愛と涙のコズミック・チャンピオンマッチ…光速拳vs家事労働!!さらばあばずれエルフども、男の涙は一度だけ
サメ次元への旅立ちを直前に、ノリヒロへの別れを切り出した師匠。ノリヒロは頑として譲らず、二匹のエルフは拳で決着をつけることとなる!
話が割れたら即・暴力!それがエルフのやり方だ!!
ふんどし幼女の古エルフと、ふんどしオスエルフ・ノリヒロの踏みしめる月面に…草が生え、森が広がる!
たちまち月が、豊かな緑の星となる!!
「お前はここに置いてゆく!!ノリヒロ、達者で暮らせッ!!!」
「お断りだ。
例え世界の果てであろうとも、あなたには…キッチリ三食召し上がっていただくッ!!」
森林拳・サクラの構えを取るノリヒロ!脱力して両の腕を無造作に上げた、頼りない構え。
花言葉は…一種のミームとなっているほど有名な"純潔"。チェリーすなわち童貞を意味している!
……しかし。
そのような森林拳の基本の構えで、師の光速拳を受け切れるものだろうか?
師の拳は森林拳の、エルフの極みにある。瞬間的な巨大質量を産み、ブラックホールを発生させ、次元を切り裂く拳。
ノリヒロのサクラの構えはともすると、降参ジェスチャーのようにさえ見える。
対するは、森林正拳突きの構えを取る師。
師に受けなど不要。敵のあらゆる攻撃も、その拳で上書きしてしまえば良い!!
間違いなく過去最強の敵を前に、ノリヒロは落ち着き払って語る。
「…師匠。いつかこうしてあなたと戦うであろうとは、ずっと考えておりました」
「ほーう。何か策は出たのか」
「策?そんなものはありません。あなたに対して策など不要だ」
「そうか、無策か。いさぎ良いが、愚かじゃ。
ではノリヒロよ…さらばじゃ!!」
轟ッッ!!!
森林正拳突き!!
瞬間、莫大な運動エネルギーが熱エネルギーの大爆発へと変じ、二人を辺りの取り巻く樹々が一瞬にして消し飛ぶ!!
さらに光速の拳圧がマイクロブラックホールに収束!!月面がえぐれ、巨大クレーターとなる!!
キイイィィン……
光速拳に対して後の先を取ろうなどと、愚の極み。放たれた瞬間全てが終了っている。
先の先も取ることも不可能。後出しの光速拳で、全てが叩き落とされる!さながら敗北が約束された後出しジャンケン!!
ああ、哀れにもノリヒロは…その心に秘めた覚悟ごと、光速拳の余波で蒸発してしまったのか!?
「かなり手加減はしたが…どこへ行った?
まさか消えてしもうたのか、ノリヒロよ…」
低重力の月の森。
砂埃が渦の形となり、ゆっくりと木の葉が舞い…やがてノリヒロの声が響く。
「師匠、あなたは強い。私が見てきたサメとエルフ、束になってもあなたには勝てないだろう。
コズミック・チャンピオンと言ってもいい」
上だ!!
まるで漂うスペースデブリのように、ノリヒロが月の上空をふわりと慣性運動している!
「ふ…ふふん!今のを凌いだか。ちょいと優しくしすぎたか?」
ノリヒロの無事に安堵する師。
相手は何年も共に暮らした弟子であると同時に、仮にも夫婦の間柄。いかに残虐非道のエルフと言えども、さすがに情が移るというものだ。
「しかし師匠。コズミック・チャンピオンの座は、他の誰かに譲りましょう」
「…なんじゃと?」
「もうやめにしましょう。
あちらへ行ってもなおエルフのボスを気取るつもりですか。
もっと自分に正直に、ワガママにやればいい。あなたは自由だ」
「……何をポエムめいたことをごちゃごちゃと。
エルフならエルフらしく…拳で語らんかいッッ!!」
暴ッッ!!!
森林サマーソルト・キック!!
