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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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30/57

 四 ~  ……まさか、だよな。  ~ (1)

 やはり、心配せずにはいられない。

 これまでのことを考えても。

           第四章



            1



 いつまで姫香は学校を休んでしまうんだろうか、と奇妙な不安に駆られてしまった。

 ーー 体調は大丈夫か?

 メッセージを送ったのは気まぐれでしかなかったのだが、

 ーー うん。もう明日からは学校にも行けたら行くね。

 と返信があって、安堵してしまったのも事実であり、癪でもあった。

 ただ、どうも吸血血筋の連中の話は浮き世離れしていて、本心から信じることはできない。

 でも、聡らみんなして僕を騙している雰囲気もなく、真剣に見えてしまうのだから、意図が掴めずに混乱しそうであった。

 部屋のベッドに横たわり、そんなことを考えていたときである。

 スマホが鳴ったのは。

 ーー 姫ちゃん、どこにいるか知ってるか?

 聡からの奇妙な連絡であった。

 意味がわからず、何度か返信を繰り返した。すると、

 ーー 行方不明なんだよ。

 ーー どこに行ったか知ってる?

 ーー 知らない。

 完全に聡の話を信用したわけではない。でも、心臓の隅を鋭く刺す気持ち悪さがあり、僕は腰を上げ、部屋を飛び出した。

 変な不安が僕を駆り立てた。

 どこを探すんだよ、と外に出た自分を叱咤していたとき、不意に足が止まった。

「……まさか、あの公園?」

 先日のバイトの帰り、あの公園には奇妙な雰囲気が漂っている、と言っていた。

 もし、その気持ちに突き動かされ、不安が積もった。

 慌てて公園に向かった。

 ダメだ。嫌な予感しかない。


 

 公園に着いたときには、夜の十時を回っていた。

 ーー 今、どこにいる?

 何度も姫香に連絡を入れた。だが、返事はまったくなく、何度も舌打ちをしてしまう。

 時間の都合もあってか、公園には人影はなかった。敷地内のジョギングコースを照らす明かりが、点々と灯されているだけで。

 子供用のブランコなどの遊具があるエリアを抜け、両脇を季節の花で飾られた花壇に挟まれた石畳の通路を走っているときである。

 遠くで人影が動いた。気のせいか、二人の人影で走っているように見えた。

 長い髪が揺れた影に気づくと、僕は地面を蹴った。

 石畳を照らす明かりに導かれるように追うと、影は左へと抜け、広場へと消えた。

「ーーくそっ」

 石畳の脇は木々が生い茂っており、その隙間から逃げた影が動いている。

 逃げた先は芝生のはずである。

「……ったら」

 ……女の声?

 近づくにつれ、二人の影が大きくなっていき、眉をひそめた。

 ……嘘だろ。

 女の声が悲鳴に似ていると感じたとき、影が一方を襲うように覆い被さるのが見えた。

 ここには変な雰囲気がある。と姫香の声が脳裏に馳せながら、石畳の脇を抜け、広場へと飛び出した。

 二人の影芝生に倒れ込んでいた。争った衝動で倒れているみたいで、今も片方が抵抗して暴れている。

「ーーっ」

 すぐに動かなければいけないのに、体が硬直してしまう。

「ーー今田っ」

 ふざけていたことをするな、と、叫びたい。大丈夫だと信じたい。

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