サメに狂った二匹のエルフ!掌握せよ、リンパの極み
ノリヒロはミルフと戦って以来、超過密スケジュールでハックスラッシュ方式の鍛錬を重ねてきた。
サメ殺し!サメ殺し!ゴブリン退治!サメ殺し!サメマフィアの殲滅!友との別れ!宇宙海賊退治!ポンティの裏切り!サメ殺し!聖なるアルパカとの謁見!!
…全てはミルフを殺すため!!
ノリヒロは広げた両腕を直角に曲げ、森林拳・イチイの構えを取る。
花言葉はシンプル至極。"死"の一言!
「以前と同じだと思うなよ。お前と戦って以来、この日のために生きてきた。お前を殺す時を待ち望んでいたのだ」
「…なんで?私、あなたに何か悪いことしたかしら。そこまであなたに嫌われる心当たりがないのだけれど」
ミルフは風になびく髪をかき上げる。薄手のドレスにボディラインが透けている。ノリヒロの殺意を浴びながらも、リラックスした様子だ。
ズズン……
市街地の爆発音が響く。同好会メンバーが、他のアーク級エルフと交戦しているのだ。
「…お前が退屈しのぎに人々の命を奪おうと、私にとっては関係のない話だ。
エルフの尻子玉を奪ったことや、この地に訪れた若いエルフを騙して仲間に引き入れようと、どうでも良い」
「生き餌として、サメにエルフや原住民を食わせようが、傘下のサメ組織によりサメ麻薬を大規模流通させようが、サメ背乗り行為によって星間戦争を仕掛けようと、サメ汚染を広げることで宇宙全体の寿命を縮めようと、やはりどうでも良い」
「…そう。意外にも、ちゃんとわたしたちのこと分かってるのね。サメのことも」
「お前はサメだ。エルフの形をしたサメだ。だから殺す。理由はそれだけだ」
エルフにとってサメは敵、つまりノリヒロの師の敵。
アステロイド級…つまり惑星サイズのサメの瞳が、空からラブシャークランドを見下ろしている。
エルブンスペース上空の大穴。そのあまりの巨大さのため、一般エルフが見てもせいぜいエルブン・プロジェクション・マッピングによるデコレーションとしてしか認識されないだろう。
「サメ殺し同好会ねえ。
あのアステロイド級ですら、影…あっちの通り道。…生き物で例えるなら、消化酵素とか、細胞のひとかけらみたいなもの。
ねえ、だからサメを殺すなんて原理的に不可能なのよ。本当はわかってるでしょ?実物のサメは、この宇宙全部より大きいの。物理も数理も因果も丸呑みにしている相手を、一体どうやって殺すっていうの?」
「お前は頭が悪いのか?殴って殺すに決まっているだろう」
「……そう」
目の前の狂人に、ミルフは憐れみの眼差しを向ける。それはサメに魅入られ、ほとんどの全て感情を失ったミルフに残された、エルフとしての残滓であった。
「あなたのマッサージは惜しいけれど、ここまで話が通じないのなら……仕方ないわね!」
ゴオオオオオオオオオオオッ!!
ミルフの無動作エルブン・ボウ!!
ノリヒロが立っていた局所に12000℃の青い炎柱が発生!生命体が炭も残らず蒸発する温度!!
ああ、何ということだ!!ノリヒロは回避する間もなく、ミルフの遠隔エルブン・ボウをまともに受けてしまった!!…さらば……さらば、ノリヒロ!!
「さようなら、ノリヒロさん。
私たちはもしかしたら、似た者同士だったのかしら。サメに狂った二人のエルフ…」
────
時はさかのぼり、ミルフと戦う一週間前。
森林拳の最終奥義、内観の修行。通常の生物が持つ五感に加え、さらに五つのエルブンセンスを閉ざすことで、体内森林の奥深くに意識を沈める。
そして向かうは根の国。…全てのエルフが共有する、集合的無意識の地平。
エルフのはじまりを知る者。霊的存在として、ノリヒロが普段生活する宇宙の開闢よりも以前から存在するエルフ、聖なるアルパカとの邂逅である。
山盛りのブロッコリーをポップコーン代わりに、大自然や野生動物の神秘ポルノ映像を鑑賞するノリヒロとグリーンアルパカ。3000分の1秒ごとに炭酸飲料を飲むメスエルフや、パンツの染み、曼荼羅状の画像が挟まれる。ノリヒロのエルブン知覚にとっては静止画にも等しく、そのサブリミナルの意図がよくわからない。
聖なるグリーンアルパカはブロッコリーを頬張り、紫色のスムージーを飲みながら言った。
「原種のエルフ…つまりサメに食われる以前のエルフには性別なんてなかった。女の子同士で子供を作れたんだ。どうだい、ステキだろう?」
「…いや、別に。要するにナメクジとかと同じだろう」
ノリヒロは答えた。最古のエルフの食物であるというブロッコリーは、ただならぬ味がする。脳の外側にある味だ。
「クソが!!女の子同士のエルブン・カップルをその背に乗せるロマンがわかんねえか!!全アルパカの夢なんだぞ!?」
「ふざけるな!アルパカの性癖を知るためにわざわざ死にかけたのでは無い!!」
現実世界のノリヒロは目玉と鼓膜と舌と皮膚を破壊し、全身の血液を抜き取った仮死状態にある。一歩間違えればそのまま死ぬ…というより実質死んでいる過酷な修行。
しかし漫然とした鍛錬ではいずれにせよ死ぬ。ミルフや、もっと巨大なサメを相手にした際に、ノリヒロの小さな体内森林、そして未だ未熟な森林拳では全く足りない。
「エルブン百合ップルの良さ、お前の脳みそに直接分からせてやる!!」
グリーンアルパカの頭突きを回し受けでいなすと、ノリヒロは左腕でロックしたアルパカヘッドを殴った。何度も。
「グホッ!!お前!!許されんぞ!…こんなこと!…やめろ!やめろー!!わかった!わかったから一旦止めろ!?」
「わかったなら有益な情報を寄越せ」
「……フウウウウウ。そもそもエルフとは何だ。馬鹿でスケべな宇宙人か?
