第二十四話 『帝の王』
「…何者かがこの館に近づいています。」
その言葉を聞き、俺は気を引き締める。
「…おそらくアギの可能性が高い。他の支配者がどうしてるかも気になるな。」
「近くまでは来てるんじゃない?一斉とは言っても慎重に動くだろうし。」
と、竜那が言いながら準備を終えたと伝えてくる。竜佳も同様だ。
「皆、準備は出来たか?」
「もちろんよ。そもそも、まだ学校指定の戦闘服しかないもの。準備もするものはほとんどないわ。」
と、竜那が文句を言ってくる。
確かに、まだ自分たちの戦闘服は用意せずに、実戦に近い形でこの場所へとやってきた。
先生もその事を承知で、俺たちクラスの人数分、体操着より動きやすい戦闘向けの服を用意してくれていた。
「ここから帰ったらさっさと戦闘服を用意しないと。こんな格好、ダサくて嫌だわ。」
「あまり文句は言わない方が良いよ?それに、竜那はこの服でも可愛い…」
「う…うるさいわねっ。…そう言う竜佳も可愛いわ。」
と、いきなり2人だけの空間が広げられた。
「ここでもそのノリは忘れないのな…」
むしろその方が、気負いすぎないで丁度いいのかもしれない。
「…日向。クラスのグループ分けが終わったぞ。皆3階の広い廊下で待機中だ。」
と、俺たちの所へ幸崎先生が戻ってくる。
「南先生と黒ヶ崎先生は?」
「寧音…南先生は待機している生徒たちを見ている。黒ヶ崎先生はどこかへ行ってしまった。」
…怪しいな。
「分かりました。クラスの皆にはこれからの事を説明しましたか?」
「ああ、一応な。…驚いたよ。皆怯えるどころかやる気に満ち溢れていたよ。」
と、幸崎先生が言ってくる。
「それは良かったです。…早速敵襲が来たみたいです。攻撃側にまわっている俺たちはそろそろ館を出ていきます。何かあれば《コンタクト》を繋げてください。」
「ああ、分かった。…本当、ここに来てから驚くことばかりだ。」
俺はそれだけ言い残し、フレイヤさんたちの方へ戻ってくる。
「攻撃側になっている麗、結乃、エル、グリナさん、マキナはそろそろ出発するぞ。待機側になってる人たちは、決して無理はしないように。」
「分かってる。絡斗たちも気をつけてね。…必ずここで倒してみせるわ。」
と、七香が答えてくれる。
「…先生はなるべく生徒たちを1階に降ろさないようにしてください。できるだけ、担当している階の敵だけに集中させるように。」
「分かっている。」
1階に降りてきてしまえば、カナデやメルリアと言った他種族と接触してしまう。
この戦いの場で、他種族との接触はクラスメイトたちにとっては予想外となる。
一瞬の油断が命取りとなる戦いの場。そうなっては欲しくないのだ。
「…もちろん、カナデたちも2階より上には行かないでくれよ?皆を信じてあげるんだぞ。」
「分かってるわ。ラクトたちも気をつけて。」
そう言われ、俺たちは館を出る準備をする。
「よし、先に行動しよう。敵が来てからだと離脱は困難になる。」
俺は攻撃側のメンバーにそう伝え、早々にこの館を出ていった。
「…いよいよ、始まるのですね。ラクトさん、ご無事で。」
〜〜〜〜〜
「…ラクトさん、私たちはどこへ向かいますか?敵から私たちの拠点となる館の場所はバレてますが、私たちは敵の拠点を知らないですよ?」
と、俺たちは館の外へ出てある程度離れたところで、作戦会議という名目で木々の間に隠れている。
「…支配者を操っている神。それを探す。」
俺はこれからの目的をみんなに伝える。
すでに聞いているエルを除き、他のみんなはこれからの事について驚きを隠せない。…いや、マキナは大して驚いてはいなかった。
「そうは言っても、むしろそっちの方が難しくない?どの神なのかも分からないんだし。」
と、結乃が言ってくる。確かに、そう思うのも当然だ。
「心当たりがあったりするの?」
「…もちろんある。『帝の王』を覚えているか?」
「…確か、ガウエルって名乗ったやつよね?」
「そうだ。」
フレイヤさんの《ブラインド》を掻い潜って俺たちの居場所を見つけた、過激派『イクストセカイ』の支配者の1人だ。
「そいつがどうかしたの?」
「実は、拐われた時どこかへ連れていかれたんだけど、その移動中で話し声だけが記憶に残ってるんだよ。」
「…ずいぶんと都合のいい耳だね。」
確かに。そう言われても仕方がないとは思うのだが。
「それで何が聞こえたの?」
「はっきりとはしてないけども、ガウエルは今日この遺跡にやって来る。」
