アセンション・オブ・デスアクメ
ふんどしのオスエルフ・ノリヒロと年増のメスエルフ・ミルフ、打ち合う二匹のエルフ。しかしすでに戦いの趨勢は決していた。ノリヒロの拳はただの拳法ではない。ミルフさえ知らない神秘の力、"はじまりのエルフ"が用いた森羅とのまぐわい。
エルブン・ボウの炎がスギの大樹へと変わる。拳を交わすたび、衝撃が緑の葉となり生い茂る。踏みしめた大地から、イヌコウジュやセンブリの野草が伸びる。
決着が着く頃には、バトルフィールドはひとつの森林…ノリヒロにとって馴染み深い、奥多摩の森へと変貌していた。
「現実から目を背け続けるのがエルフという生き物。
私たち似た者同士、なぜ仲良くできないのかしら?」
「一緒にするな!サメは…殴れば死ぬ。これは真実だ!!」
「殴ったくらいでサメが死ぬわけがないでしょう」
「違う!サメは殴れば死ぬ!殴れば死ぬのだ!!」
「どんなにがんばっても…結局みんな、サメに消化される運命なの」
「サメは…死ぬのだ!!」
最後の言葉を交わす二匹のエルフ。
リンパを掌握したノリヒロの森林貫手は、ミルフの心臓を貫いていた。
「げほっ。せいぜいがんばって、ノリヒロさん。永遠のサメ殴りを……
ほんの短い間だけれど、あなたと一緒にいると……楽しかったわ」
落ち葉舞い、鬱蒼と木々が生い茂る擬似奥多摩森林の中、地に崩れ伏すミルフ!!
…決着である!!
しかしサメ化したアーク級のエルフ、その生命力は計り知れない。完全に消滅させなければ、まさにサメのように復活しかねない。
ミルフの死体を寸刻みにすべく、決意を固め森林拳・イチイの構えを取るノリヒロ!…の腕を、制する者があった。
太い指。黒い毛に覆われたたくましい腕。大きな体に優しげな瞳、何かを咀嚼する甘い口元…
「ゴリラだと!?」
そう、ゴリラがノリヒロを止めた!!そしてノリヒロを制する者はゴリラだけではない。
「殺しちゃダメだ、ノリヒロ。言っただろ?癒すんだ」
グリーンアルパカ!?なぜここに…?
「ノリヒロ、殺しちゃダメ」
リス!?異常に甲高い声!!
「「「ノリヒロ!!」」」
ネコ!!ウサギ!!バイコーン!!奥多摩に生息する森の動物たちが踊りながら歌い出す!!
ノーリッヒーロー 殺しちゃダーメッさ〜♪
貴重なおっぱい 疲れたハート 癒してー あーげーてええええええ〜(ビブラート)
「ぐっ!!………わかった!!」
悪夢のような動物たちの即席ミュージカルを前に、ノリヒロはミルフの首刈りを断念した。確かに彼らの言う通り、おっぱいは貴重!
森の動物たちは、ミルフを連れて去っていった。
しかしまだラブシャークランドを舞台とするエルブンウォーは終わっていない。これはサメ殺し同好会とダークエルフによる戦争。そしてアーク級のエルフは中ボス格…真のボスは当然サメだ。
そう、殺すべきはサメ!次元の壁をこじ開けてこちらの世界に顕現せんとする、惑星級のサメ!!
ダークシンデレラ城天守閣、最上階!!
ラブシャークランドの中心にして、アーク級ダークエルフたちによる邪悪なサメ降臨儀式の場。つまり災禍の根源!
床にはエルブン尻子玉が規則的に配置された、サメ召喚の魔法陣!壁にはサメのタペストリー!在庫のエルブン尻子玉や、物販用のサメブックが山積みだ!!
「ヒヒヒ。ノリヒロ、よくやったね。年齢100倍以上のエルフを倒すなんて、大金星だねえ」
天守閣最上階・サメ召喚部屋に駆け込んだノリヒロを、老婆の古エルフが出迎えた。サメ殺し同好会・デスアクメ老師である。
「…デスアクメ老師!?なぜここに…?」
「あ…あ…デーモン…エル…フ」
アーク級エルフのひとりにして、サメ婚団体の首領・フタナリクリスタル。
なぜか同性にモテるが、自身の性趣向は至ってノーマル。存在しない男性エルフの尻を夢見て、やがて歪んだ悲しきエルフ。
そのフタナリクリスタルが無様に痙攣しながら倒れ伏している。血や小便、何らかの体液等を撒き散らして!
「ああ、こいつ?あたしにかかればこんなもんだよ。森を使うまでもないよねえ」
バリーン!天守閣の窓から飛び込むポンティ!