元はといえばサメと同じように宇宙の外側にいたんだろ。なのにどうしてこんなに弱いんだ?おかしいと思わんか」
「エルフが、弱い…?」
エルフ。体の内側に森林を持つ、珍妙な知的生命体。物理法則を思いのままに捻じ曲げ、他の宇宙生命体とは一線を画する強さを持つ…。しかし大いなるサメ存在を前にして、あまりに無力。
VTRではサメの出産の様子が映し出されている。卵胎生のサメは、母親の体内で卵から孵り…子供同士の戦いに勝ち残った者だけが外へ出られる。そして外へ出たサメは口からビームを吐き、惑星を焼き払うのだ。子サメが、である。
「"はじまりのエルフ"…つまりサメに食われたエルフは、ひとりぼっちだった。一緒に食われた他のエルフは傷ついて死んじまってな。
故郷に帰ることもできず、ガラクタまみれの胃袋で消化を待つだけ。
孤独だった。どうしようもなく寂しかったんだ。
それで仕方がなく、同じように食われた"ガラクタ"と交わることで、この宇宙を作り出したってわけだ」
はじまりのエルフが宇宙を産んだ。時間や空間を生み出すことでそれに縛られ、エルフは自由を失った。そして孤独と忘却が、エルフを苛む存在論的病となった。古エルフ神話、宇宙創生の章に記された通りである。
"森羅は遠く、万象はエルフの子として満ちた。"
「つまり…俺たちは皆、不完全なエルフなんだ。不完全な森林…反復する時間の中で、俺たちのママと同じ過ちを繰り返す…」
「わからん。サメを殺すことと何の関係があるのだ」
「元ヒューマンのオスエルフ、ノリヒロ。おめえは見込みがあるぜ。
ヒューマンはイイ…特にいかれたジャパニーズはな……知覚の拡張性…つまり想像力が…俺たちが忘れちまったものを……代わりに思い出させてくれる」
アルパカの姿が霞む。いや、霞んでいるのはノリヒロの意識だ。
「おい、一体何の話をしている!もっと具体的な話をしろ!!このスペースボノボの映像は何なのだ!!」
「俺の異父兄妹たちを癒して…悲願を叶えてくれ……女の子同士の…エルブン・カップルを……」
遠のくノリヒロの意識。ノリヒロの魂が、エルブン生存本能によって、根の国から現世へと引き上げられようとしている!
「待て!まだ何も教わっていないぞ!!」
「だいじょぶ……お前は…イイ感じ……
一番下の…いもうと……クロ………たのむぜ……」
「アルパカああああああ!!!」
────
アーク級エルフの高等技術、遠隔エルブン・ボウの炎に包まれたノリヒロ。死を間際にした走馬灯により、彼は根の国のビジョンを引き出していた。
アルパカの言葉や、その緑色に輝くモコモコした毛ではない。VTRで垂れ流しになっていた、動物たちの交尾…噴出するマグマ…惑星の一生…それらの背後に広がるマンダラ森林的イメージ図。
ノリヒロはその意味を理解した。
ナショナル・ジオ・ポルノビデオでほのめかされた、神聖なるまぐわいの作法。すなわち"はじまりのエルフ"が森羅万象を生み出した森林48手がひとつ、燃え盛る炎を制した体位。
その名も森林18手・火燵篝。
12000℃の青い炎。恒星の表面温度の炎程度、エルフにとっては……真のエルフにとっては、10分ポッキリの性交渉相手!!
「…あなた、そんな真似ができたの?」
ミルフは驚愕し、三つの瞳を見開いた。それは彼女の長いエルフ生でも初めて目の当たりにする光景である。
「言っただろう、以前の私とは違うと」
衣類が焼失したふんどし一丁のオスエルフ、ノリヒロ。
彼の手の中で、青い炎が…喘いでいる!!まるで感じやすい1匹のメスエルフのように、炎の渦が弄ばれている!!
「わからない!あなたは…一体何をやっているの!?」
「お前にはすでに見せたはずだ。リンパマッサージ、その応用だ」
拡張された森林、すなわち森羅万象との相生相克!みなさんも、やっていることですから!!
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