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共に行こう、さいはての地へ

 ノリヒロらはサメ殺し同好会の慰安旅行で、宇宙温泉旅館に来ていた。

 旅館の中庭には小惑星が浮かび、そこで濾過された星のしずくが非線形の小川となって流れ…惑星環のスペースししおどしを不定期に鳴らす、ギャラクティカ(みやび)


 カポーン!


 ノリヒロとその師、ふんどし幼女の古エルフは中庭の縁に座っている。あまりにも広く、仮に地球の全人類が団体客で訪れたとしても実質的貸切空間!



「師匠。デスアクメ老師のこと…心中お察しいたします」


 サメの発生源であるサメ次元へと旅立った、古エルフ・デスアクメ。

 サメ殺し同好会の古い仲間がひとり、この宇宙から去ったのだ。事実上、今生の別れとなる。


「…まったく、勝手なやつじゃ。ろくに挨拶もなく行きおった。

しかしまあ、あっちで元気にサメを殴っているなら…寂しく思うことではないのじゃがのう」


 師を取り巻くマイナスイオンも、どこか物憂げなアンビエントを漂わせている。

 行ったのはデスアクメ老師だけではない。かつての古い仲間たちが、サメ次元の向こうで今もサメ殴りを楽しんでいる…かも知れない。そう思えば、恋しくも、侘しくもなるだろう。



「エルフとは…不自由な生き物です」


「ほう。なぜそう思う」


「人間は心も体も弱い。そのために、お互いに支え合います。弱さゆえに強く結びつくのです。

…反対に、エルフは強い。そしてその強さゆえに弱い」


(もと)人間らしい意見じゃの」


「強いエルフを支える者は、この世のどこにもありません。

その心は弱く、その体は強すぎる。それゆえ…究極のところ、サメを殴るほかない」


 つがいを求めても、その強さゆえに(しとね)を共にすることさえ危うい。

 エルフの寝返りで死んでしまった人間の悲恋物語は史実。エルフの放屁で家屋が吹き飛んだ物語も史実。エルフの垢がひとりでに歩き出し、金棒を振り回して村々を滅ぼした物語も史実。エルフ由来の民話のいくつかは、皆さまもご存知であろう。


 まるでこの世界と切り離され、おとぎ話や神話の世界に放り出されたエルフという生き物。

 使命と狂気に己を駆り立てるしか、孤独を癒す術がない。

 セックス・アンド・デストロイ。その対象の不在!!それはやがてサメ殴りに至る、エルフの宿業。


 もはやエルフという種族が、単に戦う相手であるという以上に…"サメを愛している"と言っても良い。



 ノリヒロは改まって師に尋ねる。

「師匠もいずれ、あのサメ次元に行かれるおつもりでしょうか」


「……うーん。そうじゃなあ…」


 師としては珍しく歯切れの悪い返答である。ノリヒロは続けた。

「あらかじめ言っておきますが、行かれる前にはご一報ください。お供いたします」


「……ノリヒロ。

ワシは一体、いつまで待っておればいいんじゃろうな」


「師匠?」



 カポーン!


「…まあなんじゃ、サメの話はよそう。

それよりノリヒロや、お前は今回もよく頑張ったな。お前はワシの自慢の夫じゃ」


「ありがとうございます、師匠。

…しかし今は私のことは結構です。サメの話…いえ、師匠ご自身の話をしましょう」


「……うーん…」


「サメ次元へ行かれたいのですか。サメを殴りに行きたいのでしょう」


「……うーん…」


「待つとは、一体…どのようなことでしょうか。私どもの力量不足でしょうか」


「それも理由になるかもしれんが…色々じゃ。

……ワシがあっちへ行く番は最後じゃと、むかし誰かが言っとった気がする。

いったい誰じゃったか…」


「俺だぜ」


「そうか、お前か。…誰じゃ、お前は?」


「お前は…グリーンアルパカ!?」



 突如として温泉旅館の中庭に現れたグリーンアルパカ!!

 それは集合的無意識の世界"根の国"にて原始ブロッコリーをむさぼっていた、"はじまりのエルフ"の実子を騙るケダモノ!!

 なぜここに?なぜ浮いている?

 そしてその背には金髪巨乳メスエルフ・ポンティが寝そべっている。


「めちゃくちゃ座り心地が良いの…こいつ。やばい…エロい…」


「だろう?イデアルな座り心地だと自負しているぜ。エルフの女子を乗せるためだけに生きてきたんだ」


「なんなんじゃ。この緑色の珍獣は」


「おいおい、また忘れたのかよ?

全く脳みそってやつは不便だな。俺はお前のお兄ちゃんだ」


「お前がワシの兄?冗談じゃろ…」



 カポーン!

 アルパカはふんどし幼女の古エルフに語りはじめる。


「…この説明するのも何度目だろうな。

いいか。他のどのエルフがサメ次元へ殴り込みに行ってもいいが、お前がサメ殴りに行くのは最後の最後だ。

次のビッグクランチが起きたとき、誰が宇宙を守るんだ?」


「なんじゃその、ビッグクランチとは」


「千億年に一度の、サメの大侵攻だ。

見たこともねえサメがわんさか湧いて出てくる…それも覚えてねえのか?ほんとに全部忘れちまったのかよ」



 ビッグクランチ!!

