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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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32/57

 四 ~  ……まさか、だよな。  ~ (3)

 鎮まってくれたのならば、こちらも安心なんだけど……。

             2



 まさか、本当にこんなことが起きてしまうなんて、と恐怖と苛立ちはしばらくして、ようやく鎮まってくれた。

「お茶か野菜ジュース、どっちがいい?」

 姫香が騒動を起こしていた広場にはベンチがあり、そこにうなだれるように座っている姫香に、近くに自販機で買った二つの飲み物を差し出した。

 姫香は今となっては平常に戻っており、静かに息を吐くと、野菜ジュースを手に取った。

 それでも意識は混濁しているのか、力なくボウッとボトルを眺めていた。

 僕も隣で腰を下ろした。

 姫香が正気に戻ったのは、襲われていた女が広場を去ってしばらくしてからである。

 ばたつかせていた足が次第に収まり、肩で息をしていた呼吸が整ったあとである。

「……古川くん?」

 と落ち着いた口調に戻った。

 そこで気を鎮めるために、そばにあったベンチに座ってもらい飲み物を買ってきたのであった。

 ようやく一口、口に運んだ姫香。水分を入れたことに僕も安堵した。

「ーーなんで、古川くんがここに?」

「そんなことより、体は大丈夫なのかよ?」

「うん。まだ、頭が痛いけど、なんとかね」

 やはり発作のあとのために、精神的にも塞ぎ込んでしまっているらしい。声にも覇気を感じられない。

「聡から連絡があったんだ。お前が家からいなくなったって。それで探してた」

 このままでは会話が成り立たないようなので、先に答えた。

「へぇ、意外。なんか、「そんなの知らん」とか言って、無視しそうなのに」

 顔を上げると、不思議そうにこちらを眺めてキョトンとしている。

 僕はかぶりを振ったあと、すぐに頭を抱えた。

「仕方がないだろ。聡の言葉の奥に、お前の姉さんの顔が……」

「お姉ちゃん? でもなんで? お姉ちゃんに…… あ、もしかして、聞いちゃった、あれ」

 うん。と小さく頷いた。

「なんで関西弁なんだ? なんか、性格変わってんだろ、あれは」

「ハハッ。でも、ちょっと怒ったときだから、気にしないで」

 やはりあれは怒っていたのか、と嘆きたくなる。

 まぁ、半分は衝動的に体が動いてしまったことは黙っておこう。

 それに、ちょっとでも笑うことができるなら、気持ちは軽くなっているのかもしれないのだから。

「一人でお前はなんで、こんなところにいるんだよ」

 半ば叱責するように、静かに聞いた。

「まぁ、ちょっと元気になったから、散歩かな」

 小首を傾げ、屈託ない笑みを浮かべる姫香。この不敵な微笑みからして、大丈夫らしい。

「でも、なんでこの公園に?」

 僕の疑問に、気まずそうに姫香は苦笑し、髪を撫でていた。

「う~ん。気がついたらここにいた、ってのが正直なところかな」

 なるぼど、と今日ばかりはすぐには納得できない。

「それに、薬の量が増えたって聞いたぞ」

 つい責め立てるような口調になってしまう。

「まぁね。でも大丈夫たまよ。ホントに、ここに来たのは偶然だから。怒んないでって」

「その…… 血は吸っていないんだろ?」

「うん。まぁね」

「……そっか。まぁ、別に怒ってなんかいないけどさ……」

 でも、安堵したのが本音である。

 発作を起こした姫香を止められたのもあるが、こいつが人の血を吸わずにいたことに。

「でも、それって発作が起きたってことか……」

「……発作」

「多分、発作のせいで意識が朦朧としていたんだろ。それで、ここには変な雰囲気があるって言っていたから……」

「そう…… なのかな」

「とりあえず、今日は早く帰れよ。それでちゃんと休めよ」

 今日だけは責める気になれなかった。

 今日だけは、今日だけは怒る気になれない。

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