第二十五話 戦闘向けの力
「へっ…やってみろや。貴様らの首持って、あの姫に差し出してやる。」
ガウエルは強い殺気を纏いながら、手に持つ大剣をこちらに向けてくる。
「ラクト…何か作戦はあるのかい?」
隣にエルが立ち、そう聞いてくる。
「周りの配下達が多いな。」
俺は、ガウエルと対峙している間に周りを囲んできた配下のことを見渡して言う。
ガウエルとサーガを除いて、配下は38人いる。
「ガウエルとサーガに一対一はきついだろうしな…」
そう俺が悩んでいると、後ろから結乃が近づいてきた。
「あの配下たちは私が相手するわ。」
と、結乃が言ってきた。
「私も、ユノを手伝おう。」
「わ、私も配下たちをささっと倒しちゃいます!」
マキナとグリナさんも、配下と戦うことを言ってきた。
「…そこの小娘ちゃん?私とまた遊びましょ?」
サーガが麗を見て挑発をしてくる。
「…という事だわ。私一人であの女を今度こそ倒すわ。」
「麗、大丈夫か?」
「心配いらないわ。手加減はするつもりないから。」
と、麗もやる気を見せてくる。これなら一人でも大丈夫かもしれないな。
「ということは、ボクとラクトが『帝の王』とだな。」
エルがガウエルを見て言ってくる。
「気をつけてよね、絡斗。終わったら手伝うから。」
麗が気楽に後のことを言ってくる。
「ああ。頼むぜ。」
俺は短く答えると、ガウエルに向き直る。
「…はッ。」
ガウエルは短く、そう呟くと再び接近してきて大剣を振りかざしていた。
「《アイアンウォール》!」
すぐさま、目の前に壁を展開する。ガウエルはそんな壁に思い切り大剣を振り下ろす。
その大剣による攻撃をなんとか防いだが、障壁は粉々に砕けてしまった。
「だが、これだけの隙があれば充分だ。」
ガウエルの背後にまわっていたエルが、その片手に魔力を溜め込んでいる。
「…《ライトニング》!」
エルの手から、鋭い光の槍状の魔法がガウエルめがけて飛んでいった。
「ふっ…!」
それをガウエルは大剣を持たない手で受け止める。
「…《インフェルノ》!」
そんなガウエルに向かって、正面から火属性魔法を撃ち放つ。
「甘いぜ…!」
だが、俺の魔法は大剣により防がれてしまった。
「もう一度受けてもらおう。《ルクステリア》!」
エルが先程の光属性魔法よりも、更に上位の光属性魔法をガウエルの頭上から真下へと撃ち落とした。
「何度やっても、同…っ!?」
ガウエルは、何度やっても同じだと言いかけたところで、違和感を感じる。
同じように、大剣を持たない手でエルの魔法を受け止めようとしたのだろう。しかし、ガウエルの腕は全くと動いていなかった。
「《ライトニング》に直撃すれば、どれだけ強かろうと麻痺を受けることになるからね。すぐには動かせないだろう。」
と、エルが言い放つ。もう片方の腕は大剣を握ったまま、俺の放った魔法を受け止めたばかりだ。反応しても間に合わない。
「ぐっーー!?」
ガウエルは、エルの《ルクステリア》をまともにくらい立ち上げた煙と共に爆発音を鳴らした。
「…これで効いていないとなると流石に困るんだけども。」
エルが俺の隣に着地し、そう口にする。
「支配者ってくらいだからありそうだな。…でも、その心配は要らないみたいだ。」
俺は煙が周りへと散っていき、中から姿を現したガウエルの姿を見てそう言う。
鎧服の至る所は破けており、肌にも多数の傷を負った状態で、それでも不敵な笑みを浮かべてガウエルはその場に立っていた。
「…中々良いコンビネーションだったぜ。」
ガウエルは血反吐を吐き捨てて、こちらを見据えてくる。
「今度はこっちの番だぜ…」
ガウエルはその場に両手をつき、四つん這いの姿となる。
「悪いが、貴様のターンにはならないっ!」
エルがそんなガウエルに容赦なく、魔法の弾を飛ばしていく。
「さぁ、やるぜぇ!『異能』「凶暴化」!」
すると、ガウエルの体を紫色のオーラが纏い、次の瞬間には体毛と呼ぶべき毛が鎧服から飛び出し、姿が豹変していた。
「なっ…効いていない!?」
エルの放つ魔法弾は、ガウエルに直撃したものの全くとしてダメージが通ったようには思えない。
「…言ったろ。今度は俺の番だ。」
ガウエルはゆっくりとその身を起こし、大剣を手にする。
「『異能』の力か…さっきより一回り大きくなっている。」
