月兎舞い、森茂る月、行くか行かぬか男と女!!敗北必至の師弟対決
奥多摩の古民家。
捨て値同然で売り出されていた家屋を、ノリヒロが貯金で買い取ったものだ。
ここで3人のエルフが、数年に渡り共同生活を営んでいた。
ノリヒロ、ポンティ、そして彼らの師匠・ふんどし幼女の古エルフ。
最近では、黒ギャルエルフのエクストラバージンが弟子入りし、メス3オス1のかしましい暮らしとなった。
その生活も今日で最後。明日、ノリヒロと彼らの師匠は、サメの世界へと旅立ってしまうのだ。
家を整理するノリヒロに、エクストラバージンがぽつりと言った。
「あたしのママ……ゴリラと再婚するんだって……」
「そうか、それはおめでとう。
申し訳ないが、予定が詰まっていて式には参列できん」
明日から三次元宇宙に不在となるノリヒロは、平然と応えた。
「違うんだよお…そういうことじゃないの!
汲み取れよッ!!知らないゴリラがパパになる気持ちを!!」
ラブシャークランド襲撃時に明らかとなった、黒ギャルエルフ母子の確執。
エクストラバージンは母との戦いに勝った。しかし彼女とその母エルフ・ネトラレーゼの、ネグレクト気味の母子関係は相変わらずの様子だ。
「…仕方がない、では私がママになってやろう」
「はあ?」
何のジョークか?しかし黒ギャルエルフは、この男のジョークを一度も聞いた試しがなかった。
「でも……ちょっとアリかも。ノリヒロママは変な動物と再婚しないし…構ってくれるし」
「今日の晩飯は何がいい」
「え、ピザとフライドポテト。コーラ」
「太るからダメだ。野菜を食え。
食前にスナック菓子を食うな。ブロッコリーを食え!」
ブロッコリーはエルフに必要な栄養素が全て含まれた完全食品。そう、子供の栄養管理は親の勤め!
「それと風呂から出たらしっかり髪を乾かせ!洗濯物は丸めて出すな!」
「あ…あ……ママ……本当にママだ!?」
「そうだ。私がママだ」
「…それから、私たちがいなくなったら学校に行け。学校を卒業して、サメ殴り以外の選択肢を増やせ」
「…わかってるよ。
でも、ちゃんと帰って来てよね。うちの淫乱ママみたいに、行ったきりじゃヤダよ」
「ああ。
…しかしいつ帰れるかの保証はない。こちらとあちらでは時間の流れも違うそうだ。
お前がいつか宇宙開闢拳を習得したのなら、理論上また会えるだろう。精進しろ」
お互いが永遠のような時間を生き、有位の空間をランダム移動していればいつか再会できる。それは無限を前提に成り立つハイパーロジック。
しかしこのハイパーロジックもまたジョークではない。彼らの師である古エルフがそうであるように、その森林拳を受け継ぐエルフたちにも、かなりの無茶が効く!
「とにかくその宇宙開闢拳とやらを習得したらいいわけね。任せといて」
ポンティもまた、この三次元宇宙に残ることを選んだ。彼女もエクストラバージン同様、エルフとしてはまだまだ若年。今生を楽しむ余地はいくらでもある。
「ほら…あんたって一応、おひいさまのお婿様なわけでしょ。
その二人旅にノコノコ付いていくってのはちょっとね」
「ああ。お前には…なんと言ったら良いのか分からん。元気で…ムガッ」
ふいにノリヒロの口は塞がれた。ポンティの不意打ちキッスで!!
ふたりは森林拳の姉弟弟子として幾度となく殺し合いをした間柄。
戦友?兄妹?よく分からない。とりあえず、気の置けない中ではあった。
「んん…全くよね…一体あんたは何だったのって感じ。
ま、気をつけて行ってらっしゃい。おひいさまを頼んだわよ」
ポンティは口を拭きながら言った。
人類初の月面着陸を果たしたニール・アームストロングはこう語った。
「地球は青かった。あと月にウサギはいなかった」
さらに別の宇宙飛行士たちも、口を揃えてこう語る。
「宇宙人は全然いなかったし、宇宙の真空を泳ぎ回る沢山のサメとか本当にいなかった。何も問題ありません」
何が真実で、何がそうでないのか。
結局のところ、その目で確かめるしかない。
月面を歩くノリヒロは、上空に飛び交うUFO群を見ながら思う。
SHAAAAGH!!!
凶暴化したムーン・ラビットがノリヒロに襲いかかる!!
体長およそ5メートル!月の暮らしに適応し、強靭な心肺能力を持った恐るべきウサギだ!!
