鬼の目にも涙、ふんどしエルフの目に煮しめ!童貞エルフの恋バナ語り
尻子玉探しの旅から、帰還の途につくエルブンスターシップ。
惑星カナガワを含む星系がダークエルフの縄張りであるとわかった以上、エルブン尻子玉探しどころの話では無い。もし連中が敵対エルフ…ノリヒロとエクストラバージンを惑星ごと破壊しようとしたのなら、今の彼らには対抗する術がない。逗留を続けるには危ういというパフィニップルらの判断だ。
尻子玉を盗まれたエルフたちには、代わりに緑の風船羊羹を100個土産に買って帰ることにした。これを彼らの直腸にねじ込んでおけば、しばらくはエルブン尻子玉の代わりになるだろう。
スターシップ内、ノリヒロは格闘もののコミックスを読んでいる。
次会う時こそは必ずミルフを殺す。さもなければ殺される。仮想ミルフとのイマジナリーバトルを交えつつ、コミックスからミルフを殺すためのヒントを探しているのだ。
一方のエクストラバージンは…ノリヒロのことが気になって仕方がない。それは時折繰り出される、彼の奇妙な動きを伴う新技開発がゆえではない。
ヴァ
超振動するノリヒロの右腕。
「森林無空波……ニィ……」
「…あのさ、ノリヒロ。ちょっと話しても、いい?」
「なんだ」
「ノリヒロって…師匠と結婚してるってマジなの?」
「ああ。マジだ」
「ふーん………そっか」
最初に会ったノリヒロの印象は、コミックスに登場するオークめいた雑魚エルフでしかなかった。
その後の公開エルブン組手により、森林力とは全く異なる芯の強さを見せつけ…今のノリヒロは、たくましい一人のグレーターエルフのオスへと成長している。
弱かった頃から一貫して、熊やライオンと戦う勇敢な犬サモエドのように、臆することなく格上に立ち向かう。同じオスでも、そこらのコアラとは全然違う。正直、かなりカッコいいかも!?
「ねえねえ、なんでそうなったのか聞いてもいい?」
「私が一方的に告白した。師匠は快く応じて下さった」
「そうなんだ!?師匠のどういうとこが好きなの?」
「ふん。変態ロリコンおじさんだと思いたければ思ってくれてかまわん」
「いや、そうは思わないよ。っていうかロリコンかどうかは分かんないけど。
ノリヒロってガチだし、ガチ恋なんでしょ?馴れ初め的な?教えてよ」
「…ある時師匠が、私が作った煮しめを食べた」
「うん」
「うまいうまいと言いながらな。…それで、一生仕えようと思った」
「うん」
ヴァ
おもむろに両腕を超振動させるノリヒロ。
エクストラバージンは尋ねる。
「…え、終わり?」
「終わりだ」
「全然分かんねえ!奥ゆかし過ぎか!?経緯とか細かい心境の変化とかさあ、あるでしょ!?」
「そうだな……師匠は、煮しめを食べながら泣いていた」
「え?」
「あの師匠が、泣いていたのだ」
────
まだ人間であった頃の、館林ノリヒロ。
国家公務員の閑職。事件と神事と公共事業の隙間に落ちた雑務を取り扱う部署の所属。
業務内容は…怪奇現象の調査だの、超常現象の解明だの、妖怪退治だの、UFOの事後処理だの、どこぞの神を保有する新興宗教との仲介だの…そういったものである。
その中の一つが、エルフの世話であった。
世話といってもボロの社に毎日仕出し弁当を配達するだけの簡単な業務だ。要するに、エルフだか浮浪者だか分からん、汚い婆さんの生活サポートである。
ただ、機嫌を損ねると命を落としかねないという話だ。他の業務と同様に、マニュアルの遵守が徹底されている。この部署の離職率の高さは、マニュアル外の行動をした際のリスクによるところが大きい。