「ノリヒロ!勝ったのね」
ここへ来たということは、彼女もまたアーク級の敵エルフに勝利したということだ。
「…飴ちゃんの在庫全部と、腕4本ぶち込んだら大人しくなったわ」
一体どこにどのようにぶち込んだのか。
「他の連中もなんとか相打ちまでには持ちこんだみたい。
敵も味方も全部、あのふざけた森の動物たちが回収しているわよ」
ジャイアントナース、ギガダイク、ネトラレーゼ、パブリックトイレット、ポルチオエステ(ミルフ)。
老師の足元に痙攣しながら転がってるフタナリクリスタルを含めると、アーク級のダークエルフ全6匹の討伐が終わった。しかしサメ殺し同好会の面々も無事では済まなかったようだ。
激しい戦いによって全身の骨がぶち折れ、四肢がちぎれ飛び、あるいはアクメ死を迎えたダークエルフ・ダークコアラたち。彼らは全てエルブン城地下の肥溜めに運ばれ、蘇生処置が施されるだろう。
ひとまずエルフ同士の戦いは、ノリヒロたちサメ殺し同好会の勝利!!さあ、次はサメ殴りだ!!
「老師、ここは危険です。もうすぐサメとの戦いが始まる。避難なさってください」
ノリヒロもポンティも、多くのサメを殺してきた。宇宙船サイズのサメも何度も殺した。スペースコロニーサイズのサメも、時間をかけて殺したことがある。しかし惑星サイズとは…未だかつて戦ったことがない。
どのような戦いになるのか想像もつかない…いやしかし、考えるまでもないのだ。殴って殺す、それだけだ!!
「ん〜。そうだねえ。お前たちがこの調子で気張ったら、あのサイズのサメちゃんにも勝てるかも知れないねえ。
…ただ、お前たちのどっちかは死ぬかもねえ。
デカいサメってのは、ただ体を大きくしただけじゃないんだよね。アメーバと象だって、色々違うだろう?」
「…おっしゃる通りです」
ノリヒロはスペースコロニー級、サメロードを思い出す。体積比で考えても、数百から数千倍。もっとあるだろうか?
惑星サイズのサメ…一体何発殴ればいいのだろうか!!
「ま、今回はやんなくていいよ。お前たちの力は十分わかった。合格合格。ヒヒヒ」
老婆エルフのデスアクメはヘラヘラと言った。
「…え?」
「ヒヒ、姫ちゃんたちも聞こえてるんだろ。便利なトークンでね」
────
「ばっちし聞こえておるぞ」
ラブシャークランドとは次元を隔てたエルブン城、ふんどし幼女の古エルフが答えた。
便利なポータブルトークンの機能によって、タイムラグ無しの無線通話が可能!
「デスアクメ様!?トイレかと思ったら、戦地に赴いていただなんて」
「丸太ミサイルにくっついて行ってたんじゃな…
こら、アクメちゃん、まさか勝手に行くつもりか。ワシに断りもせずに!!」
「やはり…行かれるおつもりでしたか」
「…行くって、どこにです?」
パフィニップルが尋ねる。彼女はエルフの中ではまだ若く、古いエルフのしきたりについて把握しきってはいない。
サメ殺し同好会会長のドゥームビッチが応える。ひとまずの勝利とは裏腹に、深刻そうな面持ちだ。
「……こっちのサメが分泌物のようなものとは、あのミルフとやらの言った通りだ。
サメとの戦いとは全て防衛戦に過ぎん。無限に湧いてくるサメから、宇宙を守る戦いだ」
ドゥームビッチは顔をしかめ、その目を閉じた。比較的古参の彼女には、デスアクメの行動の意味が分かっていた。
「デスアクメ様は、敵地へと赴こうとされているのだ。全てのサメが発生する源、サメ次元へ」
サメ次元。
全てのサメがそこからやって来る、n次元宇宙の外側に位置するところ。
地球のエルフ文献、北欧神話における死後の世界・ヴァルハラに当たる。勇敢な戦士たちが召され、無限の戦いに明け暮れるという場所。美しいヴァルキリーエルフが住まうという…そのいくつかのエピソードは、エルフとサメとの戦いを元にした事実である。
「惑星級のサメがこちらへ降りようとしている穴を逆に通れば、向こうへ行ける。
終わらない防衛ではなく、攻めることができる」
エルフがサメ次元に向かえば、理論上ではサメの発生源を直接叩くことができる。あらゆる災厄の発生源、外宇宙の深淵…すなわち宇宙を消化し押し潰さんとする、大いなるサメの胃壁。
しかし一度サメ次元に行って、帰って来たエルフはいない。
ドゥームビッチはため息混じりに言った。
「私のような若輩がサメ殺し同好会の会長をやっているのは、つまりそういう理由だ。
数万数十万年生きたアーク級の先輩たち…元老院の古エルフ。天の川銀河の古参エルフは、すでに皆、あちらへ行ってしまった…」
「そういうことじゃ。
強いエルフほど、早まってあっちへ行ってしまう…みな達者でやっていればよいのじゃがのう」
宇宙は膨張しているとも縮小しているとも言われている。それは奇妙なことに、両方とも正しい説である。
なぜなら宇宙とは…その外壁にあたるサメの胃袋を、古のエルフたちが殴り続けることによって保たれているのだ!!大いなるサメ殴り、その成果の上に成り立つ現在の多元宇宙!!
