第22話 さよならが言えない事をなんと言うのだろう
理由があったから戦った。
理由を失ったから諦めた。
それでも彼は立ち上がった。
他の誰かじゃない自分の理由で立ち上がった。
他の誰かに何を思われようとも、それでも戦うと立ち上がった。
理由とは故に願いだと、そう信じて。
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頭部から流れる血液が視界を阻め、手の甲で拭いながら目を開ける。
目の前に立っている敵へ剣を向け傷だらけの身体を酷使して、再び剣を振るう。
ただ一人の少女を死なせたくなかったから剣を取った。
これ以上彼女を戦場に掻き立てたくなかったから道を閉ざした。
それが正解だったかクロードには分からない。
もっと良い方法が手段があったであろうと後悔している。
それでも今の彼にできる事で最善なのはこれしかなかった。
最初から一人を守ろうとしてきたクロードに、また一人と守りたいと思ってしまった者ができた。それは愛情とはかけ離れた恩義のような物だったが、それ故にこちら側には来させたくはなかった。
最初はティアに似ていたから見捨てられなかった。ティアの代わりを探していたクロードにとって渡りに船だったから連れ回した。
面影があって、どこか似ていたから。彼はシャルラを代わりに立てようとした。
だがシャルラはティアではない。
それでも彼女は一人の人間としてクロードが必要とした。
何もかもを失った価値のない男に意味を見出してくれた事が、彼にとっては救いだった。意味を失った人生を無駄ではないといった彼女にクロードは救われた。
そして思い出す事ができた。
それには言葉では言い表せない感謝があった。
空っぽの入れ物に意味を与え、本来の用途を思い起こさせた事へ最大級の感謝を込めて礼を言った。
約束を破って合わせる顔はなく、もう二度と会うことはない。
最後の好意を踏みにじって一方的にシャルラを遠ざけた、もう一度は許されないと理解している。クロードにとって二度と会えない恩人を生きながらえさせる方が優先された。
もう二度と会えなくていい、嫌われてもいい、それでも君を守りたい。
ただその為に戦おうと、今を戦う理由を見出した。
足はまだ動くだろうか、腕をまだ動くだろうか、張り裂けるような臓器はまだ動くだろうか。滴り落ちる血液が斑点を描いて地面に垂れる。
斬りかかるガーゼの斬撃を防いで魔術による迎撃を行う。
爆煙と共に背後に吹き飛び地面を転がる。
肉体の限界も近い、すでに魔力の枯渇は始まっており臓器の一部は崩壊し始めている。いくら6年間の間を魔力増加に努めたとしても無限にあるわけではない。
度重なる魔力の使用、随分前からし続けている身体強化魔術。時間にすれば3時間にも満たないがそれでも枯渇は開始する。
ハクだった頃と比べればマシにはなったが、それでも戦闘を行えばすぐに枯渇する。
身体強化に大量の魔術を同時展開。そして剣が折られる度に魔術で作り出しているのだから無理もない。
口から血を吹き出しながら地面に足をつけて起き上がる、クロードの視界には傷口を抑えて倒れそうな身体を引きずるガーゼの姿。
どちらも限界で、身体を酷使しすぎていた。
腹部に穴が空き、その上大量出血。生きているのが不思議なくらいの重症。
対するクロードも臓器のいくつかは崩壊し、視界が掠れるくらいは死にかけている。
そんな状況だというのに引きずるように身体を動かして剣を手に、そして重い剣を振り上げて前へと踏み込んだ。
動いたクロードに合わせて剣を振るうガーゼは彼よりも先に肉を切った。
脇腹から血を吹き出して地面に倒れ、勢いのままに転がって壁にぶつかるクロードは手放した剣へと手を伸ばした。
目が見えていないのか、伸ばす先には何もない。
剣はもう折れて残骸と化して床に散らばっている。鉄グズがクロードの後ろに散りばめられて、手放した剣の柄がヒビ割れた。
新たに剣を作る魔力以前に、最後に残った小さな魔力では錬成で剣の形を整えることはできず、そして魔術を実行する為に必要な思考さえも今のクロードには存在しなかった。
見えているかすら定かでは無い眼差しで手を伸ばす。
立ち上がろうと痙攣する足は力なく垂れ下がり、動く気配を見せない。
傷口から流れる血液が床に広がっていき、真紅に染め上げてはクロードの方が白く染まる。温度を失い、血液を失い、魂すらも手放そうとしていても、腕だけ伸ばし続けた。
剣を持って戦わなければと伸ばして、そうでなければ守れないと知っているからこそ戦って。壊れてしまった剣を掴むべく這いずった。
腕だけで身体を動かし、床に血の引きずるような跡をつけながら蠢いた。
燻んだ目で手を伸ばし、剣を掴もうと意志だけで身体を動かして、そして力尽きる。
動力を失った身体は糸が切れたように床へと落ちて崩れる。
そうして動かす力はなくなり、傷だらけの腕が地に伏せる。
「私が生きる理由になると言ったから、死なせたりはしない」
落ちる前にクロードの手はシャルラが掴んだ。
「私は助けると約束した、それが私の願い」
「なんで来た……逃げろって……」
逃げて欲しかった、そのまま見向きもせずに日常に戻ってくれればよかった。
それがクロードの意思だった。
「約束破ったからには罰を与えます」
見えない目でシャルラを責めるクロードに手を当てて黙らせる。
「私を家まで送り届ける事!ここから遠いんだからそれまでの費用云々全額負担」
「ふざけんなよ……」
そんな物のために引き返したというのか、
見捨てることはできた、けれどそれを自ら棒に振ってここに来た。
それも下らない理由をこじつけて、意味のない約束を引っ提げて来てくれた。
ただ怒りを覚えたかった、ふざけるなと叱りたかった。
なんでこんな事をしたのだと怒鳴りたかった。
だがクロードは嬉しかった。
涙を流して罵倒した。
「これは強制よ、私に借りを作ったんだからしっかり返す事。約束じゃなくて命令!絶対に破れないし逃げても無駄!」
無理にでも関わろうとするシャルラへ嬉しさの涙と流して、
「ああ、仕方ないな……命令なら仕方ないな」
治癒魔法の光に包まれて目を瞑った。
これ以上みっともない所を見せたくなくて顔を隠し、聞こえないように呟いた。
ありがとうと