「婆さんの他に、若い美人のエルフがいるそうだ。
前の担当は、そいつに粉かけてチンチンを引きちぎられた。館林くんも気をつけてくれ」
馬鹿馬鹿しい。仕事中にわいせつ目的のマニュアル外行動を取ったのであれば、自業自得だ。
…しかしこの仕事を続けている内に、正常な判断力を失ってしまったとしても無理はない。ノリヒロ自身もこの仕事を始めて以来、勝手に部屋に上り込むストーカー女たちに粗塩2キロパックを投げつける生活である。髪の長い、半透明のストーカー女たちが週七で通い詰めてくるのだ。
怨霊だと?下らん。そんなものがいるのなら、この世界はとっくに足の踏み場も無くなっている。
しかしそんな生活も、もうすぐ終わる。ノリヒロは別の部署…モニターに表示される文字をひたすらキーボード入力し続ける部署への転属が決まった。
藁の編笠にボロ切れをまとったエルフ。
編笠と長い髪に隠れて、遠目からではその顔は伺えない。直視も失礼に当たる。
エルフの御前で、ノリヒロは頭を下げている。
「タカユキはどうした?」
「私の前の前の前の前の前の担当の方でしょうか?一昨年亡くなられたそうです」
「そうか。
人間はあっという間に死ぬなあ」
「仲がよろしかったのですか」
「別に。
…ただ、その頃の飯は出来合いの弁当ではなかった。あやつの作った筑前煮を思い出しただけじゃ」
「そうですか」
次の日。
エルフの御前、いつもの仕出し弁当の他に、タッパーがひとつ添えられた。
「なんじゃ?これは」
「筑前煮…というか、煮しめです。
私の祖母が作っていたやり方ですから、タカユキさんの筑前煮とは違うと思いますが」
「そうか。わざわざ作ってくれたのか」
パカッ
…むしゃむしゃ
「お口に合いますでしょうか」
「うまいよ」
「うまいな、お前の煮しめ」
「ありがとうございます。お気に召しましたら、また作って参ります」
「うまい」
「あの……?」
この時ノリヒロは顔を上げ、初めてエルフを直視した。ノリヒロが初めて犯した、マニュアル外の行動である。
老婆ではなく、緑髪の薄汚れた幼女…エルフが、ポロポロ涙を流しながら、素手で煮しめを食べていた。ノリヒロが、どこかで見たことがあるような顔立ちの幼女。
「…いかがなさいましたか」
「ちょっと煮しめが目に刺さってな」
「それは…私の煮しめが大変失礼をしました。申し訳ございません」
「冗談じゃ」
「私も冗談です」
「…ぐすん。何じゃお前、朴念仁かと思えば、ちゃんと話ができるんじゃのう。
ちょっと昔のことを思い出しただけじゃ。気にせんでいい」
「タカユキさんのことでしょうか」
「…それもある。
タカユキのちょっと前にも、誰じゃったか…この煮しめみたいなものを作ってくれてのう。
お前たち人間が、裸同然の姿で暮らしておった時じゃ」
「ちょっと前の範囲が広くございますね」
「長生きのし過ぎじゃ。
今まで大勢の者たちが、ワシに飯を作ってくれた。
大勢の者たちが、ワシのことを気にかけてくれたのじゃ。
あまりに大勢すぎて、ワシはもう、そいつらひとりひとりを思い出すことさえできん。
たまにそれが、悲しくなるんじゃ」
「……明日からは、私が食事を作って来てもよろしいでしょうか。仕出し弁当ではなく」
「腹に入れば何でもかまわん。
しかしなぜじゃ?お前も暇ではなかろう」
ノリヒロは幼女のエルフを見据えて言った。
「今後ずっと、私があなたの食事を作り続けます。
目の前にいる者が作った食事を食べている限り、あなたがこれ以上誰かを忘れることは無いでしょう」
「…すまん。それは無理じゃ。
人間の一生は短すぎる。そしてエルフの一生は長すぎる。
