
その土台となる建造物は、胃壁から発掘されたミスリル製のエルブンコロニー。サメ殴りの副産物である。おそらくノリヒロらと異なる次元のエルフが、はるか昔にベースキャンプとして使っていたものだろう。
発掘されたものはエルブンコロニーだけではない。
超大型の丸太ロケット、円盤状のスペースシップ、異次元のサメ・パンチングシステム群、エルブン仮想重力子射出装置、サイバネティック巨大ヴァルキリーシステム…その内のいくつかは、キロ宇宙以上の潜在破壊力をもつ超兵器だ。
そしてそれら全てが、白銀に輝くミスリルによって作られていた。ミスリルの遺物がサメの胃壁から発掘されたということは、過去の強大な種族─エルフか、エルフに連なる者たち─が、大いなるサメに挑み、敗れていったということ。
彼らと同じ轍を踏むわけにはいかない。
ノリヒロは食事の支度をしながら、物思いにふける。
デストロイ拳の衝撃により新たに誕生した宇宙群…ビッグバンのミルキーウェイが天を明るく照らす。サメ次元の夜空は、宇宙広しといえども中々見られる光景ではない。
そしてちゃぶ台の上には刺身の盛り合わせ、天ぷら、山盛りの煮しめと塩茹でのブロッコリーなど。そしておひつの中には炊きたての白飯が5合!!銘柄は北海道米ゆめぴりか!!
ペースト状の宇宙食とは程遠い。たとえここが日本であったとしても、かなり贅沢な食事だ。
ましてや宇宙の果てにあっては、実質宇宙一と言っても良いだろう。
「むっ!今日のブロッコリーは一味違うのう」
「ええ。10年ものですから」
「うーむ、だいぶ掘り進んだように思うのじゃがのう。
これが胃だとするならば、とっくに突き抜けて腹から飛び出ても良いはずじゃが」
「師匠が楽しそうで何よりです。
しかし…結論から申し上げますと、このサメの胃壁に穴を開けるのは不可能だ」
「なんじゃと!?
……でかザメの生体について、何かわかったのか?」
「ええ。ご丁寧にも、先人たちがミスリルタブレットに記録してくれていました。
なぜ古のエルフたち、別宇宙の強者たちが勝てなかったのか…その答えはシンプルだ」
その答えとは!?
タブレットには、冷酷な事実がいとも簡素に記してあった。
サメ=∞
恐るべき事実。いや、サメを深く知る彼らには、うすぼんやりとわかっていたこと。
そう、サメは無限なのだ!!!無限はサメなのだ!!!
「サメの胃袋は、無限です」
「ふーん…」
…無限!!
無限とは……無限だ。限りがない、終わりがないということである。
たとえ100ギガ宇宙の拳打を100億発ぶつけようとも、たとえそれを100兆セットで行おうとも、そのエネルギーは有限。
理論上はサメ壁を無限回殴れば突破できるのかも知れないが、それは不可能だ。肉体を持つ以上、無限に到達することは不可能である。
このままでは……
「このままでは勝てない」
「は?相手が無限なら、こっちも無限回殴ればええんじゃろ?
簡単な話ではないか」
ふんどし幼女のエルフはこともなげに言ってみせた。理論上は実際その通りだ!
しかしノリヒロは首を振る。
「無限回に至る前に、こちらの"森"が先に尽きる。いわゆる森林限界だ。
我々エルフが倒れたなら、森はやがて胃壁に飲み込まれ、ミスリル製品だけが残骸として残る…
まさにそれこそが、発掘された先人たちの遺跡群です」
「うーん…よくわからんが、なんとかなるじゃろ。明日にでも行ける気がする…
うまいメシ!サメ殴り!!ワシは幸せじゃ…グー……」
「食べながら寝るとは……まるで子供だ」
メシ・風呂・寝る・サメを殴る。師の奔放なサメ殴り生活。億兆年のうっぷんを晴らすかのような、実に快活な暮らしぶりである。
このままこの地で年老いて死ぬのも悪くない…どんぶりに顔を突っ込んで眠る師を見ながら、ノリヒロは思った。
……しかしそれでは、わざわざ自分が付いて来た意味がないのだ。
森とミスリルに守られた今はよい。しかしこれから先、いつか力尽きた時、サメの胃壁は容赦無くノリヒロらを消化吸収するだろう。
要するにこの宇宙というものは、食うか食われるかだ。
そしてなにより、師のQOLを高めるためには、衣食住とサメの他に、仲間と故郷が必要不可欠!!
ノリヒロはひとり考える…無限のサメを切り崩す手段を!!
カタカタカタカタ…ッタァーーン!!!
