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第29話 記憶



シャルラの不信感は完全に拭えたわけでは無い。

今の所は目を瞑る事で後回しにしているだけだ。またいつ噴き出し魔術の対価について問われるかはわからないが、それでも今だけは戦うことに専念するしか無い。


手に持った魔石から魔力を抽出し、魔術を発動させて攻撃を行う。


付与を魔石を使って起動させ、空っぽになった魔石を地面に放り捨てて強化された剣でエドに斬りかかるが、二本の大剣を持って受け止め、伸びる足蹴りがクロードを吹き飛ばす。


直線状に飛ぶクロードと入れ替わりで放たれる火炎は辺り一面を焼き焦がす。

剣を一振りするだけで炎を散らし、標的を見つけると再び剣を向けて火の海を飛び越えた。


「ぐっ!」


受け止めた剣ごと切り裂く威力が腕に伝わり、足が陥没する。


「なんでこんな所にお前みたいな奴がいるんだよ!」


エドの足を払い、回し蹴りの要領で両足を腹部に蹴り入れる。

剣の合間を縫うような、少し間違えれば足が切り落とされる可能性もあったがそれが認識外の一撃を喰らわせるに至った。


身体強化した蹴りは無視できるダメージでは無い。

衝撃と共に後方に吹き飛ぶエドに向かって剣の形を槍に変形させて投擲を行う。そして地面から錬成を行って新しい剣を作り出しながら駆け抜けて斬りかかる。


槍は不利な体制で回避したエドにクロードの剣撃が迫る。

大剣を持って防御するエドに、足下を錬成と魔術を用いて空中に吹き飛ばす。爆風で投げ出されたエドにシャルラの火炎が襲いかかる。


魔剣に付与された風を放出する機能を起動させて火炎を散らして、重力をのせて落下するが、風によって軌道修正を行なったために着地点はシャルラへと。


もう一度詠唱する時間よりも落ちる方が早く、詠唱が完成したとしても散らされては意味がない。


なんとかシャルラとエドの間に滑り込んで防御の姿勢を取るが空中です軌道を変えたエドによって背中を蹴り飛ばされて地面を跳ねる。


身体強化をしているために大したダメージではなく、腕を伸ばしてエドの足を掴んで画面に叩きつけようと力を込める。


「シャルラ!」


顔面から叩きつけようとしたが、足を取られたエドは魔剣から放つ風圧で旋回。


掴まれていない方の足を使ってクロードを蹴り飛ばす。

顔面に叩き込まれた衝撃で視線が空に向かい、意識がブレる。思わず手を離しそうになるのを全力で堪えて腕を振り下ろそうと歯を食いしばった。


だがエドの魔剣はもう一つある。


地面に剣を突き刺し、腕の力だけで身体を回転させる事でクロードを放り出した。


打ち上げられたクロードの顔面と剣を持つ両腕に打撃が叩き込まれて骨が折れる音が響く。


「がぁぁああ!!」


大量の血液を撒き散らしながら地面を転がり、後方の壁まで到達する。


かなりの距離を離されてしまったせいでシャルラの所へ向かうのに時間がかかる。幸いエドの足を掴んだ時点で指示は出しているためまだ間に合うと口から血を吐き出して膝を立てる。


照らされる背中の影から血が滴り、クロードの思っている以上の傷とへし曲がった腕の影が視界に映った。


それでも立ち上がり、骨を錬成によって無理やりつなぎ合わせて顔を上げると、シャルラへ斬りかかるエドの姿があった。


今から飛び出して間に入る事ができるのか、それは無理だった。


この距離では走った所で届かない。

目の前で殺されるだけだと理解していながら足を動かそうと地面を蹴った。


シャルラの首に迫る刃に叫びながら手を伸ばし、やめろと制止をかけた。

だがそんなものを聞き入れる事をエドはしない。


詠唱も間に合わないシャルラには、もう殺されるしか無い。




「おい!」



エドの頭部に無数の刃が迫り、身の危険を感じた彼は咄嗟にもう一つの剣で弾き飛ばすと。


「貴様……」


クロードが扉を背にして立っていた。


「俺は今からこの先に行く……」


エドは扉の先に行かせないために戦っているのなら、クロード達を行かせない事と知っている者を生きては返さない事。この二つが彼の勝利条件だった。


だが今の状況は、クロードが扉に到達する位置にいる。


「お前ならこの距離が分かるだろッ!」


クロードのいる位置はエドが今から走れば間に合う距離。


シャルラを殺す事を諦めればギリギリ届く距離なのだ。


それを理解できないほどエドは馬鹿ではない。これが意味していることも、その先を理解できると今までの戦いでクロードは知っている。

この男が扉の先に行かせない気であるのなら自身を殺す為に剣を向けると、


シャルラを殺せばクロードには扉の先へ行かせてしまう。

シャルラを殺さなければクロードを殺して目的が達成できる。


エドが取る選択肢は決まっていた。


シャルラに突きつけている剣を引き、クロードと足を向けたが、


「動かないで」


シャルラの手がエドの首元に突きつけられ、その手の先には装填された魔法があった。


「これを放つのと今から剣を突くのはどっちが早い?」


詠唱が終わった時点で魔法は使用者の思うがまま。

意識があれば打つ事ができる。


エドがシャルラを斬った時点でクロードが到達する可能性がある。本人にその気が無くとも彼としては阻止しなくてはならないもの。そしていまゼロ距離で使徒の魔法を食らえば戦闘続行は困難。クロードを扉の向こう側に行かせることになる。


「俺の負けか……」


今のエドに取れる策はない。

どちらに転ぼうと失敗に終わる。


「ならこの使徒だけでも死んでもらおう」


シャルラに剣を動かすエドに、恐怖しながらも魔法の持続を続ける彼女は今にも放ちそうだったが。


「あんたと話がしたい、エド」


「……」


突然クロードが口を開いたことに、それが降伏でも何でもない物だと知り剣を握りしめるが次の言葉に身体が硬直することになる。


「この扉を俺は知ってる……、この先にあるものが何かを多分知ってる」


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