三 ~ 血を吸われることを考えれば…… ~ (7)
文句を言いながらも、ちゃんと来てくれるんだね。
優しいから。
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強く断言しておきます。
渋々、渋々なのであります。僕が姫香を迎えに行くのは。
「でも、お前、毎回お姉さんに迎えに来てもらってるのか?」
歩道をゆっくりと歩きながら、僕は姫香にぶつけた。
人通りは少ないが、車道は車も多く、ヘッドライトが少し前を歩く姫香を照らしていた。
姫香は今日もポニーテールに髪を束ねていた。
どうやらこのスタイルがバイトの際の姿らしい。悔しいが、普段の姿と違うためか、ちょっと可愛く見えた。
「まぁ、そうだね。私は気にしなくていいよ、って言ってるんだけどね。ちょっと過保護なのよ」
待ち合わせたコンビニで買ったアイスを頬張りながら、姫香はおどけてみせた。
「お前のこと心配してくれてんじゃないのかよ」
「まぁ、それはそうだけどね」
同じようにアイスを頬張っていると、悪びれもしない姫香に、お姉さんの肩を持ちたくなる。
「多分、帰り道を心配してるってこともあるんだろうけど」
「帰り道?」
「ほら、あの公園あるでしょ。前に会ったところの」
「あのでっかい公園?」
昨日、姫香らに会った公園のことを指していた。ちょうど今歩いている道から少し離れているところに位置している。
「あそこね、私たちの血筋には、変な噂があるのよ」
「変な噂?」
そこで二人とも自然と足が止まってしまう。奇妙な緊張に僕は足を止めてしまい、姫香は夜空を見上げた。
「……吸血鬼の狩り場」
唐突に出た言葉に、僕はアイスを頬張ったまま手を止める。
「ずっと昔からね、あの一帯ではそう呼ばれていたみたい。まだ、栄えていなかったころ、この一帯では、人が襲われることが何度もあったらしいの。ほら、昔は人さらいとかあったでしょ。それこそ、“神隠し”みたいなの。それがこの一帯で多かったらしいのよ」
「じゃぁ、その犯人が吸血鬼だって言うのか?」
姫香は寂しげに頷いた。
「前もって言っとくとね、吸血鬼みんなが悪いわけじゃないのよ。大概が「繋」に助けられたり、薬で抑えていたりして理性を保ってる。でも、なかには人を襲うことに興味や快感を覚えてしまう一部の吸血鬼もいたみたい。そういう人らが、あの公園の近くで人を襲っていたみたいなの」
その瞬間だった。
車道を走っていたトラックがけたたましいクラクションを轟かせて過ぎ去った。
ヘッドライトが姫香の後ろからこちらにもれ、姫香の全身を写し出した。
こちらを見る眼差しが寂しそうであり、冷たくもあり、僕は息を飲んでしまう。これまでの姫香の姿で、一番恐ろしく見えてしまった。
「でも、そんな都市伝説、聞いたことないぞ」
強がって反論すると、姫香が寂しげに口角を上げる。
「前にも言ったでしょ。吸血鬼は何代も続けて生まれるわけじゃない。それに異常な吸血鬼もまれに生まれるわけだから、何十年って続くわけじゃないのよ。だから、普通の人の間では不慮の事故として処理されて、あまり記憶に残ってないんだと思うよ。まぁ、同じ世代に違う家からの吸血鬼が重なることはあったみたいよ」
「お前は…… どうなんだ?」
酷なことは痛感している。けれど、口が勝手に言葉を発していた。
姫香は何も答えはしなかった。何も答えず、僕から顔を背けた。
「……ごめん。嫌なこと聞いて」
「まぁ、発作が絶対に出ないって保証はないからね。だから怖さはあるよ。自分が人を襲わないかっていうね。それにさ、あの公園の周りって、変な空気っていうかな、それが漂っている感じがするんだよね。だから、お姉ちゃんも心配して一緒に帰ってくれるんだと思う」
「誰かと一緒だと大丈夫なのかよ」
「う~ん。絶対とは言えないかな、誰もいなかったら、襲うかもしんない…… でも、喋っていたら気が紛れるし」
なるほどね……。
意外である。こいつがここまで考えているのも。吸血鬼のなかにも、そんな不安があったことも。
……なんだろう。そんな話を聞いてしまうと、ちょっと考えてしまう。
「……わかった」
思わず呟いていた。すると姫香の目に光が灯った。
「「繋」になってくれるの? それなら、私の発作の心配もないからさ」
「……違うよ、それは。でも……」
吸血鬼にしかない問題ってやつなのかな、やっぱり。
心配してくれるんだ。