俺たちが潜んでいた場所は、本日2度目となる『アルフセカイ』の『核』が存在している遺跡の近くだった。
「…それで、なんでガウエルがやって来るって分かるわけ?絡斗を拐ったのは『賢王』のアギじゃなかった?」
と、俺の話がおかしいと麗が指摘してくる。
「確かにそうだ。…だから、この都合のいい耳のおかげでもある。」
俺がそう言うと、麗は改めて聞き直してくる。
「…何が聞こえたの?」
「…アギとガウエルの会話だ。アギの情報を頼りに、ガウエルがここの『核』を壊しに来る。」
それを聞き、全員が息を呑む。
「…仲が悪いはずの支配者同士が接触していた?奴らを束ねた神の前だから?」
エルがその不自然さに何か引っかかるものを探そうとしている。
「確かに。あの場に神が居たのなら不自然じゃない。…もし、いないのにも関わらず接触していたらかなり怪しいよな。」
「…それで、ガウエルはここの『核』を破壊しに来るの?」
「おそらく。奴らの目的はフレイヤさんだろうが、その次くらいの目的にこの『アルフセカイ』の消滅もあるだろう。じゃなきゃ、俺たちがアギと出くわしたのがおかしくなる。」
「確かにね。」
「…つまり、そのガウエルから神の居場所を聞き出すの?」
「そのつもりだ。もし出来なくても、ガウエルを倒す。館へ向かっている支配者が2人だけとなれば向こうも少しは楽になるだろう。」
そう思っていると、何やら足音が近づいてきた。
「来たのかな…」
俺は遺跡の方へ目をこらす。今は夕方くらいの時間帯。暗くはないが、日の光が眩しく足音の原因となる人物の顔がはっきりと見えない。
「…ここがアギが言っていた『核』の場所か。…嘘じゃねえみてえだな。」
と、先頭の大柄の人物が声を発する。その声は、
「…ガウエルで間違いないな。」
「…それじゃあ行く?」
「そうだな。」
俺たちは互いに合図を送る。
「…あなた。何人かはこの外で見張らせておくのも良いんじゃない?」
「そうだな。さすがはサーガよ。…お前ら5人はここで待機してろ!」
「はいっ!」
「よし…それじゃあさっさとぶっ壊して、あいつらに仕返しに行くとするか…」
「…《インフェルノ》!」
「ッ!?」
「なっ!?」
俺は真上から、ガウエルに目掛けて魔法を放つ。
その魔法の衝撃で煙が立ち込める。
そして、俺たちはガウエルたちと遺跡の間に着地する。
「なんだぁ!?…ぉ。」
ガウエルは煙をかき分け、その先にいる俺たちの事を見据えてくる。
「待っていた。」
俺はそうガウエルに言い放つ。
「…誰かと思えば…あの館にいた奴らか。」
「っ。…あの時の小僧ね。」
ガウエルの隣にいた女性が俺に敵意を向けてくる。
「やっぱり生きていたのね…」
麗がそんな女性…サーガを見て呟く。
「…サーガよ。まさか、お前を傷つけたのはこいつか?」
ガウエルが俺を見ながら言ってくる。
「ええ、そうよ。この小僧とそこの小娘よ。あと一人の小僧はこの場に居ないみたいだけど。」
と、俺と麗を指さしてくる。
「ずいぶんと俺の嫁が世話になったみてえだな。…覚悟は出来てるか?」
そう言って、禍々しい大剣を取り出し地面に突き立てた。
「できれば話し合いがしたいんだけどな。」
「ほう。話し合いか。この状況でおもしれえ事を言うやつだな。」
確かに、この場にいるのは俺たち6人に対して、ガウエル側は配下を合わせて40人ほど。この前襲ってきた人数よりも多くいる。
もちろんその配下の中には、俺やクラスメイトがぶっ倒した奴も含まれていた。
「…言ってみろ。聞くだけ聞いてやるよ。」
と、ガウエルは寛大なる姿勢を見せる。
「…お前らを操って、ここ『アルフセカイ』とフレイヤさんを襲わせた黒幕の神の居場所と名前を知りたい。」
俺がそう言うと、ガウエルは驚くでもなく高らかに笑った。
「おもしれえな。よくこっちの事情を調べているようだ。そこまで頭が回るなら、俺がどうするかも分かるだろ?」
「…教えるつもりはないということか?」
「…正解だ。」
瞬間、ガウエルは大剣を手にし、こちらに突っ込んできていた。
「…!《セイクリッド・フォール》!」
グリナさんがいち早く気づき、防御魔法を展開する。
「ちっ!」
ガウエルの叩きつけてくる一撃は、グリナさんの防壁により弾かれてしまう。
「中途半端には行きませんよ!やるからには全力です!」
グリナさんも戦う姿勢を向ける。
「そういうことだ、『帝の王』。…悪いが必ずお前らから情報を手に入れてやる。」
俺たちとガウエルたちとの最終決戦が始まった。




