表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強の翻訳家  作者: 高田大輝
第二章 共和国捜索と新たなる師匠
29/38

3.Encounter (出会い)

先週は、更新できずに申し訳ありませんでした!

久しぶりにインフルエンザに罹ってしまい、寝込んでおりました!

無事回復しましたので、今週から投稿再開です!

よろしくお願いします!





 とても広大で、距離感覚を失わせるような白で統一された空間。


 高さは優に五十メートルはあるだろう。横に視線を向ければ、端が見えないくらい広かった。


 全方位を石や岩に囲まれた広大で、どこか懐かしさを孕んだ場所。


 壁や床などの素材自体が発光しているのか、それとも魔法で光を供給しているのか分からないが、少なくともこの光が太陽由来の物でないことは確実だ。


 そんな半端ではなく広く、何もない空間に、アオイは突っ立っていた。


 どうやってここまで来たのかは覚えていないし、懐かしさはあるがはっきりとした記憶は思い出せない。アオイの持つ最後の記憶は、疲れた体で風呂に入った辺りまでだ。もしや、疲れすぎて寝たのかもしれない、とこの場所が夢の中ではないかと推測してみる。


 よくある夢の噂で事の真偽を確かめるべく、自身の頬を抓ってみた。


「……痛いな」


 確かに感じた痛みから、ここが夢ではないのかもしれない、と受け入れ難い現実の可能性を考えてみる。


 疲れた人間が、目を醒ましたら知らない場所にいて、それが何もない空間。


 もしやここはあの世と呼ばれる場所ではないか? と現実離れした現実と、辻褄が合わない現象、そして持ちうる記憶から出来る限り思考したアオイは、飛躍した考えに至る。


 そんな馬鹿げた答えを出したアオイに、突然、虚空から声が掛けられた。


 ――ここは、天国でもなければ、ましてや地獄でもありませんよ


 掛けられた声は、虚空からと言うよりは脳内に直接、と言う方が正しい。ファンタジー感溢れるが、実際にそれをされてみれば気味が悪かった。取り敢えず、「あなたは誰ですか?」と問いを投げる。


 それを受けた声は、アオイの問いにしっかりと答える。


 ――私は、言うなればあなたと同じ人間よ


 先程は驚きでよく聞き取れなかった声音も、今は心構えをしていたのではっきりと聞こえた。凛とした女性の声。声だけで、出来る女だと理解させられる、そんな声だ。


 その声が言った内容は、少し不思議な言い回しだった。「あなたと同じ人間」と言うことは、他の誰かとは違うということなのだろうか。即ちそれは――


「――召喚者か?」


 結論へと辿り着いたアオイは、その結論を無意識的に口に出していた。


 そんなアオイの無駄な行為に対して反応すら示さず、声は答える。


 ――そうであるとも言えるし、そうでないとも言えるわね


 アオイの中で、一番、よく分からない答えが返ってきた。こう言った言い回しは解り辛くて嫌いなのだ。もうちょっと分かり易く行って貰えないか交渉しようと、意思を示す前に、その声に遮られた。


 ――よく聞いておきなさい


 どうやらアオイに質問をさせる気はないらしい。元より、この声がこんなところに連れてきた可能性が高いだろうから、身勝手なのは今更だ。


 声が唐突に真剣身を帯びたので、聞き逃すまいと意識を傾ける。


 ――真意を……本当の在り方を取り戻しなさい


 声はそう言った。


 直後、アオイがその言葉に疑問を抱く暇すら与えず、役割を終えたとばかりにその空間が崩壊し始める。至る所から光が差し込み、崩れ、空間が定まらなくなっていく。


 崩壊する空間を前にして思ったのは、せめて声の意図を考える余裕を与えて欲しかったなぁ、ということだけで、不思議と不安や焦燥と言うものは感じていなかった。何故か、このまま空間に呑まれても大丈夫と言う確信が、心の内にあったのだ。


 声の意図なら、あとでも考えられる。しっかりと聞いたのだ。大丈夫。覚えている。


 確かな確信を宿し、アオイは崩壊する空間に呑まれていく。




 * * * * * * * * * *




 体が揺さぶられる感覚。懐かしさを感じるその感覚に、アオイは閉じていた瞼を開けた。


 目に入ったのは、アオイを揺すり起こしてくれたであろうアルテナの顔だった。確か、一ヶ月前に宿で睡眠をとった時も、こんな風に起こされたっけ、と徐々に覚醒していく頭で思い出していた。


