三 ~ 血を吸われることを考えれば…… ~ (4)
どうも、語弊がある。
いや、誤解。間違いである。
言われてみれば、どことなく姫香に雰囲気は似ていた。
「同じクラスの古川くん」
「どうも」
「こんばんは」
姫香に紹介され、反射的に頭を下げると、優しい声が返ってきた。
なんだろう。上品という言葉が似合う声に聞こえた。
「ーー友達?」
首を傾げて聞いてくるお姉さんに、僕はたじろいでしまう。
こいつに襲われそうになりました、とは決して言えないのだから。
「それとも彼氏?」
「いえ、それはーー」
「ううん。まだ、そこまではなってない」
即答するつもりであった。正直、こいつと恋人関係は絶対に有り得ないのだから。
しかし、その声に被さるように姫香が遮る。慌てて僕は手をブンブンと、強く振った。
「おま、何、勝手なことを言ってんだよ」
「ーーえっ、だってそうじゃん。ほら、あの教室で私を押し倒してーー」
「それは、お前だろっ」
「それに保健室に私を連れて優し~く」
姫香は自分の体を抱きしめるように腕をギュッと抱き、恥ずかしがるように首を振る。
「ーー保健室?」
姫香の語弊のある説明に、お姉さんの眉が歪み、訝しげに僕を睨んでくる。
「おま、お前はなんで人に誤解を招くような言い方をするんだよっ。違いますから。絶対にそんなことはないですから」
ふざけて体をクネクネとする姫香を一括し、完全に危ない男として睨んでいるお姉さんに、両手を見せて制した。
まったく、本当に学校でのこいつとはまったく違う。どうやら、こっちが本性なのか? それとも二重人格?
吸血鬼で二重人格? それはないか……。
「じゃぁ、せめて「繋」になってよ」
「繋? この子が?」
「またそれか。だから断るっ」
繋と聞いても平然とするお姉さん。やはり吸血鬼では驚かないのか。
「ふ~ん。この子が候補の子なの?」
「ーーそ。まだ全然、乗ってくれないんだけどね。ワガママで」
「ーーどっちがだっ」
一体、どれだけ同じ言い争いをしなければいけないんだ。まったく疲れる。
「ごめんね。妹が迷惑かけちゃって」
「あ、いえ、そんな」
なんだ、この真っ当な反応は。笑って謝ってくるお姉さんに僕は恐縮です、と手を振って苦笑した。
いやいやいや。これが常識ある人の礼儀であるはずだ。それこそ、本当にこの二人は姉妹かと疑いたくなる。
「さ、姫、帰るよ。あんた、どうせ薬まだ飲んでないんでしょ」
「ここで古川くんが血を吸わせてくれたら、楽なんだけどな」
と、媚びるように見てくる姫香から顔を背けた。もう返事すらする気にならない。
「ほら、行くよ。結構、この公園、変な感じだからね。あんたもバイト帰り危ないんだし。それにこんなところで発作が起きても大変なんだし」
あれ。そんなにこの公園、何かあるか?
ふと、もう一度公園の内部を眺めてみた。
街灯のない内部は確かに人目はなく、物騒なのは理解できそうだ。
「じゃぁ、また明日ね、古川くん」
「あなたも気をつけてね」
「あ、はい。どうも」
反応がまったく違う、と呆気に取られながらも、会釈をして、僕らは別れた。
この公園には何かあるらしいが、発作の起きた姫香の方が危険じゃないか、と遠離る二人に毒づきながらその場を離れた。
本当に姉妹なのか?
いやいやいや。それにしては、雰囲気が違いすぎるだろ。




