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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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20/57

 三 ~  血を吸われることを考えれば……  ~ (2)

 血は吸われたくない。

 けど、疑問もあることはある。

 短く答えて、スッと息を吐いた。

「人の血を定期的に吸うことで、気持ちは治まって、発作も起きないらしいの。ま、私はまだ血を吸ったことはないんだけど、この前、古川くんを襲った発作は、言わば薬の副作用みたいなものね。薬で無理矢理抑え込んでるから」

 さっきの僕の警戒は杞憂だっみたいだ。

 これまで血に関して聞いて話すときは、目を輝かせていた姫香であったが、今は遠くを眺める姿が寂しげに見える。

「ーーだから」

 ……だから?

「古川くんの血をちょうだい」

 結局それかいっ。

 数秒前の気持ちを返してほしいくらい、姫香に不敵な笑みが戻っていた。

「大体、なんで僕にこだわるのさっ。血が目的なら、ほかの奴でもいいだろ。それこそ、聡だって」

 咄嗟に体をズラして姫香から距離を取って怒鳴った。

 姫香は悔しがって首をすぼめる。

「イヌくんはダメ。私にまったく興味ないし。イヌくんはお姉ちゃん一筋だから」

「ーーお姉ちゃん?」

「うん。私ね、お姉ちゃんがいるの。イヌくんはそのお姉ちゃんが好きなの。まぁ、お姉ちゃん自体は気にしていないみたいだけど」

 こいつのお姉ちゃん…… なんだろう、こいつ以上に危険に思えてしまう。

「じゃぁ、なんで僕は?」

 恐る恐る自分を指差しながら聞くと、姫香は満面の笑みで応えてくれた。

「古川くんってさ、野菜ジュースをよく飲んでるでしょ」

 まぁ、それは確かに否定はできない。今も右手に持っているのだから。

「でね、野菜に気を遣ってるってことは、血液もさらさらかなぁ~って思って」

 頬のホクロを触りながら説明する姫香。

 どうも、じっと話を聞いていると、目眩がしそうである。

「大体、普通はみんな怖がるに決まってるだろ。好きで血をやる奴なんてーー」

「なかにはいるよ」

 カフェオレを飲みながら呟く姫香。嘘だろ、と僕は耳を疑い、口を半開きにしてしまう。

「そんな奴、いるわけが」

「いるのっ。代々、吸血鬼として生まれた人に、自分の血を与えて、発作を抑える役割を持った、そういう親切な人が」

「ーー嘘だろ……」

「まぁ、友人とか、恋人だったらしいんだけど、そういう人を、「繋がる」って書いて「繋」って呼んでいたみたい」

「ーーけい?」

「うん。そういう存在を持った人は、薬に頼らなくても、自制を保てるってわけ。その方が、薬より断然リスクは少ないみたいなんだ」

「……なるほどね」

 じゃぁ、薬はそんな存在が見つかるまでの繋ぎってことか。それで、こいつは薬を持っているのは、そういうことか。

「あのさ、もしその「繋」って存在を見つけられなかったり、長い間、薬を切らしていたらどうなるんだ?」

 素朴な疑問をぶつけた。

「まぁ、最悪、人を襲ってしまうかもね。多分、この前の私以上に凶暴になって」

「……なんか、大変だな」

 自然とこぼれてしまう。姫香も寂しげに遠くを眺めている。こいつも最悪そうなるというのか?

 じっくりと話を聞いていると、吸血鬼とやらも大変なんだな、と多少の同情もしてしまう。

 姫香はこの先、どうするのか、とふと横顔を見たとき、背筋が凍ってしまう。目を細める姿を直面してしまい。

 どうせ、ろくなことを考えていないはずである。

「でね、古川くん、私の「繋」になってくれない?」

 ほらなっ。

「ーー断る」

 期待に満ちた笑顔に放つのは爽快である。

 当然であろう。そんなことを受け入れるわけにはいかない。

 僕な返事に、絶望の淵に立たされたみたいに、姫香の表情が歪んでいく。

 そこに僕は追い打ちをかけて、満面の笑みを献上してやった。

 爽快さに心を躍らせていると、姫香はプイッと拗ねて顔を背けた。

「そんなことを言って、もし薬が切れて人を襲ったらどうするのさ」

 まったく。とんだ八つ当たりである。

「知るかっ。それならずっと薬を飲んでろ。それで大丈夫なんだろ」

「だから、薬は高いの。そのせいでバイトしてるんだから。私だって苦労してんのよ」

「それこそ知らん。薬を飲むことが人助けだろっ」

「私を助けると思って、ね」

「ーー断るっ」

「私、絶対に諦めないよっ」

「諦めろっ」

 「繋」?

 それこそ、信じられないのだが……。

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