第44話 対面
「ティア……お前の下に行くのが少し遅れる。だけど必ず迎えに行ってみせるから、それまで俺の我が儘を許してくれ」
反国家組織、コルキウス。
腐敗した国の上層部を打倒し、新たな政権を立てるために武力を行使するテロ集団。
この世界の主権は王にあり、意見を飛ばせるのも王の息のかかった貴族達だけ。国民の意見は聞き入れられることは一切なく、全てが特権階級のものによって動いていく。
そうなっている以上、国民の不満が汲み取られることもなく、何も知らない貴族達が横柄に振る舞う。
そして貴族は私兵を有しているものも多く、危害を加えれば王国騎士がやってくる。
憲兵と違い騎士は貴族の護衛がほとんどで英才教育を受けた彼らに勝てるものはそうそういない、もしいたしても国に仕えられている。
「クロード、俺たちの仲間が待ってるぜ」
仲間になる条件としてシャルラの安否を約束した青年レイリ。
クロードに直接接触してきたコルキウスのメンバーで第5部隊の指揮権を持っている。
彼に連れられて組織のアジトへと足を運ぶことになったクロードは、病院に寝ているシャルラと護衛をしているエドに話を通し、組織のメンバーが安全に運び込むところを見届けた。
エドには引き続きシャルラの護衛を頼み、クロードはレイリに続いて組織の幹部、1から10つある部隊にそれぞれ指揮権を持っている者達がいる部屋へと踏み入れた。
「彼がクロードか、随分といい面構えだ」
顔に大きな傷痕のある男が室内に入ってきたばかりのクロードにそう言った。
すると縦長机に座っている者達の視線が一斉に突き刺さる事になったが、もう既に、コルキウスに入ると告げた時から覚悟は決まっている。
「こんばんは、クロード=インティウム。以後お見知り置きを」
歩く会釈して礼を正すが、相手の反応は良い者ではない。
少なくとも歓迎するようなムードではなかった。
それもそのはず、クロードは倒すべき貴族インティウム家の人間だ。傀儡としての期待はしていてもそれに意思があり、こうして宣言されれば手を出しづらいものである。
「先に言っておくがこいつは強い、インティウム家の精鋭部隊って知ってるだろ?」
その場の雰囲気を読み取ったのか、レイリはクロードの方に手を置いて全員に聞こえるように大袈裟を装って声を上げた。
「私達が苦汁を飲まされた嫌な相手ね、それがどうしたって?」
紫色の鋭い目をした女性がどうでも良いとばかりに手を振った。
彼らの顔を知っている、人数を知っている程度なら話にならないと追いやろうとしたが、
「それを5人同時に相手取って圧勝、まあキルなら知ってるだろうが昨日の昼間にあった殺傷事件、それも酷い方だ」
市民を捕獲して処刑するマルクの行った遊び、これは既に情報が出回っていてもおかしくはない。人の口を完全に防ぐことはできないし、情報を広めてクロードの方から降伏するのを待っている節すらある。
だがもう一つは必ず消し去らなければならない。
貴族の精鋭が待った一人に潰されたとなれば、反乱分子が勢いづいてしまう。
「えいえい承知してる、あれは酷かったかなー。なんせ人の形が残っていないくらい無残だったからなー」
もしそれが目の前にいる7歳の子供がしたのだとすれば、
「こいつはマジだ、ガジスぶん殴り精鋭を相手に勝利する。そして俺達へ全力で協力してくれるそうだ」
本当なれば願ってもない話である。
あくまで反国家組織のため、表立っての有志を募ることはできない。
冒険者と呼ばれ世界各国に散らばるゴロツキを従えることは不可能、自ら志願してくれるものの数も通常の兵士の志願者よりも極端に少ない。
彼らがなんとか兵を集められるのは周辺の小国からの援助、国をよく思わない豪商の援助にとどまる。兵の数も武器の数もあり余っている訳ではない。
クロードの戦力が情報通りなら喉から手が出るほど欲しい。
「なのに何の情報もなかった、できる貴族なら噂程度は立つはず」
未だにクロードの実力を疑い、疑惑の目を向けくる相手に。
「俺は1年間別の場所にいたので情報が出回らなかったのでしょう、なので誰も知らなくても仕方がありません」
「って訳だ、こいつこの国にいなかったらしいぜ」
「のこのこ帰ってきて、むかついたから父親殴って。腹いせに私たちに付いたって?最悪」
何も知らない人間からすればそう見えるだろう。
ただクロードがどんなふうに生きてきたかを知らなければ、だ。
「あんまり馬鹿なこと言うなよ、こいつがそんなタマかよ。絶望し切った目で路地裏をフラついて、親にも殺されかかった挙げ句に仲間まで人質にとられた。俺に話を通してきたときのこいつの目はマジだった。遊び半分でその椅子に座ってんならとっとと死んじまえ!」
短い付き合いで、レイリ自体もクロードをあまり知らない。
だが彼の意思を、誓いを踏みにじることだけは男の意地が邪魔をした。
レイリの眼光に黙り、渋々縮まった所で話が先に進む。
「クロードの加入を許可したのは私だ、文句があるなら直接言いに来い」
額の傷と相まっていっそう厳しい顔になるが、そのおかげもあって場に静寂が戻る。
そして実質的なナンバーワンはおそらくこの男なのだろうと態度で理解した。
「だが不信感が拭えた訳ではない」
そう前置きしてから
「クロード、君に尋ねたい。何のためにコルキウスに入る事に決めた。何を望みで悪に身を置く」
ここで取り繕った答えを言い、相手の気分を良くすることもできた。
だがそうしてしまえばシャルラ達の保護の話が頓挫してしまう可能性もある、そう考えればここで真実を言ったほうがメリットがあると、判断し。
「守りたい女がいる、そしてそいつがやられた」
クロードの感情のこもった覇気に蹴落とされる。
「だから俺の望みはシャルラの保護と安全だ。そのためならばーー斬る覚悟はできてる」
ガントレッドと腰に吊るした剣が擦れる音がガシャンと鳴った。
さすがにこの返答は予想していなかったようで呆気に取られていた。
所詮は親を見返してやりたい、上に立ちたい。そう言った子供の理屈の上で行動している物だと偏見視していた彼らにとってクロードの答えは虚を突かれたも同然。
たった7歳、息子がいれば同い年だったかもしれない者もいる中で、この少年の口から出てきたのは1人の女のため。守るべき者のためにここに来たと言われれば拒否する建前もない。
「歓迎しよう、クロード」
「こちらこそ」
長い戦いが幕を開ける。
けれど彼の大切な者が失われていくカウントダウンは始まっている。
この道に進むと決めた時から、その時計の針は止まることを知らないのだと、失うまで気付かない。
クロード=インティウムはそういう人間だ。




