三 ~ 血を吸われることを考えれば…… ~ (6)
あいつからの連絡に、悪い予感しかないのだが、どうなんだ……。
やはり、切るべきだと直感していると、
「あ~、はいはい。ちょっと待って。僕じゃないんだ」
耳元で本気で慌てる聡の様子に、僕の手も止まる。
「今、代わるから待ってろよ」
代わる? 聡の反応に首を傾げていると、
「ーーもしもし」
どこかで聞いたことのある女性の声。柔らかく、落ち着いた口調の女性に僕がまごついていると、
「覚えてくれてるかな。私、今田梨花って言います」
……今田? あっ。
「昨日の、あの、今田さんのお姉さん?」
「えぇ。昨日は素っ気なくてごめんなさいね」
「あ、いえ、そんな」
想定外の人物からの声に僕は戸惑ってしまい、背筋を伸ばしてしまう。
「あの。どうかしたんですか?」
なぜ、聡を介して連絡をしてきたのか意図が掴めない。
「ごめんなさいね。あなたにちょっと相談があったんだけど、連絡先がわからなくて。それで聡くんに聞いたらあなたの連絡先を知ってるって」
聡が知っているのも、問題がある気がするんだけど……。
「相談、ですか?」
神妙な口調になるお姉さんに、身構えてしまった。
「あなた、姫の事情は知っているわよね」
「えぇ、まぁ大体のことは」
不可抗力ではあるのですが。
「じゃぁ、あの子がいつ発作が起きてもおかしくないことも」
「まぁ……。でも、薬を飲んでおけば大丈夫なんでしょ?」
「その薬も“暗示”だって知ってるでしょ。だから、完全に大丈夫だって言えないのよ」
まぁ、確かに。
「学校に通っているときは人の目もあって、理性も働くから大丈夫らしいんだけど、一人になると、おぼつかないときがあるらしいよ。あの子、それで一度、学校でも発作が起きたみたいだし」
あぁ、あれですね。嫌な思い出です。
「じゃぁ、一人になるとまだ、その危険ってことですか。その、人を襲うかもしれないって」
「そうね。それであの子がバイトの帰り、一人になるのが不安らしくて、私がいつも迎えに行っているんだけどね」
まさかとは思うが、違うよな。
「それで、相談なんだけど、明日あの子のバイトなんだけどね。実は私にも用事があって、迎えに行くことができないのよ」
「……はぁ」
「だからね、あなた明日、姫を迎えに行ってくれないかな?」
「ーーはい?」
思わず声が上擦ってしまい、体も前のめりになってしまう。
いやいやいや。なんで僕が?
「ダメかな?」
いや、ダメでしょ、と頭では反論したいのだが、声が喉の奥で詰まってしまう。
「あの子、どうもあなたになら気を許してる気がするのよね。それに事情を知っている子がそばにいてくれるなら、私も安心できるから」
いや、それなら聡もそうでしょう。
「やっぱり無理かな。明日だけでいいんだけど」
もちろん無理です。
と言いたいのだが、常識のある喋り方で改まって頼まれてしまうと迷ってしまう。
昨日会った印象としては、悪い人には見えない。
例え、あの姫香の姉だとしても、邪険にしていけない気は少なからず、ある……。
「ーーわかりました」
まさか、そんなことを頼んでくるのか……。
なんか、ズルい気が……。