 同時に、何か忘れているような感覚に囚われた。前回も似たような感覚があったので、今回は部屋を見渡すことなくそれに気が付ける。


「ヴァル達はもう朝食に行ってる?」

「はい」

「じゃあ俺達も行こうか」


 前と同じような会話をし、肌着を受け取ってアオイとアルテナは朝食を取る為に一階のホールへ降りる。


 まだ何か忘れている感覚に囚われたが、これはよくある感覚だ。確か、前にこの宿に泊まった時も、似たような感覚になっている。


 その時には何もなかったのだから、きっと今回も大丈夫だろう、といつもはもっと慎重に行動し考えるアオイは、そんな浅慮で朝食に向かった。






 朝食を終えたアオイ達は、地下鉄を使い一区にいた。もう少し正確に言えば、内一区と呼ばれる場所にいる。


 この国は、十三区に分かれている他、一つ一つの区画内でも、三つに分けられている。区画分けほど正確なものでもないが、地下鉄のレールに合わせ、外、中、内、の三つだ。


 外は、この国の住民が暮らす市街区だ。円を等分にした区画分けがされている『トゥラスレア』は、外に行けばいくほど土地が広くなる。一戸建てがなく、ほぼ全ての建物がマンションのように高層であるこの街だが、全国民が『トゥラスレア』に住んでいるので、こうでもしないと土地が足りないらしい。


 王国の村々を回った時も、首都(ベガ)とは比べ物にならないがそれなりの広さを持っていて、それなりの人数が暮らしていた。王国以上の国民を有する共和国のマンション政策は、実に効率的だと言えた。


 中は主に、商業系の店などが多く立ち並んでいる。


 内からも外からも人が訪れやすいような土地を求めれば、自然と中に店を構えることになる。日用品を扱う店から、服飾関係の店、食料品を扱う店や、それら全てを合わせた、所謂ショッピングモールと呼ばれる大手の店まで様々だ。


 最後の内は、主に冒険者に関係する建物が多く存在する。


 この国を訪れる冒険者はアオイ達のような例外を除いて、基本十三区の『ダンジョン』を求めてやってくる。故に十三区に近い方が、冒険者としても、経営者としても何かと便利なのだ。


 本来ならば、十三区に店を構えたいのだろうが、生憎と十三区には公務的な建物しか立ててはいけないと言う法律がある。なので、一番近い内に、冒険者関係の建物が多いのだ。


 そしてアオイは、中寄りの内にある、コージと知り合いの鍛冶師がいる鍛冶屋を訪れていた。


 今日から一週間で色々な準備を重ね、再び結愛捜索に出るためだ。


 まずは、食料的な問題だが、これはコージがどうにかしてくれそうだった。彼が持つ伝手や権力を使って、色々と手を尽くしてくれるらしい。会議で忙しいだろうに、ここまでアオイの手伝いをしてくれるなんて、本当に感謝しかない。


 なので、アオイ達は、これから迎えるであろう戦争に備えるために、実力アップを図っていた。


 あの白狐戦で辛くも勝利したアオイ達だが、伝承で読んだ魔人は個々人の能力で言えば、白狐を遥かに凌ぐ。その強さの秘密は、魔人が持つ“魔眼”だ。固有スキルとは別に存在する、超能力的な“魔眼”は、固有スキル同様に代償無しでの使用が可能なのだ。


 そんな魔人たちに今まで対抗できていたのは、魔人たちが個人主義で、連携を取らなかったことと、その絶対数が少なかったからだ。人間たちは、数と訓練で培った連携を活かして、魔人と渡り合っていた。


 なので、極論を言ってしまえば、魔人程度ならば多少の人的被害を覚悟すれば、召喚者ではない人間たちの連携でどうにかなる。


 ならば、アオイ達召喚者は何を求められるか。


 それは単純に、魔王とその側近の相手だ。


 本来ならば勇者が行うべき役目だが、その勇者とは連絡が取れないでいる。その為、召喚者が代わりに担うことになっている。だが、今のアオイ達では魔王はおろか魔人単体にも劣る。白狐戦と比べればかなり強くなっているアオイでも、まだ魔人を圧倒できないだろう。


 戦争において“殺さず倒す”を目標にしているアオイは、敵を圧倒できる実力が無ければならないのだ。


 だからこそ、昨日コージから聞いた刀使いに興味があった。


 アオイが通っていた道場では得物を使う人もいたが、彼らの武器術は基本的に独学だ。そもそも、師範が教える武術は、基本的に素手での格闘術なのだ。一応、武器にも一通りの心得はあるらしいが、それでも本職で教える人達には劣る。


 アオイは最初、剣や刀で戦いたいと思っていた。幼心には、それらがカッコよかったのだ。しかし、日常生活で剣の代わりとなるものを常に持っていることなど殆どない。精々、傘が代わりになるくらいだろう。


