三 ~ 血を吸われることを考えれば…… ~ (1)
人殺しにはなりたくらいからね。
やっぱり我慢してる。
第三章
1
どこか話をはぐらかされた感じなのは否めなかった。
だったら、お前が血を吸わせろと反論してみるが、「僕は無理」との一点張りに終始し、最後は「ちゃんと姫ちゃんと話したら」と一方的に話は切られた。
まったく。自分からかけておいて切ってしまうとは身勝手な奴である。
釈然としないまま時間はすぎてしまう。
次の日、結局は聡のおかげで寝不足気味になっていた。これではアクビが止まらない。
まぁ、聡の話をまったく鵜呑みにしていない、と言えば嘘になる。人を殺してしまうかも、と聞いてしまうと、気がかりになってしまう。
そして、当の本人である姫香は、昨日のふざけた様子はなく、ほかの女子生徒と話して盛り上がっていた。
周りと溶け込む姿は、ごく普通の女子高生であり、違和感なんてない。
「なぁ、今田、ちょっといいか?」
少なからず、聡のことが影響していた。
昼休み、パンやジュースを買いに賑わう売店で、同じようにパンを買っていた姫香に、つい僕は話しかけてしまった。
突然話しかけられた姫香は、少し驚いた様子で微笑み、「何?」と首を傾げた。
その落ち着いた仕草は、僕にしては猫を被っているとしか見えず、憎らしい。
が、ここは平静を装い、姫香を屋上に誘った。姫香はちょっと戸惑いながらも「うん」と頷いてくれた。
「やっと、血をくれる気になってくれた?」
屋上に出て、ほかに生徒がいないのを知ると、それまでの仮面を取った。すぐさま姫香はくるりと体を反転させて、すぐに迫ってきた。
「んなわけあるか、バカッ」
即答である。そんなことのために呼んだんじゃない。
それでも胸の辺りで手を組み、期待に満ちた眼差しを注ぐ姫香をあしらい、辺りを見渡した。
閑散とした屋上。確かにほかの生徒はおらず、よく晴れた空にたたずむ、太陽だけが僕らを見下ろしていた。
燦々と輝く太陽を憎らしく睨み、屋上の淵に設置されたフェンスに近づいて座った。
まったく話に乗らない僕に苛立ちながらも、姫香も僕の隣に座り、先ほど買っていたパンを広げていた。
いただきます。とパンを頬張る姫香。その姿を見ていると、本当に吸血鬼なのかと疑ってしまう。
「なぁ、発作のことを聞いたんだけど、あの薬ってそんなに大事なのか?」
「薬? あぁ、あれ。うん。あれがないと、私って人を襲うから」
それは命にも関わるのかがずっと気がかりになっていたので、つい聞いてみた。
「やっぱり、特別な配合がされていてさ、高いんだよね。ホント、困る」
高いって、ただのサプリだろ、とは言えなかった。
姫香はまったく、と嘆きながらパンをさらに頬張る。
「おかげでさ、今日もバイト。親もさ、私の体のことを知っているなら、ちょっとは援助してくれたらいいのに。イヌくんだって、安くしてくれたら助かるのに、「商売だから」って安くしてくれないのよ。ホント、ケチッ」
「じゃぁ、あの薬を飲まない方法って本当にないのかよ」
素朴な疑問であり、昨日の夜も聡にはぐらかされたことでもあった。
何気に聞いただけであったが、姫香の動きが一瞬止まり、手を下ろすとまばたきをする。
ふと空を見上げたとき、僕はしまった、と後悔に襲われる。
「ーーあるよ」
吸血鬼だって。苦労しているんだから。
いろいろとね……。