 クランチ、すなわち大いなるサメの咀嚼(そしゃく)

 惑星級よりもさらに大きなサメ、星系級や銀河級のサメが、サメ次元からごまんと押し寄せてくる。

 エルフにとって、サメ殴り放題のボーナスタイム…とは言えない。


 それは宇宙の終焉である。


 サメに蹂躙され、身の置き所の絶えた宇宙…その代わりに新しい宇宙を作るのが、エルフの姫・ふんどし幼女の古エルフの仕事。

 そう、森林拳・宇宙開闢拳!

 エルフの住まう森…そして広義の森としての、宇宙を作り出す技だ。



「エルフのプリンセスは伊達じゃねえぞ。とにかく、他のエルフとはわけが違うってわけだ。

ど〜〜〜しても行くってんなら、せめてビッグバンくらいできる奴を用意してからにしてくれ。

俺たちの子孫の中で、それができた奴は…今まで一人もいないけどな」


「そうか……そう言われてみれば、そうじゃった気もする。

すまんの。何億年と言われても、そう昔のことは覚えておられん」


「そうよねえ。私も、昨日何食べたかも覚えてないし…」


「確かに…お前にとって、この宇宙は退屈かも知れねえ。全力でぶつかるような相手もいねえ。

でもよ、みんな頑張って生きてる。ノリヒロたちだって、お前のために頑張ってるだろ?

それじゃあこいつらを守ってやるのが、強者の情けってもんだ。サメ殴りは我慢してくれ、クローディア」


「…うむ。

クローディア…ずっと昔にその名で呼ばれていた気がする」



 カポーン!



 アルパカの話を、ノリヒロはじっと黙り込んで聞いていた。その彼が、怒気をこめて口を開く。

「…やはりお前はアルパカだ。いくら長く生きていようとも、エルフの風下にも置けん」


「はあ!!?なんだノリヒロこの野郎!!女を背に乗せたこの俺の真の強さ、見せてやる!!」


 アルパカの頭突きを回し受けでいなす!ノリヒロのエルブンフックがアルパカの右頬に刺さる!!

「グホアッ!!」


「ごちゃごちゃと理屈を並べて、我慢を強いるのがエルフのやり方か?

師匠がエルフの姫だと言うのであれば…なおのこと、その御心を叶えて差し上げるべきだろう」


「は?お前、正気か?わかってんのか?

いやわかるわけがねえ、宇宙全体の話だぞ!下手こくとみんな死んじゃうぞ!!」


「ならば死ね!!!」


「野郎おッ!!」


 アルパカの頭突きを回し受けでいなす!ノリヒロのエルブンフックがアルパカの左頬に刺さる!!

「グホオッ!!て、てめえ!!?エルフのくせに…動物とか、もっと大事にしやがれ!!」



「何が役割だ。何が宇宙だ!!

私にエルフを…師匠を癒せと言ったのは貴様だろうが!

貴様の言う癒しとは何だ!!辛く苦しい過去を、ただ忘れさせることか!!

かつての仲間の顔も忘れて、長い生をただ長く生きることか。適当に並べ立てた嘘で、だましだまし日々を生きることか!!

この宇宙とサメ殴り、どっちが大事だ!?考えるまでもない!!」


「おい待て、そこは考えろ…」

 うろたえるアルパカ!そして叫ぶノリヒロ!!



「師匠を癒すためならば……こんな宇宙など、くれてやれ!!!」



「…ノリヒロ」

 師である古エルフは声を漏らした。かつてここまで自らを…サメ殴りへと駆り立ててくれた者があっただろうか。


 対して、その兄であるアルパカは激怒した。

「若造め。そんなの……てめえノリヒロ、お兄ちゃんは認めねえぞ!!!」


 アルパシック・バトルフォームへと移行するグリーンアルパカ!!その毛量が膨れ上がる!!しかしポンティがそれをなだめ、顎の毛をわしゃわしゃと撫でつつ言った。


「まあまあ…みんな落ち着きなさいよ。どうどう。

話はよくわかんないけれど、別にちょろっと行って殴って、また帰って来ればいいんじゃないの?

そんな大げさな話じゃないでしょ」


「ああ〜…いい気持ちだあ……違う!!

サメ次元は一方通行。エルフが向こうへ行ったら、もう二度と帰ってこられねえ!

俺の兄弟たちだってそうだ。良い奴はみんな向こうへ行って…俺みたいな悪党だけが……ああ〜」


 わしゃわしゃわしゃわしゃ


 ノリヒロは師に尋ねた。

「師匠、あなたはどうされたいのですか」


「…ワシは……そうじゃなあ」



 カポーン!


「ワシは、みんなに会いたい。そして…サメを思いっきり殴りたい」


「ならば成すことは決まっております。共に行きましょう、サメを殴りに!!」

お読みいただきありがとうございます。

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