 しかし素手ならば、自身の四肢が欠損しない限り、何時でも何処でも使用可能だ。なので、アオイは素手での格闘術を習っていたが、武器の所持が認められるこの世界において、武器を持たず戦うのは難しい。ましてや、殺し合いにおいて、殺さないにしても武器が無ければ厳しい場面もあるだろう。


 極端な話を行ってしまえば、魔人を殺さなければいいので、無力化すると言う意味での武器は、あった方が断然楽だ。それに、刀であれば、刃の無い峰で相手を殴る、所謂、峰打ちだって可能である。


 アオイの心身的な面と、実戦での有用性を加味すれば、刀での戦いは、是非学んでおきたい。


 その為に、刀使いが現れたと言うこの鍛冶屋に来た。出会える可能性は低いだろうが、確率が低いからと言って行動しないよりはずっといい。


 四階建ての建物の一階部分に掛けられた暖簾をくぐる。


 一階は、様々な武器が陳列されていた。剣や槍や盾、弓なんかも並んでいた。弓は鍛冶じゃないだろうとも思ったが、外に掲げられていた看板には『イワダテ武具店』とあったので、武器である弓を扱っているのはおかしいことでもなかった。


 一階には人の姿が無かったので、「ごめんくださーい」と声を掛ける。アオイの声を聞きつけて、二階から一人の女の子が降りてきた。


 ペシャッと潰れた短い黒髪に、汗を掻いているのが分かる長袖のTシャツにゆったりとしたズボン。手には手拭いが握られており、髪の毛の様子からそれで頭を覆っていたのだろうと推測できた。アオイの中で、鍛冶をする人代表のような格好だ。


 一見、女の子らしさの欠片もない格好だが、顔立ちは恐らくこの国で通りすがってきた女の子の中では一位二位を争えるくらいに整っている。


 アルテナに負けず劣らずの美少女だ。


「いらっしゃいませ! どのようなご用件ですか?」


 ハキハキと喋る少女は、彼女の魅力をより一層引き立てていた。しかし、少女の恰好がその魅力を掻き消しているのが勿体無いとは思う。


「えっと、ここにいるコウキ・イワダテさんに用があってきたんだけど……あ、これ渡してくれればたぶん大丈夫だと思う」

「イワダテさんに、ですね。お預かりします」


 コージから預かった手紙を、少女に渡す。少女はその手紙を見て、一瞬驚いたような表情になったが、アオイ達に少し待つように言うと、二階へと戻っていった。


 少女の反応も気になったが、それよりとアオイ達は並べられている武器を眺める。最初は剣を眺めていたのだが、正直なところ見ていても何もわからないので、アルテナの方によって一緒に弓をみた。


 しばらくの間、時間を潰していると二階から一人の男が出てきた。短めの茶髪に、たっぷりと蓄えられた髪色と同じ髭。身長は男性にしたらかなり小柄だろうが、服の上からでも分かるガッツリとした筋肉は、まさに鍛冶師だ。


「コージから最近色々と聞かれると思ったが、まさかこんなやつと関わっていたなんてな」

「コージさんが国の代表であることはご存知でしょう? ならば、召喚者である俺との接点は少なからずありますよ」

「へっ! 生意気言うじゃねえか」


 現れた男は、初っ端から自分のペースでやってきた。初対面の人とはなるべく丁寧に話すのを心掛けているアオイが、気が付けばフランクに接していた。


 たった一度のやり取りしかしていないが、恐らく、彼とはウマが合うのだと思う。


「俺は、アヤノアオイと言います。こっちはアルテナで、こっちはヴァルとヴァイ。魔物だけど、危害は加えないから安心してくれて大丈夫だ」

「おれぁ、コウキ・イワダテだ。タイミングが良かったな、アオイ。丁度、件の人が来てるぞ」


 パッと自己紹介を済ませたコウキは、早速本題に入った。


 嬉しいことに、今回の目的である刀使いが今日来ているらしい。早速、合わせてもらうことにした。「ついてきな」と言われ、コウキに付いて行き階段を上る。


 二階には、防具が立ち並んでいた。


 フルプレートメイルから、局所に充てる用の防具まで様々だ。一階に置き切れなかった武器なども陳列されている。アンクが装着していたような魔石入りの籠手も、二階に並んでいる。


