第45話 二度と交わらないと決めたから
形だけでもクロードが受け入れられた事により、表立っての反論はなくなった。
クロードの処遇についての話が終わった事にも起因しているのだろうが、その後はつつがなく会議は過ぎていく。
自身の処遇が決まり、コルキウスへの所属が認められたので退出しようかと迷っていたクロードにレイリからの椅子が渡された事で「ここに残れ」という意思を感じ、内容を一字一句逃さぬように聞き入った。
それほど長い時間を会議に使っていることもなかったため、そう時間がかかっていた訳ではない。ただの現状報告会と化した内容に耳を傾けて足りない知識を補っていた。
今のハルイザ王国を取り仕切っているのは事実上ガジス。
クロードの兄、レイガスが退位した国王に代わって政治の実権を得た事が始まり。
クロード自身は王が退位する話は婚約者のときに知っていたため、それほど驚きはしなかったが。旧国王が世継争いがあると言っていたことを思い出し、たった一年の情勢変化にまゆを潜める。
本来クロードがするべきだったレイガスの補佐を行った者がガジスであり、彼の息子マルクも王女との婚約を済ませている以上、ガジスはどう転んでも実権を握れた。
クロードが地下生活をしていた間に家の中でも政治争いがあった。
言ってしまえばマルクはクロードの代理。
どう足掻いてもクロードにはなり得ない人材を最大限生かそうとも、本来ガジスが得るべきだったものには届かない。今もレイガスの補佐という役回りで実権を握っているに変わらない。
王が自ら声をかけたブランドの効果は計り知れない、それを持ったままクロードをレイガスの補佐に任命することにより、実質的な先代国王の後ろ盾が使える。
王が直接国を任せようとした人材がいると言いふらすだけで何の苦もなくレイガスは王になり、マルクを国外の貴族へ回してコネを作る。
そして本人は絶対的な立場を築くことができる、はずだった。
クロードの失踪により、ガジスのプランは破綻した。
本来であれば行政を取り仕切る者に息子を二人添えて裏で操る。ガジス自身は国父にさえなり得た。
けれどクロードの喪失により自らが立たなくてはならなくなり、国の支配も表立っての行動となるため反乱分子を自らへと向ける事になる。
それが今の状況だ。
クロードが売られた事によって破綻したシナリオをどうにかして巻き返そうとしたあげく足がついた男の末路。
裏で操るのと表立っての先導するのでは訳が違う、十分標的になりうる可能性を秘めている。
狙われていることを知り、命の危険を感じ取ったガジスは狂気に走る。
保身に走った人間の醜さが現れてしまったのだ。
■
会議が終わった事で解散となった。
未だ夜は明けず、アジトの窓から見える空は暗かった。
アジトの位置は街から離れたところに位置する森の中、それも崖に面した岩陰に作られた物だ。遠くから見た所で何の違和感も感じないようにカモフラージュも施してある。
それにここまで見回りにくる騎士はいない。彼らは貴族の護衛で手一杯なのだ
「ちょっとそこの、クロードっていったかしら」
会議室から出てきたクロードへ後ろから名指しで呼んでくる、相手の声に聞き覚えがあるのは勿論だが、その人物を特定できるほどあまりいい感情は持っていなかった。
「なんですか?」
彼女はクロードへ疑惑の目を向け、仲間入りを反対するのような事を言っていたと記憶している。わざわざ呼び止められ、難癖をつけられるのなら関わりたくないと内心思いながらも、同じ仲間としては関わりらないなんて事はない。
喧嘩をしても仕方がないのだ。
「まあ、さっきは少し言い過ぎたかもしれないけれど。認めたわけじゃない、次の作戦でそれを証明しなさい」
「そうですか」
こうして自分から話しかけてくる辺り、それほど悪い人ではないのだろう。
だがクロード自身にも嫌われる要素は多くあるので、完全な和解は無理だと知っている。
この国を腐らせた原因が同じ血が流れる肉親というだけで、クロードにも罪がある。
言いたいことだけ言った後、やはり目付きの悪い顔で去っていった。
「何となくだが、あの人がどうしてここに居るか分かる気がする」
クロードの会話を聞いていたレイリが近寄ってくるのを知ってか知らずか、そう呟いた。
「そーゆうの、分かるって苦しくないか?」
すると微妙な表情を浮かべた後、言葉を選ぶようにしてクロードへ後ろから叩いた。
「苦しくないといえば嘘になる、だが苦しいと言えば逃げになる。あれは俺が背負うべき罪でその責務はきっと付き纏ってくる」
償って許されるのなら罪ではない、償えず一生残るから罪なのだ。
だから人は背負い続ける、罪を償い続ける。
「あの人はお前と同じ復讐を目的としている、それもインティウム家に……だ」
「だろうな……分かってる、それ以外にこんな所に女が来るとは思えない」
この場にいる者の大半が復讐を動機としている。
国を変えたいと願った者や、守るべき者の為に戦う者も多くいるが、失って初めて人は気づかされる。
尊さを知り、それからーー
「次の作戦は期待していいんだろうな?」
クロードの肩に手を置いて横切っていくレイリに小さく呟いた。
「ああ、必ず……」




