二 ~ 吸血鬼? 吸血鬼って普通なのか? ~ (3)
嬉しいんでしょ?
だから、変なことを考えないで。
3
ふむ……。どうするべきなのか……。
仮にも、可愛い女の子から「つき合って」と懇願されると、男としてはその気がなくても嬉しいものである。
きっと、心も晴れていくのが普通なのだろう。だが、姫香にこの台詞をいわれると、身の毛がよだってしまった。
仮にも、姫香が可愛い女の子であるのは事実ではあるが、どうしても、この二日間で姫香に体する印象が百八十度、変わってしまったのである。
実際、保健室での突然の告白には、裏があった。まぁ、一瞬ではあるが、心が揺らいでしまったのだが。
僕の未熟さゆえではある。
「ーー行くって、どこに行くんだよ」
「ーー薬屋」
つき合って、という真意は交際という形ではなく、買い物に行くのにつき合ってほしいという趣旨であった。
もちろん、僕は断ったさ。もう、振り回されたくないのだから。
でも、僕は姫香の後ろにいた。
「薬屋って、ドラッグストアなら、駅前にもあっただろ」
「これから行くところは特別なの」
閑静な住宅街のなかを、とぼとぼと歩いていた。
「ったく、それぐらい一人で行けよな」
ボソッと嫌味を吐き捨て、嘆いていると、姫香は不意に立ち止まり、くるりと振り返る。
釈然とせず、唇を尖らせながら。
「だから、責任取ってって言ってるのよ」
「はぁ? なんだよ、責任ってなんの責任だって言うんだよ」
「だってそうでしょ。学校でちゃんと古川くんが血をくれていたら、倒れることなかったんだし。それに」
「ーーそれに?」
「だ~れもいない保健室で私の体を好き勝手あ~だ、こ~だって。もう。それも二日続けて、気絶してるのをいいことに」
「はぁ? 何勝手なこと言っているんだ。僕はお前を助けただけだろ」
姫香は自分の体をギュッと抱きしめ、何かに怯えるように首をすくめると、全身を小刻みに震えさせた。
あたかも、強姦に襲われたみたいに。そして、最後に訝しげに見てくる。
とんだ誤解だ。そんなことはしていない。ここは声をあげずにはいられない。
それでも、変に意識してしまい、倒れていたときの無防備な姫香の顔が浮かんでしまう。
悔しいが、顔が赤くなる。
「でも、保険室には私とあなただけだったでしょ?」
やけに二人だったのを強調…… 体を守る体勢を崩さない姫香を見ていると、その意図が見えてゾッとした。
これは脅迫なのだ。従わなければ、嘘を言いふらすと……。
姫香の笑顔はそう伝えようとしている。
普段はふざけた態度を取るような奴ではない。仮に嘘であっても、真面目な姫香が怯えながらにそんなことを言えば、みんな信じてしまうだろう。
断言しておくが、僕だって真面目で通っている。自分で言うのも癪ではあるが、あまり目立たない方である。
男と女。世間ではどちらの言い分を信じるのかは明白。悔しいが、ここは従うしかない。
うなだれながら「はい」と頷くと、それまでのことが嘘みたいに無垢な笑みを僕に献上すると、また歩き出した。
渋々僕もあとを追う。
「ーーで、薬ってなんなんだよ?」
「うん。まぁ、簡単に言えば、栄養剤。サプリみたいなものかな。まぁ、特別みたいだけど」
「ーー特別?」
ちょっと気がかりになり、聞いてみると、姫香は顔のホクロの辺りを触って首を傾げる。
「確か、鉄分にビタミンB…… あとは、カエルの○○(自主規制)ヘビの△△(自主規制)イモリの××(自主規制)それにほかには……ーー」
いやいやいや。待て、待て。なんだその限りない自主規制のオンパレードは。
平然と指を折って数える姫香の隣りで、僕の表情は一気に青ざめていく。
吐き気に襲われていると、それに気づいた姫香が振り向き、
「仕方がないじゃない。私の体は特別みたいみたいだから。普通のじゃダメなの」
「いや、ってか、そんなの薬じゃないだろ」
「でも、飲まないと昨日みたいに発作が起きたり、気分が悪くなっちゃうんだし」
「ほかに方法は?」
普通に心配になってしまう。
「ーーあるよ」
「じゃぁ、そっちをーー」
いや、待て。これまでのことを考えると……。
「じゃぁーー」
「ーー断るっ」
即答すると、姫香はわざとらしく唇を尖らす。やはりそうなのか。
わかってしまう自分は……。
「ったく、もうっ。ワガママなんだから……」
「どっちがだよっ」
もう嘆くしかない。僕の方がここで倒れそうだ。まったく。
「ほら、この先にあるの」
頭を抱えながら歩いていると、姫香は声をかける。
溜め息交じりに顔を上げると、ある商店街のアーケードの前に立っていた。
そこは、どこにでもある普通の商店街の入口であった。
責任。
責任は大事だよね。




