三 ~ 血を吸われることを考えれば…… ~ (8)
突然、突拍子のないことを聞かれても、ちゃんと答えることなんてできない。
5
「なぁ、お前って今田とつき合ってるの?」
朝、学校に着いて席に座ろうとしていると、吉村が駆け寄って来て、目を丸くしながら聞いてきた。
「はぁ? んなわけないだろ」
まったく。何を言い出すのか……。
珍しい物を見ているように、あたふたと聞く吉村を軽くあしらう。
椅子を引いたとき、斜め後ろの姫香の席を見ると、あいつはまだ登校はしていなかった。
「でも、最近、お前らがよく喋ってるじゃん。あの今田だぞ」
「“あの”って何がだよ。別にほかの奴とも普通に喋ってるだろ。まぁ、最近は前よりも喋るようにはなったけど」
姫香をバイト帰りに迎えに行ってから二週間が経とうとしていた。
その間に、姫香の学校での姿も少し変わっていた。以前よりも周りと喋っている様子に見えた。
「でも、夜にお前が一緒に歩いてるのを見たって聞いたぞ」
「あぁ、それね」
実は、二週間前、姫香から吸血鬼の話を聞き、咄嗟的に僕はバイト帰りに迎えに行ってもいい、と提案していた。
姫香が一人であの公園のそばを歩き、発作に襲われる不安があるのなら、それをごまかすために一緒に帰ってもいい、と言ったのである。
予想にもしていなかったらしく、姫香は目を点にしていた。
ちょっとした同情かもしれないが、自分が一緒に歩けば、気が紛れて平常心を保てるのなら、と思ったからである。
最初は疑い深く「本当に?」と執拗に聞いてきたが、何度も「そうだ」と頷くと、姫香はさらに驚いていた。
そして、それから姫香がバイトのとき、僕は駅の方へと迎えに行き、姫香の家の近くまで送っていた。
姫香を守るため? いやいや、そうじゃない。発作を起こしたあいつから、誰かを守るために僕は行っているのだ。
何度もそう自分に言い聞かせていた。
おそらくその帰り道を誰かに目撃されたのだろう。
「たまたまだよ。たまたま。駅の方に用事があって、行ったらあいつと会った。それで喋っていただけだよ。深い意味なんてないさ」
椅子に座り、あくびと伸びをしながら、あしらった。下手に話をして複雑にするのも厄介なので。
それでも納得できない吉村は、くじけずに前の席の椅子に、こちら側に正面を向けて座り、前のめりに首を伸ばしていた。
これは尋問なのか?
吉村は眉間にシワを寄せ、厳しい表情を崩さない。
ま、無視をしていれば、いずれは諦めるだろう。窓の外を眺めると、晴れてはいるが、風が強いらしく、雲の流れは早かった。
雨が降れば面倒だな、と考えているとスマホが鳴った。
ーー 今日もよろしくね。
と姫香からの連絡。もとい、催促であった。
短い言葉に溜め息をこぼし、
ーー うるさいっ。
と文字を打つ。
「でも、今田の奴はお前とつき合ってるって言ってるらしいぞ」
返信をした途端、吉村から信じがたい言葉が発せられる。
「ーーはぁっ?」
提案をしたのは善意であって、そこに変な気持ちなんかないさ。