ガウエルの体は大きくなっており、鎧服は今にも壊れそうな程亀裂が走っている。そして、そのガウエルの体は深いオーラを纏った体毛が覆っている。
そして、口からは禍々しく鋭い牙が伸びていた。
「くっくっ…この『異能』で俺は凄まじい力を手に入れたぜ。あまり使いたくねえが容赦はしねぇ。」
どうやらガウエルの『異能』は、ジャイ二さんの持っていた「活性化」に近いものだろうか。
だが、失礼な事にガウエルの『異能』はその程度ではないようにも思える。
「余所見すんなよ?…《ギガントテイル》!」
「っ…!」
大剣の「武技」の一つだ。力を込めて振り下ろすという単純な武技だが…単純な武技だからこそ使い手の素の強さに比例する。
これは、俺の《アイアンウォール》程度だと防ぎきれない。
「…《ヘブンズフィール》!」
エルが目の前に防壁を作る。
「壊れるっ…!」
「っ…!?」
ガウエルの振りかざした大剣がエルの生み出した防壁をもろともせず砕ききった。
それよりも早く、俺はエルを掴み横へ飛び大剣の軌跡上からなんとか逸れた。
「ありがとう…ラクト。」
「あぁ。…それより何とか対抗しねえとな…」
格段に動きが早くなっており、まるで別人と戦っているかのようだ。
最初の不意打ち気味の攻撃によるダメージもそれなりのはずだが、このときの傷を気にしていないかのような素振りだ。
「…治癒魔法も使ってないしな…」
何か隠し技のような…例えばあの『異能』の力で擬似的に治癒したのだろうか?それとも単純に、耐えているだけなのか。
「これは厄介だ…使うか。」
本当は使いたくないが、この『セカイ』にきて出し惜しみをするつもりは無いと考えていた。だから、多少の制御はしつつも出し惜しみはしない。
「…あの『力』を使うのかい?」
「ああ。…それに、ガウエルの『異能』がただ単純な力なのか、何か代償があるのか気になるな。」
「分かった。…ボクも『異能』を使おう。」
エルの『異能』は「監視」。対象者の使用した魔法などの力や、対象者に付与されている効果を詳しく知ることが出来るといった力だが、それだけではないとエルから聞いたことがある。
おそらくその力を使うのだろう。
「…俺のターンは終わってねえぜ?《ダークナイトテイル》!」
「くっ…!?」
これは、「武技」だが、闇属性を含んでいる…つまり、魔法付加の武技だ。さすが、学校ではまだ覚えないような技術だ。
見るのも受けるのも初めてではないが、久しぶりというのもあり反応が遅れる。
ただの魔法攻撃、ただの武技より魔法付加の武技というのは予測がしづらい。
「…!!《ランド・ウェアー》!」
咄嗟に、自らに土魔法で簡易な壁を付与する。
ガウエルの武技を直接受けることはなかったが、魔法による余波をくらってしまい後ろへと押し出される。
「ぐっ…。」
左腕から手にかけて、血が垂れてきた。咄嗟に左半身で庇ったのは良い判断だった。
治癒魔法が使えない今、他の人に治癒をしてもらうしかない状態。だが、戦闘中に他の人まで巻き込んで時間をう奪うようなことはしたくない。
つまり、今の俺は戦闘が終わるまで傷を癒せないということ。
…まるで時間制限付きで戦闘をしているみたいだ。
実際、時間制限のようなものはあるのだがな。
「さっさと倒して、神の居場所聞き出して、フレイヤさんとこの『セカイ』を救わないとな。」
「おうおう…これで終わりじゃねえだろうな?」
ガウエルが俺に向かって歩いてきている。
「…『異能』「監視」…お前の底を見させてもらおう。」
そんなガウエルと俺の間に立ち、エルは『異能』を発動した。
「ほぉ。お前は戦闘向けの『異能』じゃねえようだな。…悪いが役者不足だ。俺はこっちの男に用があるんだ。」
だが、ガウエルはエルに見向きもせず歩みを止めずに俺に近づいてくる。
「…本当にそう思うのなら甘い事だ。…「白」。」
「ーーーッ!?」
エルがそう言うと、突如ガウエルの体の奥底から力が猛烈に溢れ出てきた。
「このまま溢れ続ければいずれ力が底を尽き、『異能』所の話ではなくなるね。」
それを聞き、初めてガウエルはその足を止めエルの方を振り向く。
「お前の『異能』のことは今、調べがついた。…もちろん、その代償についても。」
その一言でガウエルの余裕のある表情が、一瞬にして殺気を纏うものとなった。
「…やってくれるじゃねえか。」
ガウエルは怒気を含んだ声をエルに向かって吐き捨てた。