念の為記しておくと、このES宇宙モデルは全くの真実である。
「いずれにせよ奴らがどうなっているか、今のワシらには知ることができん。
ある者はサメ殴りの片道旅行のまっ最中かも知れんし、実はもうほとんどくたばっておるのかも知れん。
…とにかくワシの番が来るまでには、お前たちに仕上がってもらわねばな」
────
「そういうことだよねえ。
姫ちゃんは別格だけど、あたしみたいなババアがこっちに居残りしていたのは、お前たち後進育成のためさ。でもまあ、お前たちならもう大丈夫でしょ……カアアアー!ペッ!!」
デスアクメ老師は語りながら、ひとつの宝石を吐き出した。
光を吸い込む黒緑の球体…自身のエルブン尻子玉である。デスアクメはおもむろにそれを自らの肛門に差し入れる。
「…うん!ふう」
…ノリヒロとポンティの肌が泡立った。
それは老婆エルフによる公開浣腸のおぞましさによるものではない。デスアクメが胃袋に隠していた森林、それが本来の位置へと戻ったのだ。
古エルフの圧倒的体内森林の発露。未熟なエルフであれば、泡を吹いて失禁しながら卒倒するほどのマイナスイオンが天守閣に充満する!!
「最近はこっちのサメちゃんたちがやたら元気だから…向こうのエルフが押されてるってことかもしんないよね。
ま、これはただの予想だけど。あっちのことはどうなってるか、全然わかんないから」
そう語るデスアクメの姿は、老婆ではなかった。
曲がった背筋が伸び、肌にハリと艶が戻っている。白い大蛇のように長い手足。緑金の髪がイオンにうねり、シャンプーのCMのようにゆらめく!乳も尻も大きく、ウエストがくびれている!!
恐怖を感じさせるほどの美しさと、心のうちに秘められた残忍性。まるでエルブン神話に伝わるデーモンエルフ…ではない。
数百万年の生を経たデスアクメは、まさに神話のデーモンエルフご本人様なのだ。
あまりの急展開に混乱するポンティ!
「一体どういうこと!?おばあちゃんが若返った!!??
そして敵地にいるってことは…まさか、裏切り者!!?」
「…お前は今までの話を聞いてなかったのか。黙っていろ!」
天守閣のバルコニーへゆったりと歩くデスアクメ。
キャットウォーク。そのモデルの歩法は、人類史より以前から存在していたのだ…そうノリヒロは考えた。
地には森、空には赤黒い雲のようなサメ時空の間隙。そして真っ黒大きなお月様、サメの瞳が浮かんでいる。
デスアクメは立ち止まり、じっと何かを思い出しているようだった。彼女のあまりにも長いエルフ生において、このような奇異な光景を何度も見てきたのだろう。
サメ殺し同好会のような、馬鹿でスケべなエルフたちと、幾度となく出会い別れてきたのだろう。
「…ああ、やっぱし若いっていいよねえ。精一杯、全力で間違えるんだ。
あたしらも馬鹿なこと沢山やったんだよね………みんなと一緒に……」
「デスアクメ老師…」
「あんたたちの頑張り、このお祭り騒ぎ、カチカチに乾いたあたしも、大いに潤った。
ありがとうよ、ノリヒロ、ポンティ。姫ちゃんと仲良くね。…ドゥームビッチ!!お前はもうちょいシャンとしな!!」
ポータブルトークンから泣き声が聞こえる。ドゥームビッチ会長が何か言っているのだろう。
デスアクメの深い森呼吸。
体内森林由来の光り輝くマイナスイオンが物質化し、デスアクメの体を包む。ミスリル銀のエルブン戦闘服を象っていく!
抵抗を減らす曲線の鎧!推力を増すイオンブースター!飛行に適した揚力とコントロールを生むための翼!これぞ神話に伝わるヴァルキリー。すなわち生ける対サメ戦略爆撃機と化したエルフの姿!!
一機のヴァルキリー戦闘機となったデスアクメは、惑星級のサメの元へと飛び去る。
数秒のち、まばゆい光と轟音が空を満たすと…あとには青い空だけが広がっていた。
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