光速の脚が真空の宇宙空間を切り裂く!!渦巻く砂埃がことごとく分子分解し、晴れ渡る月の空!!
宇宙空間を泳いでいた、スペース・イービル・アオザメ爆殺!!
「…こんな気乗りのせん戦いというのも中々無い。
手加減が難しくて肩が凝る。のう、ノリヒロよ」
師は言った。
その背後に立つノリヒロ。衣類が全て吹き飛び、ふんどし一丁の姿だ。
ヒュオオォォォォ……
月の森に風が吹く。
エルフがいるところ森があり、大気があるのは当然の帰結。
「…どうした?攻めて来んのか」
背後を取ってなお攻め気の感じられないノリヒロに、古エルフは若干の苛立ちを覚える。
「このワシを前に、ずいぶんとまあ余裕じゃのう。借り物の力が随分と馴染んでおるようじゃ。結構結構」
あえて隙を見せ、挑発するふんどし幼女の古エルフ。
ノリヒロがいくら強くなったとしても、言わばコズミック・横綱相撲。どんな技でも受け切って、格の違いを分からせる。師とノリヒロの間には、未だ宇宙の端から端よりも広い力の開きがあるのだ。
しかしノリヒロから返ってきた言葉は、古エルフが全く予想だにしないものであった。
「いい加減にしろ。メシひとつ炊けない小娘が」
「……なんじゃと?」
ヒュオオォォォォ……
「ワシも耳が遠くなったか……お前、何と言った?」
「聞こえなかったのならもう一度言おう。
エルフの小娘が、いつまで駄々をこねているのだ」
ノリヒロの言葉には、はっきりと怒りが込められていた。
「…こっ」
「こっ…こっ……小娘じゃとお!!?
おまえ…ワシを誰だと思っとる!!おまえの祖先が海でぽちゃぽちゃ遊んどった頃から生きる大エルフじゃ!!
それをおまえ…小娘って」
師を取り巻く空気が変わる。そのマイナスイオンに怒気と…戸惑いの色が浮かぶ!
「そうだ。
何億兆年生きたか知らんが、あなたは所詮エルフの小娘。
拳で星を砕こうが、ふんどしひとつもロクに洗えん小娘だ」
「ふんどしぐらい洗えるわ!!」
「水に漬けてかき混ぜただけのものを、洗うとは言わんのだ。
あなたのふんどしの染み抜きを、誰がやっていたと思っている」
師はノリヒロが洗った、ピカピカのふんどしを思い出す。ふんどしだけではない。羽織りものにはノリが効いて、常に快適に保たれていた。
部屋に埃はなく、布団に湿気は残らない。誰が頼んだわけでもないのに、この男はそこまでしていた!!
「刺身、煮付け、バター焼き、鍋、ハンバーグ…和食洋食中華料理。
何を作ってもうまいうまいと喜んで、何杯も白飯をおかわりしていたのは誰だ。
風呂やら寝床やら掃除やら、何から何まで上げ膳据え膳。それが小娘でなくて何なのだ」
「ぐっ…確かに、ワシはお前に甘え過ぎていた…お前のメシは実際どれもうまかった!!」
「うまかった?それだけか!!」
「ありがとう!!」
感謝の森林正拳突き!!
しかし明らかに精彩を欠いた打撃。
ノリヒロの口撃により精神的アドバンテージを奪われた、苦し紛れの"亜"光速拳!!今のノリヒロであれば、避けるのは容易い!!
師の亜光速拳を回し受けで流し、ノリヒロはさらにまくし立てる!!
「…これだからあなたは小娘だと言うのだ。
料理というものは煮しめひとつとってみても、いちいち出汁を取り、湯通しし、下味を付ける手間暇をかける。
それは自分で食うためか?」
「…他の誰かに食わせるためじゃろう!何が言いたい」
「美味しいごはん、ポカポカお風呂、あったかい布団!
