四 ~ ……まさか、だよな。 ~ (2)
発作を抑える。我慢することは……。
飛び込んだ先に倒れていたのは二人の女。その一人が姫香であったことに、一瞬動きが鈍ってしまう。
名前を叫ぶと、ようやく体が自由を取り戻す。
「お前、何をやってるんだよっ」
まさか、発作が?
本当に姫香が人を襲う?
疑問が体を突き動かした。
重なり合う二人に駆け寄り、倒れる姫香を背中から抱きかかえた。
二人を引き離す。
「お前、何やってるのか、わかってるのかっ」
「ーー何? 古川くんっ? 放してっ」
「放せるか、バカッ」
両脇を抱えていると、姫香は足をバタバタと暴れて抵抗した。
細い体のわりに力があり、僕も力を込めた。
本当に人を襲うなんて。
驚き以上に、苛立ちが強く湧き上がり、奥歯を噛んだ。
暴れて乱れる黒髪に、眉をひそめていると、まだ地面に倒れていたもう一人の女の姿を捉える。
倒れていたのは、大学生ぐらいだろうか。雰囲気は僕らよりも少し年上であった。
おそらく姫香のお姉さんくらいだろうか。
肩ぐらいのショートの髪に、目の大きさが特徴的な女の人であった。
発作を起こした姫香に怯えているのか、大きな目をより大きく開き、怯えている。
目を充血させているのは、泣いているからなのか。
「行けっ。早く行けっ」
怯えから体を振るわせる女に叫んだ。
くそっ。マジなのかよ、これは。
「早く行けって」
恐怖で固まる女に、さらに声を荒げた。その間も姫香は抵抗して逃げようとしている。
半ば怒鳴った。そこにいること自体に苛立ってしまい、つい乱暴に睨んで。
なんで、こんなときに人が、と焦っていると、恐怖が和らいだのか、かくかくと小さく何度も頷き、フラフラと立ち上がる。
「あなたっ、なんなのよっ」
細い体を守るように、怯えながら体をギュッと抱きしめる女。そこに姫香が声を荒げる。
姫香の声に怯え、肩をすぼめる女に、「早くっ」と僕は顎をしゃくった。
「放してっ。ちょっと、放してってっ」
またしても暴れ出す姫香。さらに力を入れて抑えていると、ようやく話を理解したらしく、うん、うんと震えながら頷き、すぐさま踵を返し、この場から走り出した。
「放してってばっ」
まったく、発作を起こせば体力すらも上がってしまうのか。
依然として暴れる姫香。まだ発作は治まらないのか。
女は石畳の通路に逃げ込んだみたいだが、発作はまだ治まらない。
「ったく。こんなんじゃ、血なんか吸わせてやらねぇぞっ」
暴れる姫香に、思わず叫んでしまっていた。
人を襲う……。
それは吸血鬼だから……。