お前が死んでちょっと経てば、ワシはお前を忘れてしまうじゃろう」
「忘れさせません。
あなたには、一生私が作った食事を食べ続けていただきます」
「おい、ワシの話を聞いとったのか。
それともお前は、頭が狂っているのか?」
「私は狂っていません。
狂っているのはこの世界の方です」
「それは頭がおかしい奴の常套句じゃろうが…」
「狂人、お前の名前は何だったかのう」
「館林ノリヒロと申します」
「ノリヒロか。分かった、なるべく忘れんようにしよう。
それでも忘れたら…恨んで枕元に立つなり、ゾンビになって墓から這い出るなり、そっちで何とかしとくれ」
「善処いたします。
それと…ただ今の話に関連して報告がございます。
事業仕分け…私ども人間の都合で、あなた様に食事を届ける仕事が無くなりました。
ですから国の仕事ではなく、今後は私個人として食事をお届けいたします。
私は公務員を辞めます」
「なんじゃ、難しい話じゃのう」
「つまり、人間たちの方があなたを忘れたのです」
────
「フッ。まさか私が恋バナをする時が来るとは……な…」
「今のが恋バナ……??」
軽いメンタルショックを受けるエクストラバージン。
しかし彼女はひとつ分かったことがある。ノリヒロは、エルフになる前からノリヒロであったということだ。
奥多摩の古民家。
「ただいま戻りました、師匠」
おかえりのハグをする師弟…驚くべきことに、彼らは夫婦でもあるのだ!ノリヒロは師の身長に合わせ膝をつく格好だ。
「おかえり、お前たち。ワシの頭の匂いを嗅いでも良いぞ」
「では、失礼します。
わああああああ!!師匠おおおお!!!
スウウウウウ…ハアアア!!!スウウウウウ…ハアアア!!!」
師の体内森林から滲み出る体臭は、強力な森林リラックス効果をもたらす。ひと嗅ぎで森林浴1年分に相当する!
しかしそれには当然ながら、森林由来の濃縮オゾンも混ざっている。オゾンは吸いすぎると内臓がボロボロになる有毒ガスだ!
「よしよし、このくらいにしておけ。嗅ぎすぎると死ぬからの」
「…ふう。ありがとうございます」
「お前も嗅いでもええぞ、エクストラバージン」
「いや、いいっす…」
トントントントントン…
茶の間で茶を飲む師とエクストラバージン。
「ねえねえ師匠。カッコよかったよ、ノリヒロ。
さっきのはちょっと無いけど」
「…うむ」
「あれ、師匠、照れてるの?」
「ふふん。
…あやつが死んでしまえば…ワシはいずれ、あやつの頑張りも忘れてしまうからのう。
ついつい、ああして甘やかしたくなる。可愛い奴じゃ」
「…ねえねえ、やっぱり…エッチなこともするの?」
年頃のエルフ!やはり情事が気になって仕方がない。
「いいや、しとらん。
あやつは宇宙最強の童貞になるとか言うとったが、本当になるのかも知れんな。
ああそう言えば…あんまは最近かなりエッチくなっとるかも…」
「あ、それ知ってる!リンパマッサージでしょ。どういう技なの?今度教えてよ」
「あれは森林拳ではないぞ。ノリヒロが独学で編み出した技じゃ。お前…まさかやられたのか!?」
「違うよ!なんか敵のエルフに……っていうか森林拳関係ないのかよ…」
「…そうか。なんかアレはちょっと異常な気持ち良さじゃ。
色々研究しとるのは向上心があってええんじゃが…他所ではやめろと言うたのにのう」
「リンパって何?あれ絶対、リンパ腺とは関係ないよね」
「ワシも知らん。何なんじゃろうな…リンパとは」
お読みいただきありがとうございます。
気になりましたらご評価orブックマークをよろしくお願いいたします。




