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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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31/57

 四 ~  ……まさか、だよな。  ~ (2)

 発作を抑える。我慢することは……。

 飛び込んだ先に倒れていたのは二人の女。その一人が姫香であったことに、一瞬動きが鈍ってしまう。

 名前を叫ぶと、ようやく体が自由を取り戻す。

「お前、何をやってるんだよっ」

 まさか、発作が?

 本当に姫香が人を襲う?

 疑問が体を突き動かした。

 重なり合う二人に駆け寄り、倒れる姫香を背中から抱きかかえた。

 二人を引き離す。

「お前、何やってるのか、わかってるのかっ」

「ーー何? 古川くんっ? 放してっ」

「放せるか、バカッ」

 両脇を抱えていると、姫香は足をバタバタと暴れて抵抗した。

 細い体のわりに力があり、僕も力を込めた。

 本当に人を襲うなんて。

 驚き以上に、苛立ちが強く湧き上がり、奥歯を噛んだ。

 暴れて乱れる黒髪に、眉をひそめていると、まだ地面に倒れていたもう一人の女の姿を捉える。

 倒れていたのは、大学生ぐらいだろうか。雰囲気は僕らよりも少し年上であった。

 おそらく姫香のお姉さんくらいだろうか。

 肩ぐらいのショートの髪に、目の大きさが特徴的な女の人であった。

 発作を起こした姫香に怯えているのか、大きな目をより大きく開き、怯えている。

 目を充血させているのは、泣いているからなのか。

「行けっ。早く行けっ」

 怯えから体を振るわせる女に叫んだ。

 くそっ。マジなのかよ、これは。

「早く行けって」

 恐怖で固まる女に、さらに声を荒げた。その間も姫香は抵抗して逃げようとしている。

 半ば怒鳴った。そこにいること自体に苛立ってしまい、つい乱暴に睨んで。

 なんで、こんなときに人が、と焦っていると、恐怖が和らいだのか、かくかくと小さく何度も頷き、フラフラと立ち上がる。

「あなたっ、なんなのよっ」

 細い体を守るように、怯えながら体をギュッと抱きしめる女。そこに姫香が声を荒げる。

 姫香の声に怯え、肩をすぼめる女に、「早くっ」と僕は顎をしゃくった。

「放してっ。ちょっと、放してってっ」

 またしても暴れ出す姫香。さらに力を入れて抑えていると、ようやく話を理解したらしく、うん、うんと震えながら頷き、すぐさま踵を返し、この場から走り出した。

「放してってばっ」

 まったく、発作を起こせば体力すらも上がってしまうのか。

 依然として暴れる姫香。まだ発作は治まらないのか。

 女は石畳の通路に逃げ込んだみたいだが、発作はまだ治まらない。

「ったく。こんなんじゃ、血なんか吸わせてやらねぇぞっ」

 暴れる姫香に、思わず叫んでしまっていた。

 人を襲う……。

 それは吸血鬼だから……。

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