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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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47/57

 六 ~  望むこと…… そんなのは。  ~ (2)

 一体、何を企んでいるの?

 何が目的でそんな場所に?

           2



 敷地を囲むフェンスの一角、大通りからは死角になっていたところのフェンスには、大きな刃物で裂かれたような傷があった。

 そこから金網がめくられ、大人一人は余裕で通れるようになっている。

 三原はそこを慣れた様子でくぐり、学校の敷地へと入った。

 先ほどの三原の言葉に戸惑いながらも、僕も必死にあとを追う。



 敷地に入ると、右にグランドが見えるなか、三原は迷わず奥に潜む校舎へと向かった。

 月夜に浮かぶ校舎は、二つの建物が並ぶ形となり、その二つを繋ぐように渡り廊下があった。三原はその渡り廊下から、校舎へと足を進める。入口の鍵は閉められていなかった。

 戸惑いながらも、僕はあとに続いた。

 薄暗い校舎は、廃校になってそれなりの時間が経っているのか、廊下の隅にはホコリが積もり、所々、教室からの机が散乱している。

 薄暗いなか、二人の足音が響く。

 辺りが静かであるため、より響いた。

 辺りの薄暗さのせいか、音が闇に喰われているみたいで、より心を蝕んでいくようだ。

 二人に会話はなかった。

 周りの気味悪さをごまかしたくて、喋ろうとするのだが、また軽くあしらわれてしまいそうで、逡巡してしまう。

 見ず知らずの人と肝試し? なんなんだ、この状況は。

 と、内心皮肉ってみせたが、誰もいない教室を眺めて歩いていると、自分が本当に臆病だと情けなくなる。

 まだ机や椅子が整頓されていたのなら、少しはマシであったが、以前にも僕ら以外に侵入した者がいたのだろう。

 物が散乱しているのが、怯えているのを嘲笑うようで、より心を締めつけていた。

「ーーここよ」

 できるだけ平静を装って歩いていると、唐突に三原は言い、足を止めた。

 ある教室の前。ふと上を見ると、「2ーA」となっており、思わず僕は眉をひそめる。

 まさか、自分と同じクラスの教室になるとは。偶然にしては、皮肉であり、嫌味でしかなかった。

 躊躇なく教室に入る三原。僕は一瞬、たじろいでしまったが、変な強がりが表に現れ、両手に力を入れていた。

 水中に体を沈めるような息苦しさに襲われ、眉をひそめた。

 来るべきじゃなかった、と後悔しつつも、教室の全貌が否応なしに飛び込んでくる。

 月明かりが正面の窓から射し込んでいて、思いのほか暗くなかった。

 この教室はほかの教室と違い、机などが少なかった。残っている机なども教室の隅へと移動されていた。

「……誰だ?」

 教室の後方から入り、何事もなく、ホッと胸を撫で下ろしていたとき、胸を突き刺す、重く鋭い声が、僕の体を突き抜ける。

 息を呑む間もなく体を硬直させた。

 敵意に満ちた声は、一瞬にして僕の体を金縛りが起きたみたいに苦しめた。

 声は教室の前方から聞こえた。奥歯を噛みながら、ゆっくりと首を動かした。

 視界に入る黒板には「さよなら」「ありがとう」とチョークでデコレートされた文字が並んでいた。

 おそらく、こな教室を最後に使っていた生徒が、学校を惜しみ、別れの言葉を残しておいたのだろう。所々、風化して薄れていた。

 そんな的外れなことを眺めながら、視線を落とすと、教壇に腰かける一人の影を捉えた。

 三原とは別の人物。前屈みに座り、膝に腕を置きながら、どこか、殺気じみた雰囲気を漂わせていた。

「ーーお前っ」

怖いはずなのに、僕は声を張り上げた。

 絶対に肝試しなんてことはないよね?

 絶対に何かを企んでるでしょ。

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