三 ~ 血を吸われることを考えれば…… ~ (11)
ついつい、出ちゃうんだよね。
隠しているつもりもないし、悪気はないんだけど……。
8
「ったく。使いもんにならへんねんから」
声の主を探っていると、さらに乱暴な声が僕にぶつけられた。
聞き間違いなんだと、お姉さんの顔を見ると、訝しげに首筋をさすり、舌打ちをした。
あれ? 本当にお姉さんですか?
と無言の問いを注いでいると、頬を叩かれそうな勢いの鋭い眼光に縛られた。
「ほんまにもうぉ、あの子もアホやなぁ。こんなん、さっさと縛って血を吸えばえぇのに。ったく、もうっ」
「あの…… 気のせいじゃないよな。ってか、なんで関西弁?」
一人憤慨して、腕を組むお姉さんを横目に、聡に小声で聞いてみた。
お姉さんを小さく指差しながら。
「あぁ。梨花さんたちのひい爺ちゃんの婆ちゃんが関西人だったらしいんだ。それで梨花さんはその血を強く引き継いだみたいで、感情が沸き立つと、咄嗟に出るんだって」
呆気に取られる僕を尻目に、聡は平然と答えた。
「ってか、ひい爺ちゃんのばぁ…… って、んなことないでしょ。普通はっ」
「いちいち、うっさいなぁっ。どうでもえぁやろ」
オドオドしているのが気に障ったのか、お姉さんは一蹴し、僕は萎縮してしまう。
なんなんだ、この姉妹はっ。
声に出せないのが悔しいっ。
「それで、姫ちゃんの体調はどうなんですか?」
「調子? んなもん、よぉないわ。ずっと、寝てる」
そこでお姉さんは咳払いをして、
「起きてるときは、普通に喋ってるけどね」
まだ僕には嫌悪感を醸し出しているが、口調が元に戻った。少しは落ち着いたのか?
「あの、薬が切れたら、本当に人を襲ったりするんですか?」
公園のこともあり、ちゃんと確認したかった。多少怖くはあったが。
「ない、とは言い切れないわよ。だから、私も迎えに行っていたのよ」
よかった。お姉さんの口調は元に戻っている。
「その…… これまでにあいつが人を襲ったことって、あるんですか?」
「はぁっ? んな、あるわけないやろっ。姫が人殺しなんかするわけないやろっ、ボケッ」
悪気があって聞いたわけではないのだが、お姉さんの鋭い眼光に灯が灯り、関西弁を発動させてしまう。
気をつけなければ……。
「でも、やっぱり、あの公園のそばは気をつけた方がいいですよ。あの狩り場はどうしても嫌な話が尽きないところだし」
何か思い当たるような節でもあるみたいに、思い詰める聡。お姉さんの表情も曇っていた。
二人して悩む姿に、僕は首を傾げた。
「今田も言っていたけど、あの公園で本当に人が襲われることってあるの? 何かあるなら、やっぱり都市伝説とかで残ってそうだけど」
姫香の話では、不慮の事故程度にしか残らないらしいが、やはり信じられないのである。
「まぁ、普通の人ならそうだろうな。けど、僕らの血筋には、注意喚起みたいな感じで情報が入ってくるんだよ。実際、最近も襲われたって噂はないわけじゃないから」
「じゃぁ、それって今田以外にも吸血鬼がいるかもしれないってこと?」
「可能性としては、ない、とは言えないわね」
「ーーマジで?」
「マジで。だから、姫ちゃんま気をつけた方がいいですよ」
「わかってるんだけどね。あの場所は、血が疼く、みたいなことを話してることあるしね。ま、人を襲って、血を少し貰うのは構わないけど、それを誰かに目撃されると厄介だし」
ーーんんっ? 今、聞き捨てならないことをさらりと言ったような気がするのだが……。
「まぁ、そうなんですけどね」
聡は同調して否定もしない。
いやいやいや。おかしいだろっ。人を襲っていいなんて、そこは否定しろよっ。
「だから、さっさと姫に血ぃ、吸わしたれ。そしたら、姫に変な疑いがかかることないんやから」
うわっ、また出た。
「そうだよ。姫ちゃんを助けてやりな」
と、僕の肩をポン、ポンと叩く聡。
おい、おい、なんなんだっ。一体どうなっているんだ、この吸血血筋って奴らは。常識が通じないのかっ。
公園が悪いってことはないんだけど、やっぱり、噂があるだけに、気になるんだよね。




