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ふんどしエルフのコスモノート

 何もかもが退屈だ。


 究極の知性を得て、一群の超越意志となったヒボ=ドゥスは、大ロレンチーニ器官で自身の退屈を嗅ぎ取った。あるいは空腹のような感覚であったかも知れない。


 実際のところ、彼はもはや感情という感情、思考という思考を持たない。そこには知的生命体のような、代謝や、神経系の明滅による霊的なまぼろしは存在しない。

 彼のまぼろしとはn次元の宇宙にもたらされる厄災そのもの。宇宙の終焉を"欲する"ことが、ヒボ=ドゥスの意志であり、彼を取り巻く現実となるのだ。


 そしてその身体、無量大数のサメで構築された群体もまた、意志と同様に巨大であった。

 無量大数のサメを伴う超越意志。人間世界において、"ビッグクランチ"と呼ばれる物理現象の正体である。



 次はどの宇宙を滅ぼしてやろうか。

 ヒボ=ドゥスがうごめく闇の瞳孔を細め、新しい獲物…遠いn次元宇宙の光を見定めていると……この無明の異次元に、輝く流星を見た。


 ……暗黒空間を切り裂いて飛ぶ、緑の波長に光輝く丸太。

 ……そして、丸太にまたがる二つの小さな生命体。


 本来であればその程度の質量は、彼にとっておやつにも満たない存在。

 しかし、そこに興味のような匂いを嗅いだ。n次元宇宙の側からやって来た、小さく、愚かで、弱く、哀れな、生命体。そして何かしらの強い意志と作為を、蹂躙しようと欲したのだ。


 触腕としてのモーフィング・ワーピング・シャーク群を動かし、瞬時に空間跳躍する。

 そして丸太の動線上に顕在すると、ヒボ=ドゥスはほくそ笑む。

 か弱い生命体にしてみれば、眼前に突如現れた巨大なサメの壁は、正気を失うに十分なものだろう。

 知的生命体が恐怖でおののく様はいつも愉快だ。



 しかし丸太にまたがる二匹の生命体は、微塵の恐怖も抱いていなかった。

 そしてヒボ=ドゥスは、サメを撲殺する者、"エルフ"の声をはっきりと聞いた。



「邪魔じゃ」



 エルフの放った森林流星拳によって、超越意志ヒボ=ドゥスは、かけらも残さず消滅した。



 どけ、そこどけ。

 エラ呼吸している奴はどけ。

 寄ってたかってサメが、エルフの邪魔をする。

 どけ、そこどけ!

 ふんどしエルフのお通りだ!!





「おおーい!!ワシじゃ!!誰かおらんのかー!!」


「師匠。……可能性として考えていたことではありますが…」


 宇宙は広い。広すぎる。

 例えばノリヒロの故郷、3次元宇宙。地球から等速直線運動で宇宙へ飛び出たとしよう。そのまま宇宙空間をただよい続けたとする。

 いつか惑星に当たるだろうか?どこか惑星の重力に引き寄せられ、その大気圏への投身自殺によって、孤独な直線運動を終えることができるのだろうか?


 実のところ、その確率はゼロに等しいのだ。それほど宇宙は広い。いわんやサメ次元をや。


 少なくとも古エルフの仲間たちは、丸太ロケットに搭載された計測機器や、互いの森林を察知するエルブン・センスでもなお届かぬ遠方にいる。

 距離にして、銀河をいくつも隔てるほどの遠方だ。

 それとも、あるいは…。


「うーむ、そうか…

それは残念じゃのう。てっきり昔の仲間の出迎えがあるかと期待しとったが」


「まだ探索は始まったばかりです。いずれ仲間の痕跡を見つけることができるかも知れません」




 二匹のエルフは休憩のため、小さな森林を作り出した。それはサメ次元の只中にある、小さなエルフの宇宙だ。


「済まんかったのう、ノリヒロ。

ワシのわがままにお前を巻き込んでしもうて…」


「何をおっしゃいますか、師匠。巻き込むというのなら、宇宙まるごと巻き込んでしまえばよろしい。

それより食事にしましょう。引っ越し祝いに、新そばを用意しております」


 ゴリゴリと石臼でそば粉を挽きながら、ノリヒロは言った。


「ほう…そこからやるのか。かなり本格的じゃのう」


 二匹のエルフがサメ次元で食べた新そばは、かなり上等なものであった。

 エルブンセンスを存分に発揮した水分量調整と、エルブン膂力を用いたそば打ちの賜物である。



 丸太シャトル内部のエルブン量子コンピューターは、異常な数値を示している。数字が表示されるべき場所に、サメのアイコンが表示されている!!

 3次元空間における"時間""距離"が、"サメ時間""サメ距離"に置き換わっているためだ!!


