二 ~ 吸血鬼? 吸血鬼って普通なのか? ~ (2)
突然倒れられても、困るじゃないか。
何をすればいいのか迷ってしまうから。
2
これは非常事態なのか?
「おい、今田、おいっ」
咄嗟にしゃがんで姫香の肩を揺さぶった。
反応は…… ない。
「これって、マジなのか? あれ?」
なんだ、急に寒気が。これは姫香に対しての恐怖じゃない。心配か? うん、多分。
何度も肩を揺らしても反応がない。
「……っと、ごめん。大丈夫、大丈夫だから……」
そこでようやく姫香は目を覚まし、呟いた。それまでの元気も勢いはまったくない。
もちろん、昨日みたいな狂気さも。
ただ頬を歪め、苦痛に耐える姿は痛々しい。本当に大丈夫なのか疑わしい。
「お前、どうしたんだよ」
「……大丈夫。ちょっと、体が痛くて。大丈夫。しばらくするともとに戻るから……」
「大丈夫って、そうは見えないぞ。お前、もしかして昨日も?」
姫香はつらそうに苦笑する。これは尋常ではない。
「まさか、これって、血を吸わないといけない、とか言うなよ」
いやいや。だからって吸わせるわけではないぞ。でも、倒れたままで苦笑する姿に、ふざけているわけではないのはわかる。
「……ったく。なんだよ」
こんなときにしなければいけないことぐらい、わかっているさ。僕だって薄情ではないのだから。
このデジャヴはなんなのだろう?
確か、昨日も同じ状況だったよな。
まさか二日続けて姫香を保健室に運ばなければいけなくなるとは。
まぁ、あのまま教室に放っておくわけにもいかないのだし、仕方がないのだが。
しかも、今日も野菜ジュースを奢らなければいけなくなるとは。
僕に運というものは見放されてしまったのか?
「もう大丈夫なのか?」
釈然としない気持ち悪さを残しながら、聞いた。
姫香が目を覚ましたのは十分ほど前。
どこか瀕死に見えてしまい、ちゃんと生きているのか微妙であったために心配していたのだが、それは杞憂に終わってくれた。
目を覚ました姫香は、虚ろな目をしていたが、ベッドに座っている。これには僕も安堵したのだが、第一声に「野菜ジュース」とせがまれると、目眩がしてしまった。
もちろん、「知るかっ」と突き放したさ。でも、僕をじっと見詰めて舌舐めされてしまう。
それは「血でもいいよ」と言われているみたいで、背筋が凍ってしまい、従わずにはいられなかった。
「で、調子はどうなんだ?」
「うん。落ち着いた」
穏やかな声に安堵し、丸椅子に座りながら腕を組んだ。
昨日は圧倒されていて、オドオドとしていたが、今日は違う。こちらが上位に立って話を進めなくては。うん。
「あぁ、でも、ちょっと、驚いちゃった。まさか野菜ジュースで気持ちが落ち着くなんて」
「何、言ってんだよ」
「ごめんね。最近、ちょっと薬を切らしていたからさ。気分が悪くなって。それで」
「薬って、なんの? 貧血かなんか?」
突然倒れて、思い当たる病気を言うが、姫香はかぶりを振る。
「だから、血」
いや、ちょっと待て。話が通じない。いたって真剣な顔をされても、納得なんかできない。
「ちゃんと、古川くんが血を吸わせてくれていたら、こんなことにはならなかったんだからね」
「いやいや。んなわけないだろっ」
「こうなったら、責任取ってもらおうかな」
どうも雲行きが怪しい。急に猫なで声になった姫香。恐ろしくなって、僕が眉間にしわを寄せると、姫香は胸の前でパンッと両手を合わせた。
しかも、よからぬことを企んでいそうな笑顔を添えて。
うろたえていると、目を細められる。その裏で何を考えているのかは見え見えである。
「ねぇ、つき合って」
完全に何かを企んでいる。
それは絶対によからぬことであるのは明白じゃないかっ。




