探そうぜ、エルブン尻子玉!オタクに優しい黒ギャルエルフとエルフに優しいフィクションシャーク
奥多摩のとあるひなびた古民家に、キューブ状の建物が増築された。現在の地球よりもはるかに進んだ技術で作られており、なめらかな金属の壁面は核爆発でもびくともしない。
ノリヒロがサメ殺しの報酬で購入した、宇宙規格の業務用冷凍庫である。この冷凍庫はほぼ絶対零度まで温度が下げられ、解凍も瞬時に、食材の鮮度を損なうことなく行える。コールドスリープさえ可能な超技術だ。
この物々しい装置を買った理由は、飢えた師がタンポポの葉をむしって食わずに済むように、大量の料理を作り置きするためである。その多くは人参・鶏肉・しいたけ・里芋・タケノコなどを、だし汁で煮込んだ煮しめだ。
トントントントントン…
ノリヒロは古民家のキッチンでひたすら調理を続けている。
ふと冷蔵庫に貼られたポータブル・トークンが起動し、立体映像が現れた。
エルブン・デモ隊殴りミッションに当たっている、ポンティからの通信だ。
ブウーン…
「イージーミッションでしたわ、おひいさま」
エルブンスペースのひとつ"黄金の平野"にて、約100人のエルブン・デモ隊を殴り終えた、立体映像のポンティ。
先ほどまで「サメと和解せよ」などと訴えていたデモエルフとコアラたちは、全員裸で正座させられている!
「暴力反対とかポリコレがどうのと言ってたけど、これは森林注入。お礼を言うべきよ、あなたたちは」
ポンティは四つん這いのデモエルフに座っている。
「こんなの…こんなの許されない!宇宙警察を呼んで!!」
抗議する椅子デモエルフ!
バシィン!エルブン尻打ち!!
「森林注入!礼を述べよ!」
「あっ…ありがとうございましゅ!」
「まったく何が宇宙警察よ。サメはその警察にとっても敵でしょうが。サメの味方をしておいて、随分と賢い脳みそね。本当に賢いっ!」
バシィン!エルブン尻打ち!!
「はひぃっ!!ありがとうございましゅ!!」
ふんどし幼女の古エルフである師は、茶を飲みながら尋ねた。
「ポンティよ。"あれ"はどうじゃった」
「ええ、おひいさまの見立て通り。全員分確認したわけじゃ無いけれど、おそらくここのエルフ全員が、尻子玉を抜かれている」
エルブン尻子玉!!
体内森林の源、森林核とも呼ばれる直腸の結石。強いエルフほど大きく、宝石のように美しい尻子玉を持つ。
"タマを握られる"という慣用句は、エルフにおいては尻子玉を指す言葉だ。体内森林を用いて力を発揮するエルフの弱点であり、もし尻子玉を抜かれたのなら、文字通り腑抜けになってしまう。
エルフが尻に腕などを突っ込むと行動不能になるのは、だいたいこのエルブン尻子玉が原因だ。
「…お尻に腕を突っ込まれたらエルフじゃなくても行動不能になるんじゃないっすか?」
師とともに茶を飲んでいる、黒ギャルエルフのエクストラバージン。身長はそこまで高くはないが、乳と尻は大きい!腹にも少々肉がついている。
「ワシらが身につけるふんどしは、不意に尻子玉を抜かれぬようにする防具でもあるのじゃ。お前も森林拳を習得したら、ワシのお下がりを一枚やるぞ」
「不意に尻子玉を抜かれるってなに?…そういう状況ってあるの??」
「森林拳の技にもあるぞ。薔薇咲拳という技じゃが…こう、腕を回転させながら肘まで…」
そう、異星のエルフであるエクストラバージンが、この地球、奥多摩の地を訪れた理由。それは森林拳の習得のためである。本人はダイエットのつもりだが、師には別の思惑がある。
立体映像のポンティはデモ・エルフの尻を叩きながら言った。
「それで、この玉無しエルフたちはどうしましょう?全員首をはねて、数珠つなぎにして天の川にでも晒す?」
「そうじゃなあ。うむ、全員切腹で勘弁してやろうか」
トントントントントン…
「いや…なんで?」
エクストラバージンは上ずった声で尋ねた。
「ん?タマを抜かれるなど、めちゃ不名誉じゃろうが。これ以上生き恥を晒すことも無いし、切腹はエルブンソードマンの誉れ。温情じゃよ」
「いやいやいや怖いって!なんで殺す前提なの!?セップク!?いつの時代だよ!そもそもソードマンじゃないし!