ノリヒロはウサギの顎を抑え、遠くへ放り投げる。重力の低い月面を、白いウサギが滑るように飛んでいった。
実際、月から見る地球は、まあまあ青かった。
地球の夜を照らす月。
その月の裏にはサメの巣へ続く次元穴が存在する。つまり…そこを通ればサメ次元へ行くことができる。穴の周辺には、こちらの宇宙に窒息する小ザメたちが、哀れにもがき泳いでいる。
ノリヒロはその垂直下の位置に中継基地を作り、荷造りを進めていた。
呼吸?宇宙線?重力?温度?
そのような問題は、ハイクラスのエルフにとっては全くの些事。ミルフよりエルブン尻子玉を受け取ったノリヒロは、最上級のエルフと遜色のない"森"を持っている。
ノリヒロは最後の荷物チェックを行なう。
無線通信機良し!
緊急時森林パック良し!
米良し!炊飯器良し!
煮しめパック良し!
ブロッコリーファーム良し!
各種調味料良し!
荷物はほとんど食料品!!
すべて丸太シャトルに搭載良し!
空気や水や燃料はおろか、武器や道具の類もだいたいいつでも作り出せる。エルフならではの、ひどく偏った宇宙旅行支度だ。
「ちょっとドキドキしてきた。動悸かのう」
ふんどし幼女の古エルフ。ノリヒロの師匠であり…妻でもある。
「身体が戦に備えているのでしょう。
これから向かう場所は、師匠にとっても未知の場所ですから」
「ああ…そうか。戦いに胸がときめくなんぞ、いつ振りじゃろうか」
「ええ。師匠にとって、さぞ窮屈だったでしょう。戦う敵のいない宇宙は」
「……そうじゃな、ノリヒロ。ワシはずっと寂しかったんじゃ。
他のエルフだけが向こうで楽しんでるなどと…ずるいじゃろ。ワシにもサメを殴らせろ」
ノリヒロの師はあまりに強大な力のために、全力で戦う相手さえいない。観測できる最大級の、大惑星級のサメであっても軽い一発で仕留めてしまうのだ。
「ありがとうよ、ノリヒロ。
お前の後押しのおかげで、ついにワシはみんなの所へ行ける。
お前がワシを変えてくれた」
「…そしてワシだけではない。
ポンティも相変わらずアホじゃが、お前に負けじと強くなった。
エクストラバージンも、サメ殺し同好会の若造どももそうじゃ。お前のひたむきさが、怠けたエルフどもに変化をもたらした。
で、あればこそじゃ」
「…なんですか?改まって」
ノリヒロの師が寂しげに笑う。
その表情はノリヒロに、彼女と出会った時…かつて人間であった時を思い起こさせた。
「やはりお前を連れて行くわけにはいかん。お前はここに残れ。
ワシはもう十分、お前に良くしてもらった。お前のことは、きっと忘れん。
じゃから今度は、この世の…他のエルフたちの面倒を見てやれ。
ポンティでもエクストラバージンでも誰でも良いから、エルフと子を成せ。
お前なら、よりどりみどりじゃろう」
「…いいえ、謹んでお断りいたします。
私は師匠に付いて行きます。どこまでも付いて行きます」
「ダメじゃ。今回あっちへ行くのはワシひとり」
「師匠おひとりで、食事はどうするおつもりですか?誰が風呂を沸かすのですか。
誰が布団の上げ下げをして、誰があんまをするのです」
「そんなもんは要らん。ワシは…敵さえあれば、サメさえいれば十分生きていけるわい」
「師匠。
誤解の無いよう申し上げますが、あなたの世話は私がやりたくてやっていることです。
あなたに要らなくとも私には必要だ。私は私のエゴで、あなたに付いて行くのです」
「どうしてもか」
「どうしてもです」
「ならば致し方あるまい」
「はい」
「…お前はずいぶん強くなったな。
お前がポンティに殺されかけとったのは、つい昨日のことように感じられるが…」
「はい。
実際、昨晩の…あのエルブン・ベルセルクアーマーを着て暴れるポンティは、かなり手強かった」
「…手加減の具合を間違って、手足の数本が消し飛んでも恨むなよ。
覚悟せえ、ノリヒロ」
「覚悟ですか?それなら最初から出来ております。
私がかつて人間であった時から、ずっと」
エルフの意見が割れた時…それすなわち、戦いの時。
ずん!
ふんどし幼女の古エルフと、ふんどしオスエルフのノリヒロの踏みしめる月面に…草が生え、森が広がる!
たちまち月が、豊かな緑の星となる!!
「お前はここに置いてゆく!!ノリヒロ、達者で暮らせッ!!!」
「お断りだ。
例え世界の果てであろうとも、あなたには…キッチリ三食召し上がっていただく!」
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