これらが何を意味するか、分かるか!!」
このノリヒロの続けざまの問いかけは…エルブン問答!?
しかしノリヒロが挙げたものは、どれもエルフらしからぬもの!!セックスのセの字も、デストロイのデの字も…ましてやサメとも無関係!!
「エルブン問答というよりは、まるでなぞなぞじゃのう。
しかし…なんじゃ?わからん」
美味しいごはん、ポカポカお風呂、あったかい布団。それが日常として享受できるのは…たゆまぬ家事労働の賜物!!そしてそれすなわち!!
「愛だ!!」
愛!!
ビタミン・ミネラル・水化物・タンパク・脂質・そして愛!!知的生命体の必須栄養素のひとつ!!
そしてとりわけ…エルフという、長寿の種族に不足しがちな栄養素。ボロをまとい、出来合い弁当を食べ、川の行水と雑魚寝で暮らす師に欠けていた栄養素!!
「愛に飢え、泣きべそをかいていたエルフの小娘が、この後に及んで突き放すような真似など片腹痛い!!寂しがり屋さんめ!!もっと素直になったらどうだ!!!」
赤面する古エルフ!!
「ぐ、ぐぐうーっ!!お、おまえノリヒロ、それを言うのか!!!」
「さあ言え!一緒に行くと言え!!付いてきて欲しいと言うがいい!!!」
レスポンス・バトルによる、ノリヒロの無慈悲な生活力マウンティング!!
世話焼きについて恩に着せようというのではない。世話を焼く原動力となるその愛ゆえに、彼は今、激しく怒っているのだ!!
ノリヒロの言う通り、己の欲に忠実なエルフが、うまいメシ、ポカポカお風呂、あったかい布団を恋しく思わないはずがない。あの日ひとりぼっちで泣いていた古エルフが、ノリヒロとの別れを寂しく思わないはずがない!!
「…よっ弱いくせに口ばかり達者になりおって!!
お前のような雑魚なんぞ、向こうに行ったらすぐにくたばるに決まっとる!!」
「ほおーう。
もしや他のエルフのためなどというのはタテマエで、私の身を案じてくださってるのですか?
では、か弱いみじめなオスエルフの私めを守ってくださいますか?お強いのでしょう?」
なおも煽るノリヒロ!!
「やかましいッ!!!
お前こそ、ワシの親心っちゅうもんを……わからいでかッッ!!!」
弩ッッ!!!
森林鉄山靠!!
体全体を準光速の弾丸と化した、不可避の背面タックル!!
「グワアーッッ!!!」
まともに受けたノリヒロ!!…しかし踏みとどまる!!
脱力と体内森林操作により、運動エネルギーを受け流した!!ノリヒロの背中が爆ぜる!!後方約300キロメートルの森林が蒸発し、ついでに巻き込まれるウサギとサメ!!
「ワシはなあ!お前のためを思って、残れと言っとるのじゃ!!
あっちに行ったら、2度と故郷には戻れんのじゃ!!
ポンティにも、エクストラバージンにも…お前の仲間たちには、もう2度と会えんのじゃ!!」
「…そんなことは分かっている!!!」
踏み込むノリヒロ!両の腕で、古エルフを抱きしめる!!
これはエルブン・ベアハッグ!?はたまた森林拳・大樹さば折り!?……いや、違う!!
ノリヒロの繰り出した技、ただの抱擁!!ノーマル・ハグ!!そして相手はコズミック・チャンピオン、並みのハグでは足りぬ!!
「なんじゃ、この弱っちい力は!!ふざけとるのか!!」
「ぐううううおおおおお!!!!」
全力で師を抱きしめるノリヒロ!!毛細血管がブチ切れ、全身の穴から血が吹き出るほどの力を込める!!
細い古エルフの体が、まるで銀河に根を張る宇宙樹を掴むがごとき感触!!