…ていうか尻子玉を抜かれたって言うなら、見つけて戻してやればよくない!?」
「尻子玉を見つけて…戻す…ですって?」
「ええ〜?お前、発想がばっちいのう…」
「え、なに?おかしいの、あたし?あたしがおかしいんすか??」
──宇宙。
とある宙域、スペースデブリの漂流地。
デブリの砂浜で、小型のスペースシップが資源回収作業をしている。
地球で例えるとエビに似た、甲殻系星人のオスが言った。
「おい、この辺にしておこう。この宙域は出るって噂だぜ」
同じく青い甲殻系星人のオスは笑って言った。
「ハハハ。出るって何がだ?オバケか?それとも毒を吐く巨人か?そいつが虹色だって噂なら、俺も知ってるぞ。
んなもんいるわけないだろう…ん?なんだありゃ」
それは徐々に近づいてきているようだ。近づいてきてはじめて、その大きさが分かった。
真空の海に屹立する捕食者の印…平行移動する直角三角形!
「まさか……そんな!?」
そう、そのまさかだ!
空震と共にその姿を表すデブリイーター!!正式名称、ポイズンジャイアントゴーストレインボーシャーク!!!
通称、サメ!!!
小型のスペースシップならば丸呑みするほどの大きさだ!!
「はわわわ…」
サメの牙が迫る!作業員二人は宇宙服の中で失禁!オムツをしているので漏れない!
そこへ高速で飛来する…デブリ?隕石?
いや、丸太だ!円筒状の木材が真っ直ぐにサメに向かっている!
そしてその丸太に捕まっているのは、ノースリーブの宇宙服!?
森林拳・大木砲弾が宙域の捕食者、サメに突き刺さった。
そしてノースリーブの宇宙人は…慣性移動に任せてサメに接近し…殴った。
殴った!?素手で!?
サメに馬乗りになって殴る殴る!
サメ殴りに特化した拳打は、そこが真空だろうと、実体のない幽霊ザメだろうと構わず殴り殺す!!
「何考えてんの!!頭おかしいでしょ!!?」
サメ殴りを終えて戻ったノリヒロに、エクストラバージンはキレた!
彼らの小型エルブンスターシップには、当然サメトラクタービームなどの対サメ兵器が搭載されている!
「サメを見かけたら殴らずにはいられん!そういう体になってしまったのだ!!」
「逆ギレやめて!お願い、普通に怖いから……」
「すまない」
「…でも、さすがっす。パンチでサメを殺すとか。ありえなさ過ぎてキモ過ぎるけど」
デモエルフたちが吐いた情報と、パフィニップルらが作ったエルブン尻子玉レーダーで、ノリヒロとエクストラバージンは尻子玉探しの星間大冒険にある。
ワープ移動を織り交ぜた道中、ノリヒロはエクストラバージン秘蔵のエルブン・コミックスを読んでいた。
「グスッ…」
「そこ泣けるっしょ?お姉ちゃんは妹みたいな強いエルブンソードマンになりたくて、目を100個腕100本増やしたんだよね…でも、そんなの実質サメだった」
「ああ…グスッ。しかしこれキッズ向けの内容じゃないだろ」
「まあ、エルフは一万歳でもキッズな場合はキッズだし…」
エルフが実在するように、ギークに優しい黒ギャルもまた実在する。
百万を超えるコミックスホルダーの彼女は、すでにグレーター・ギークの域にあった。それでいて、個々の作品に公平に接する心得まで持っている。
エクストラバージン。齢117歳の若年エルフであるにも関わらず、グレーターエルフの席を与えられ、デスアクメ老師の椅子剥奪をも免れた。戦闘技術は皆無に等しく、体内森林も平均値。頭もさして良くはない。
「まあ、あたしが残った予想はつきますよ。たぶんコネっす」
「コネ?あの古エルフ二人が、そんな甘い理由で君を残すわけがないだろう」
「うちも色々あるんすよ。親とか…」
「家庭の事情か。話したければ聞くが、私からは尋ねんぞ」
「…渋いっすね。ねえ、ノリヒロさんってモテるんすか?」
「私のモテ期は幼少期で終わった。男とはそういうものだ」
「なんかカッコいい風の言い方だけど…それは違くないっすか?」
なんとなく気まずさを感じるエクストラバージンは、その後もノリヒロと他愛のない会話を続ける。
気まずさの原因は分かりきっている。男と二人、狭い船内でじっとしているのに慣れていない。そう、彼女はバージンであった。ギークに優しい黒ギャルエルフのバージンなのだ!
「…君の優しさはよくわかったが、サメに組みする輩にかける情けはないぞ。
エルフの死因トップ3はサメ、サメ、サメ。そしてサメの死因のトップ3はエルフ、エルフ、エルフだ」
「ええ〜。サメにだって良い奴いるかもしんないじゃん。あのウェイターみたいに、サメからエルフになった奴だっているんだし…」
「奴はすでにサメとしては死んでいる。デスアクメ老師がどうやったのかはわからんが、サメ濃度が地球の水族館で泳ぐサメ並みに落ちている。普通の生き物と同レベルだ」
ノリヒロはサメ殴り生活の果てに、サメを殴り殺す技術を身につけた。
そして同時に、サメに対する深い洞察、一種のサメ哲学をも身につけている。断固たる殺意を伴って。
「我々が相対するサメは違う。
サメはサメ性を持つ限り、エルフを…全ての生物を、捕食する存在なのだ。
コミックスとは違う。エルフに優しいサメなど存在しないのだ」
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