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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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48/57

 六 ~  望むこと…… そんなのは。  ~ (3)

 警戒を高めずにはいられない。

 絶対に平然とはいられない。

           3



 警戒心が足が一歩下がらすと、何かが踵に当たった。見下ろすと、折れたホウキの柄だったらしい。そのまま放置されていたのだろう。

 咄嗟にそれを拾い、剣道の竹刀みたく構えた。教壇の前に座る者に対して。

「なんで、なんでお前がこんなところにいるんだっ」

 その者は、グレーのパーカーに、ジーンズとラフな格好で、フードを深く被っていた。

 なんでこいつがここにいるんだっ。

 表情は伺えない。でも、僕の心は瞬時に警告していた。

 こいつは以前、姫香を襲った奴だと。

「なんで。お前、また誰かを」

 姫香との一連の動きが頭をよぎった。あんな現実離れした動きになんて反応できるはずがない。

 それでも負けられず、足に力を入れた。

「俺が気に入らないみたいだな。別にいいけど」

 胸を這うようにへばりついた男の低い声。警戒心がより鋭く尖る。

「待って。彼は危険じゃないわ」

 男が立ち上がろうとしたとき、三原が声を上げ、二人の間に割って入ると、右腕を広げてかばい、制止した。

 ただし、僕の方に体の正面を向け、大きな目で強く睨みながら。

 それは奴をかばうようであり、あたかも僕が悪者として扱うように。

「でも、こいつは人を襲ったんだ。こんな危ない奴をっ」

「だから、大丈夫だって言っているでしょっ」

 一歩進み、距離を縮めようとすると、三原はさらに声を張り上げた。

 気にせずに立ち向かおうとするが、動じない三原の姿に、僕はたじろぎ、足を止めてしまう。

「お願い、それを捨てて」

 抑揚のない声。

 感情を捨てた冷淡な声が、逆に三原の威圧となり、僕に注がれる。

 後ろの男がまだ安全なんて信用できない。けど、このまま抵抗しても、話が先に進みそうでないのもわかっている。

 仕方なく僕は棒を捨てた。

 床に渇いた音が鳴ると、三原は腕を下ろし、頬を緩めた。

「ありがと」

 三原という壁がなくなっても、男を睨んだ。敵意はなくなったわけじゃない。

「まぁ、そんなに警戒しないで。私の話を聞いて」 

 三原は苦笑して、男のそばに近寄り横に立つと、くるりと振り向いた。

「さて、何から話そうかな」

 三原は男の肩に手を置き、自分に納得させるように一度頷いた。

「私の名前は三原詩織。これはさっき言ったわね。そして、吸血鬼の「繋」よ」

「「繋」? じゃぁ、そいつは吸血鬼?」

「やっぱり、「繋」だと聞いて驚いたりしないのね。もっとバカにしたり、戸惑ったりすると思っていたわ」

 微動だにしない僕に、三原は多少感心した。

 驚いたり戸惑ったりは、悔しいが姫香らとの話で散々している。もう免疫はできてるさ。

 何より、ここで弱腰になっちゃいけない。

「ねぇ、あなた「繋」なら、もう副作用に襲われたりしたことある?」

 ふん。そんなもの、絶賛襲撃中ですよ。ったく。忘れかけていたのに、「副作用」と聞いて甦ってきたよ。

「頭痛なら、何日も前から」

「そう。あなたは基本的な形として出たんだね」

 そこで三原は顎に手を当てて黙ってしまった。

 何かを思案しているのか、動きを止め、ふと視線を横に移すと、僕を無視してしばらく眺めていた。

 つられて扉を眺めるが、これといった変化はない。

「だから、なんだって言うんだ?」

 沈黙が耐え切れず、僕から口を開いた。

「そうね。私の場合は、“衝動”だったの」

「“衝動”?」

「そう。私の副作用はね、吸血鬼に自分の血を吸われたいっていう衝動だったのよ。そう、朝、目が覚めたとき、ご飯を食べたとき、他愛ない会話をしているたき、お風呂に入っているとき。そんな何気ないときに、無性に血を吸われたくなってしまう。それが私の副作用」

 そこで不意に右手のカーディガンの袖をめくり、じっと眺めていた。

「だったら。さっさと吸血鬼に吸われればいいじゃないですか」

 完全に狂っているな。

 率直な感情を押し止め、頬が攣りそうなのを堪えると、皮肉でごまかして放った。

 何を言っているんだ? 

 そんなのは狂っているとしか思えない。

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