二 ~ 吸血鬼? 吸血鬼って普通なのか? ~ (4)
そこは普通の薬屋? 薬局?
でも、そこは……。
普通?
4
閑静なごく普通の住宅街に面した商店街。商店街の入り口付近には市電の駅があり、そのためか人通りは多かった。
両脇には商店が並び、賑わっている。何代にも渡り、受け継がれているであろう酒屋や八百屋には、親子経営なのか、雰囲気の似た店員が客と話していた。
一方で、大手のコンビニやコーヒーショップといった店も並んでおり、昔と今とが調和された商店街を歩かされていた。
ずっとふざけている姫香について行くと、不意に商店街から脇道にスッと抜けた。
細い路地は商店街の活気が薄れて静かに見えたが、居酒屋があり、ここもそれなりに賑わっていそうな路地で、姫香は唐突に歩みを止めた。
「ここって?」
立ち止まったのは一軒の店の前。「ーー薬店」と書かれた看板が掲げられた。こちらも老舗としての雰囲気を醸し出していた。
言っちゃ悪いが、田舎にポツリとありそうな、そんな素朴? な店であった。
「イヌくん、いるぅ?」
たたずまいにたじろいでいる僕を尻目に、姫香は悠々とガラス張りの店の扉を開き、なかへと入った。
呆気に取られながらも、僕も恐る恐るではあるがあとに続いた。
店内に入り、多少ではあるが面喰らってしまう。正直、寂れた印象を持っていたのだが、奥行きがある広い空間に、照明も明るく、嫌な気持ちにはならなかった。
商品棚には、お菓子や洗剤、化粧品といった、ごく普通のドラッグストアで売っているのと変わりはない。
……三千円っ?
だが、値段はお世辞にも安いとは言えない値札が貼られていた。その値段に、つい眉をひそめてしまう。
「お~、姫ちゃん」
商品に目を奪われていると、奥のカウンターから男の弾んだ声が飛んできた。
姫ちゃん? とつられて視線を動かすと、姫香が小走りでカウンターへと進んだ。
「久しぶりじゃん。元気だった?」
「無理~。だからここにきたんじゃん」
やけに元気がいいな。学校でのあいつはこんなんだったか? まぁ、女子とはそうだけど、男と楽しげに喋っているのは珍しいな。
どんな人物なのか気になり、首を伸ばしてみるが、カウンター越しにいる人影は、姫香が影となって確認できなかった。
「今日はどうしたの? もしかして、梨花さんからの伝言?」
「残念。今日は薬を貰いに来たの。薬、ちょうだい」
「薬って、いつもの? あれ? いいの?」
陽気に話していたが、急に声を詰まらせ、何かを気にかけると、体を傾かせて店を見渡した。
「あ、大丈夫、大丈夫。彼、事情は知っているから」
「ふ~ん。そうなんだ」
どうやら僕のことを気にしていたらしく、姫香の説明に納得しているみたいなのだが、どこか刺々しい視線を感じてしまい、顔を背けた。
しかし、なぜだろうか。この声に胸がざわついてしまう。
「彼ね、私に我慢しろ、我慢しろって言うの。せっかく私がちょうだいってお願いしてるのに。しかも、押し倒してもダメって言うのよ。ホント、ケチなんだから。ね、古川くん」
「またお前は。何誤解を招くようなことをっ」
「だって、本当だもん。血、くれないじゃん」
このままいけば、僕はとんでもなく最低な人に陥れられそうだ。つい反応してしまい、声を荒げて姫香に近寄った。
「ーー古川?」
またしても物欲しそうに唇に指を当てて僕を見る姫香。その奥から男が体を斜めにして僕を覗き込んできた。
このまま姫香の頭を叩きたい衝動に駆られていたが、男と目が合ったとき、勢いに任せていた体が止まり、まばたきをしてしまう。
あれ? なんだこの胸騒ぎは? いや懐かしさなのか?
「古川って、あれ? お前、もしかして古川亮平?」
えっ? なんで僕の名前を? それも、下の名前……。
男は白衣を着ていたが、その下はどこかの学校の制服らしい白シャツに、赤いネクタイをしていた。
年は僕らと同じ高校生らしい。
制服は僕らと違うので、バイトだろうか?
坊主頭に近い短髪に、細めた目がキツネみたいに鋭く、背は姫香と同じぐらいらしく、僕よりかは小さそうだ。
年よりも幼く見えるのは、髪型のせいなのか、面長な顔に記憶が激しく渦を巻き、人影が脳裏を巡る。
「お前、犬飼か?」
「やっぱ、亮平か?」
思わず声を張り上げ、指差して驚いてしまった。
犬飼 聡。
こいつは小学校のとき、引っ越した奴であり僕の友人でもあった奴。
極端にホラーが苦手な奴で、教室での姫香との経緯で、ふと思い出していた人物である。
しかし、なんでこいつが?
「ーーえっ? イヌくんの知り合いなの?」
「そっ。小学校のときにね。まぁ、僕は引っ越したんだけどさ」
こいつらが知り合い?
「もしかして、亮平って、姫ちゃんの彼氏?」
あれ? 今、姫香は血がどうとかって、あれ? それって? えっ?
懐かしいのか?
懐かしさを抱いてもいいのか?
……ダメな気がする……。