 呑気にそばを食べてはいたが、ここはやはり恐るべきサメ次元。

 ここは空間そのものがサメ!常に獲物を探して高速遊泳している!!

 さながら泳ぎ続けなければ窒息死するサメのように、サメ理法則によるサメ因果が泳ぐ世界。まっすぐ進んだつもりでも、サメより遅ければ置いて行かれる赤の女王サメ理論!!


 …二匹のエルフはよくわからなかったので、とりあえずサメ次元の時間と空間そのものを殴り殺すことにした。

 森林拳とサメ殴りの応用である。


「一度コツがわかれば簡単ですね」


「うむ。とっとと目的地まで行ってしまおう。

意外とすぐに終わってしまうかも知れんな。はっはっは」





 時空鮫殴打潜航法により、二匹のエルフはついに"さいはて"へ辿り着いた。


 それは大地のように認識された。

 視界いっぱいどこまでも広がる、真黒い大地だ。


「なんじゃ?これか?これが胃か?」 


「柔らかい感触がありますね」


「サメっぽいな」


「サメっぽいですね」



 そう、ここが宇宙の外の外。

 エルフにとっての約束の地、全宇宙を飲み込む、"大いなるサメの胃壁"である。

 改めて補足すると、すべての宇宙はサメの未消化物なのだ。このけったいな胃袋を破壊することこそ、全エルフの悲願というわけである。


「よし、では早速…軽く殴ってみるか」


 ()ッッ!!!


 森林瓦割り拳!!

 師は光速拳の質量操作により、ブラックホールを発生させ、胃壁にぶつけた。

 3次元宇宙ならば、この重力崩壊を耐える生命体はいない。


 …しかしブラックホールを飲み込んでなお、黒い大地は健在。ごちそうさまと言わんばかりだ!!


「うむ…これはまた…ずいぶん分厚い壁のようじゃのう」


「胃潰瘍になった気配すらなさそうですね」



「よしよし、そう来なくてはのう。

…では本気で殴るぞ。ガチのマジでやるぞ。

ノリヒロ、うんと離れておれ。宇宙がぶっ飛ぶ力で殴るから」


「いいえ。私はここで見ています。遠慮なさらずにどうぞ」


「ふふん、そうか。では死ぬなよ、ノリヒロ。

そして見ておれ…今まで使えなかった、ワシのとっておきを」



 スウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ……


 師の森呼吸とともに、大森林が生成される。森はどんどん広がり…

 サメ時空に水と空気と音が満ちる!!


 チュンチュン!ガーガー!…鳥たちの声!!


 ウホウホ!ウッホホ!…ゴリラの声!!


 ザザーン……さざ波の音!?


 そう、水が集まり川となって流れ、海が誕生したのだ!!そして弾ける海の幸!!エビカニマグロ、大漁だッッ!!!

 水平線の向こうから…日が昇る!!!


 森は光合成するのだから、太陽があることは必然!!!



「……何だ。

何なのだ、これは」


 ノリヒロは師の"本気"を見て、気の抜けた声を出した。

 そして今まで見せていた実力の片鱗が、全力の1%にも満たないことを悟った。



 生まれたての太陽を背に、師は叫ぶ!!

「これが森林拳……サメ・デストロイ拳じゃあああああ!!!!」



 メキメキメキメキメキメキメキメキイイイイイイー!!!!



 師の掲げた右腕から伸びる、銀河サイズの抽象樹木!

 それは物理法則を無視する仮想エルブン粒子の性質を存分に利用した、"超"光速樹木物質の拳!!


 超巨大質量を超光速で打ち付ける。

 あまりにも単純。あまりにも宇宙!あまりにもエルフ!!

 それがサメ・デストロイ拳!!!



「うおおおおおおおおおおおりゃあああああああ!!!!!」



 光が暗黒のサメ次元をまばゆく照らす。

 ノリヒロは、星々が生まれる様を見た。

 サメ・デストロイ拳の余波で、いくつもの新たな宇宙が生まれ……通り過ぎて行く。


 その威力にしておよそ宇宙6000000個分…すなわち6メガ宇宙!!

 ここでは宇宙=破壊力の単位!!!


 …にも関わらず、サメの暗黒胃壁は今なお健在!!

 師の拳が効いていない訳ではない。間違いなくサメの胃壁は削れている。

 厚い、とにかく分厚いサメの胃壁!!!


「はあーっはっはっは!!!これでこそ、これでこそ来た甲斐があるというものじゃ!!

長生きした甲斐があるというものじゃ!!

どれだけぶ厚かろうが、殴って殴って殴り抜いて、ぶち抜いてくれるわ!!!」




 ふんどしエルフによる、無限サメ殴りスローライフ……開始!!!!

お読みいただきありがとうございます。

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