「なにが宇宙最強の童貞じゃ!!こんな、こんな…弱い…」
「うっ……うええ〜〜ん」
ボロボロと涙を流す古エルフ。
ノリヒロに抱きかかえられたまま、ノリヒロの胸や頭を握りこぶしで叩く。まるで子供の打撃法…しかし古エルフのそれは、一発一発が非常に重い!殺人的な破壊力!!
「勝手なやつじゃ!!ワシの気持ちも知らずに…勝手じゃ!!何なんじゃお前は!!
ボインちゃんたちと楽しく暮らしとけと言っとるのに!」
ガツーン!ガツーン!
「ぐうっ…ぐえっ!!乳がデカければ無条件で愛されるとでも思っているのか!」
「違うのか!?」
「違うとは言い切れない。そこは議論の余地がある…しかし今は乳の話はいい!!」
「…では…一体何なのじゃ。
なぜお前はそこまで、こんなちんちくりんのババアにこだわる。
ワシのことなんぞ、放っておけ…」
「誰がババアです。子供のような見た目のくせに、実年齢と口調は一丁前に老婆気取りですか。
本当に…哀れな娘だ」
「普通は実年齢が優先じゃろ……この馬鹿たれ…ぐすん」
そう、師もまたノリヒロを思い、唐突な別れを切り出したのだ。
そこに愛があればこそ、二匹のエルフは争い、言葉を交わし…その愛ゆえに拳を納めた。それは暴力で白黒を付けるエルフの戦いではない。エルフの戦いではないが…全宇宙の知的生命体が古今東西で繰り広げる、夫婦の戦い!
たとえ肉体的性交渉がなかろうとも、たとえ戸籍に記載がなくとも、たとえ種族や年齢・性別が、一般のそれと大きく異なろうとも。彼ら師弟は、夫婦!!
いびつで不器用なエルブン夫婦喧嘩…決着である!!
「…手加減ありとは言え、ワシの手をさばいたわけじゃ。
わかった、認めてやる…同行を許そう」
さばいたなどとはお世辞にも言えない。出発前だというのに、ノリヒロはすでに満身創痍!
「人をこんなボロ雑巾にしておきながら…少しは素直になられてはいかがです」
「……ふん!!」
ふと、二人の頭上を明るく照らすものがあった。
巨大な四角い光…やがて人型知的生命体が映し出される。オンライン空間投影された大スクリーン越しの、サメ殺し同好会による見送りである!!
何かをまくしたてて喋っているポンティ。号泣するエクストラバージン。パフィニップルや会長のドゥームビッチも泣いている。他の面々も思い思いに、抱き合う師弟…旅立つエルブン夫婦を祝福している!!
「ぐっ…あいつら、こっぱずかしい真似を」
「あの馬鹿どもめ…。
宇宙の真空では、音は伝わらないというのに」
「…何を言ってるかはだいたい見当がつくじゃろ。あいつら、冷やかしとる」
さらば地球、さらばあばずれエルフども。達者でやれ、風邪引くなよ!歯みがけ!!
こうしてノリヒロとその妻である古エルフ、ふたりのエルフはサメ次元へと旅立つ!!
遥か彼方、サメ次元の旅路には何が待ち受けているのか!?鬼が出るか蛇が出るか、どうせサメしか出ないのだ!!
「……よかろう、ノリヒロ!!ワシの負けじゃ!!ならば…宇宙の果てまで付いて来い!!愛する我が夫よ!!!」
「ええ、付いて行きますとも、師匠。愛しております」
お読みいただきありがとうございます。
気になりましたらご評価orブックマークをよろしくお願いいたします。
追記1/17
誤字指摘いただきありがとうございます。
"炭水化物"ではなく"水化物"としている箇所ですが、この広い宇宙…なんと「ケイ素生命」が存在しているのだ!!
彼らは炭素ではなくケイ素を中心とした有機化合物で構成された体を持つ!!
そしてケイ素米を食い、ケイ素ラーメンやケイ素Tボーンステーキなどが大好物の種族!!
宇宙は広く…そして美しい!!!