ロケット内コンピュータールーム。
ノリヒロのキー入力に、エルブン量子コンピューターが答える。
「ピー……ムリムリムリムリカタツムリ!」
ディスプレイにカタツムリのアイコン表示!!
カタツムリ。それはノリヒロが入力した問い、すなわち無限サメ壁の突破方法への回答だ!!
「くそっ!!ポンコツコンピューターめ!!」
「ピー……ポンコツ!ノリヒロ!オマエガポンコツ!」
「ぐっ…確かに私はポンコツの役立たずだ。今さら師匠のサメ殴りに参加したところで、誤差のようなものだろう。
この後に及んで、煮しめを作るしか能がない……」
過程を極限まで圧縮することで、すでに30秒で芯までしっかり味の染みた煮しめを作ることができるようになっていた。
このNTA(煮しめ・タイム・アタック)は、やがて0コンマ秒代まで詰めることができるだろう…しかし0秒…マイナス秒で煮しめを為すのはエルフであっても不可能!!
そのような不合理、矛盾をなさねばならないのだ。
一体どうすればいいのか!?この宇宙の中に、そんなものはどこにも無い!!
…この宇宙の中には。
「この宇宙に無いとするのなら………そうか。
いや…しかし……」
「サメを前に、この世の全てものが役に立たないのなら……これしかない」
「喰らえーーッッ!!!
ブロッコリー・コレダー!!!」
極太エルブン・ボウが、サメの胃袋に突き刺さる!!!
「師匠ー!師匠ー!!」
「なんじゃノリヒロ!!巻き添えで死ぬぞ!!!」
師のサメ殴りフィールドは宇宙規模の破壊空間。近づくだけで蒸発しかねない危険領域だ!
「師匠……私に一回やらせていただいてよろしいですか?」
「なにっ」
メスエルフはサメ殴りの手を止め、ノリヒロに向き直った。
「お前…つ、ついにやるのか。ちょっと待て、準備が……」
ソワソワするふんどし幼女のエルフ!!
「何の準備です?私の個人的なサメ殴りの話ですが」
「な、なんじゃ、サメ殴りか。
……ふん!ワシの拳が効かんものを、お前がやってどうする」
「試してみたいことがあるのです。
押してダメなら…」
「押してダメなら強く押せ、じゃろう」
「それはエルフのことわざです。日本のことわざでは違う。
押してダメなら…製造元に問い合わせよ!!」
ノリヒロは地面、サメの胃壁にゆっくりと手を当てた。攻撃というよりは……愛撫のような手つき。
メスエルフにはよく覚えのある動きだ!!
「お前まさか……アレをやるつもりか!サメ相手に!!」
「ええ。我々がいた宇宙では、みなさんやっていることでした。
この宇宙の果てでは……いかがですか〜?」
出たァ〜〜〜ッ!!
ノリヒロの得意とする、必殺のリンパマッサージだ!!
リンパマッサージ!!
手のひらを経由し森林エネルギーを浸透・反響させることで、アセスメントとヒーリングを同時進行で行う。ノリヒロの編み出したエルフ特効のマッサージ術だ!!
さらにノリヒロは数々の死線をくぐり抜け、"始まりのエルフ"の48手を知ることで…その技は万物の声を聴き、自在に操るほどに高まった!!
果たしてノリヒロの技は大いなるサメに通じるか!?宇宙の果てにリンパはあるのか!?
「これは……お客さん……老廃物が、溜まりに溜まってますねえ…!!」
ノリヒロは鼻血を吹き出しながらささやく!!リンパ負担が大き過ぎるか!?
ジャムジャムジャム!!
胃壁からサメが湧く!!
「ヒヒヒー!!天上天下唯我独SHARRRRK!!!」
接触による胃壁の反射反応、アシッドシャークだ!!その数100!!
「いただきまーブゲアッ!!!」
師のノールック・エルブン・ボウによりアシッドシャーク*100爆殺!!
そして新たに湧いて出る1000体のアシッドシャーク!!爆殺!!
10000体のアシッドシャーク爆殺!!100000体のアシッドシャーク爆殺!!
「このさいはてに向かってリンパマッサージをかます奴なんぞ、宇宙史上でも前代未聞じゃろうな。
…しかし面白い。ワシが見といてやるから、ゆっくりやるがいい」
師であり妻であるエルフの声は届いていない。アシッドシャークの断末魔さえも。
ノリヒロは額にじっとりと汗をにじませ、極限の集中にある。スポーツで言うところのゾーン!リンパマッサージで言うところのリンパゾーン!!
そう、ノリヒロは無限のサメに神経を張り巡らせ、サメの攻略法を探っているのだ。
大樹が根を張るがごとく、深く、より深くへと意識を沈めてゆく。
指では決して届かないところ、サメの無限の彼方へと……。
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