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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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13/57

 二 ~  吸血鬼? 吸血鬼って普通なのか?  ~ (3)

 嬉しいんでしょ?

 だから、変なことを考えないで。

            3


 ふむ……。どうするべきなのか……。

 仮にも、可愛い女の子から「つき合って」と懇願されると、男としてはその気がなくても嬉しいものである。

 きっと、心も晴れていくのが普通なのだろう。だが、姫香にこの台詞をいわれると、身の毛がよだってしまった。

 仮にも、姫香が可愛い女の子であるのは事実ではあるが、どうしても、この二日間で姫香に体する印象が百八十度、変わってしまったのである。

 実際、保健室での突然の告白には、裏があった。まぁ、一瞬ではあるが、心が揺らいでしまったのだが。

 僕の未熟さゆえではある。

「ーー行くって、どこに行くんだよ」

「ーー薬屋」

 つき合って、という真意は交際という形ではなく、買い物に行くのにつき合ってほしいという趣旨であった。

 もちろん、僕は断ったさ。もう、振り回されたくないのだから。

 でも、僕は姫香の後ろにいた。

「薬屋って、ドラッグストアなら、駅前にもあっただろ」

「これから行くところは特別なの」

 閑静な住宅街のなかを、とぼとぼと歩いていた。

「ったく、それぐらい一人で行けよな」

 ボソッと嫌味を吐き捨て、嘆いていると、姫香は不意に立ち止まり、くるりと振り返る。

 釈然とせず、唇を尖らせながら。

「だから、責任取ってって言ってるのよ」

「はぁ? なんだよ、責任ってなんの責任だって言うんだよ」

「だってそうでしょ。学校でちゃんと古川くんが血をくれていたら、倒れることなかったんだし。それに」

「ーーそれに?」

「だ~れもいない保健室で私の体を好き勝手あ~だ、こ~だって。もう。それも二日続けて、気絶してるのをいいことに」

「はぁ? 何勝手なこと言っているんだ。僕はお前を助けただけだろ」

 姫香は自分の体をギュッと抱きしめ、何かに怯えるように首をすくめると、全身を小刻みに震えさせた。

 あたかも、強姦に襲われたみたいに。そして、最後に訝しげに見てくる。

 とんだ誤解だ。そんなことはしていない。ここは声をあげずにはいられない。

 それでも、変に意識してしまい、倒れていたときの無防備な姫香の顔が浮かんでしまう。

 悔しいが、顔が赤くなる。

「でも、保険室には私とあなただけだったでしょ?」

 やけに二人だったのを強調…… 体を守る体勢を崩さない姫香を見ていると、その意図が見えてゾッとした。

 これは脅迫なのだ。従わなければ、嘘を言いふらすと……。

 姫香の笑顔はそう伝えようとしている。

 普段はふざけた態度を取るような奴ではない。仮に嘘であっても、真面目な姫香が怯えながらにそんなことを言えば、みんな信じてしまうだろう。

 断言しておくが、僕だって真面目で通っている。自分で言うのも癪ではあるが、あまり目立たない方である。

 男と女。世間ではどちらの言い分を信じるのかは明白。悔しいが、ここは従うしかない。

 うなだれながら「はい」と頷くと、それまでのことが嘘みたいに無垢な笑みを僕に献上すると、また歩き出した。

 渋々僕もあとを追う。

「ーーで、薬ってなんなんだよ?」

「うん。まぁ、簡単に言えば、栄養剤。サプリみたいなものかな。まぁ、特別みたいだけど」

「ーー特別?」

 ちょっと気がかりになり、聞いてみると、姫香は顔のホクロの辺りを触って首を傾げる。

「確か、鉄分にビタミンB…… あとは、カエルの○○(自主規制)ヘビの△△(自主規制)イモリの××(自主規制)それにほかには……ーー」

 いやいやいや。待て、待て。なんだその限りない自主規制のオンパレードは。

 平然と指を折って数える姫香の隣りで、僕の表情は一気に青ざめていく。

 吐き気に襲われていると、それに気づいた姫香が振り向き、

「仕方がないじゃない。私の体は特別みたいみたいだから。普通のじゃダメなの」

「いや、ってか、そんなの薬じゃないだろ」

「でも、飲まないと昨日みたいに発作が起きたり、気分が悪くなっちゃうんだし」

「ほかに方法は?」

 普通に心配になってしまう。

「ーーあるよ」

「じゃぁ、そっちをーー」

 いや、待て。これまでのことを考えると……。

「じゃぁーー」

「ーー断るっ」

 即答すると、姫香はわざとらしく唇を尖らす。やはりそうなのか。

 わかってしまう自分は……。

「ったく、もうっ。ワガママなんだから……」

「どっちがだよっ」

 もう嘆くしかない。僕の方がここで倒れそうだ。まったく。

「ほら、この先にあるの」

 頭を抱えながら歩いていると、姫香は声をかける。

 溜め息交じりに顔を上げると、ある商店街のアーケードの前に立っていた。

 そこは、どこにでもある普通の商店街の入口であった。

 責任。

 責任は大事だよね。

 

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