 カウンターには、こんがりと焼けた肌色の青年が立っていた。先程の少女は、バインダー片手に防具の点検をしている。


 アオイを見つけると、青年は「いらっしゃいませー」と笑顔で接客してくれる。少女も、アオイに頭を下げてきたので、二人にアオイは会釈をして、コウキの後ろを付いて行く。


 三階は、生活感溢れる場所だった。三、四階は、このイワダテ武具店で働く店員たちの住み込み可能な部屋になっているらしい。


 三階に着いたコウキは、そのまま突き当りに向かい、壁に備え付けられたボタンに触れる。


 アオイは、そのボタンを見て、驚きを覚えた。日本にいた頃、日常生活で見かけることは殆どないが、ショッピングモールなどに繰り出せば、必ずと言っていいほど見かける階層移動手段。通称、エレベーターだ。


 数秒待っていると、チーンという音と共に、ドアが開かれる。先に乗り込んだコウキに促され、アオイ達もエレベーターに乗る。これだけの人数が入っているので流石に少し狭かったが、エレベーターの動きに支障は無いようだった。


 扉が閉まり、エレベーターは動き始める。エレベーターを知らないであろうアルテナやヴァル達の瞳には不安が宿っていたが、アオイの大丈夫の一言で落ち着いた。こういう所で単純なのは、非常に助かっている。


 しばらくして、チーンという音と共にエレベーターは目的の階に着いた。扉が開かれると、むわっとした熱い空気が中に流れ込んでくる。同時に、カンッ、カンッとある一定のリズムで鳴る小気味良い音も聞こえてきた。


「ここがおれ達の工房だ。少し暑いだろうが、気にしないでくれな」


 コウキはそう言うとアオイ達をエレベーターから降ろさせる。アオイ達があとから乗り込んだので、コウキが出られないのだ。エレベーターから降りると、感じていた熱気がもろに伝わってくる。


 ここに来てまだ一分と経っていないが、額にはじんわりと汗が浮かんできていた。


 降りたコウキに先導され、アオイ達は工房を歩く。


 テレビでしか見たこと無いような高温そうな溶鉱炉や、熱せられた鉄を打っている職人の横を通る。始めて見る鍛冶の光景に目を輝かせながら歩いていたら、突然止まったコウキにぶつかりそうになる。慌てて止まったので、アオイの後ろで玉突き事故が起こりそうになった。


「待たせたな、エルフの嬢ちゃん」

「いえ、問題ありません。……そちらの方は?」


 後ろのアルテナ達にすまんと謝罪していると、目的の人の意識がコウキの後ろにいるアオイ達を捉えた。


 コウキに、先にアオイの要件を言っていいか視線で尋ねる。それを受けたコウキは、頷いて自身の持ち場にすたすたと歩いて行った。


「初めまして。俺はアヤノ・アオイと言います。今日は、あなたにお願いがあってまいりました!」


 背筋を伸ばし、しっかりと気を付けの体勢を取ってから、鉄を打つ音に負けないように、声を張り上げて挨拶をした。


 目の前にいたのは、どこか見覚えのある耳の尖った女性だ。先程、コウキが「エルフの嬢ちゃん」と呼んでいたことから、きっとこの耳のとんがり具合がエルフなのだと推測できる。


 薄い金色の髪を腰辺りまで流している。色合いは、金糸雀色に近いのかもしれない。額にある飾りは、パッと見ただけでも高そうだと分かる代物だ。緑を基調とした服は決して高い露出はなく、引き締まった女性の身体を見事に引き立たせていた。


 女性にしては高い身長で、アオイの目線と同じくらいの高さがある。翡翠色の双眸は、彼女の醸し出す知的な雰囲気を更に拍車をかけていた。しかしその瞳も、今はアオイの勢いに呑まれているのか驚きに見開かれている。


 勢い良すぎたか、と一つ咳払いをして、改めて挨拶をする。


「すみません。早くもチャンスが到来して、テンションが上がってしまいました」

「問題ないです。それよりも私に用があるとか……」

「はい。単刀直入に申し上げます。……私に、刀での戦い方を教えて頂きたい」


 深呼吸一つ。


 アオイは、何の小細工なしに、真っ直ぐお願いした。時間がない、というのも理由の一つではあったが、自身の誠意を示すならば、これが一番いいと判断したのだ。


「刀での戦い方を……? どうして刀なのですか? 別に剣でもいいはずですが」

「まず一つ。あなたが刀を使っているとお聞きしたからです。私は、他者を模倣するのを得意としていまして、あなたを師事するのであれば、あなたが使う刀を使った方が良いと思ったからです」


 アオイは結愛のように多才ではない。多才ではないから、一つだけある才能を活かしきるために、体を鍛えたのだ。


 そして、その才能を活かすなら、誰かに師事し、その動きをまんま真似るのが一番効率で考えると良い。体に動きを覚えさせてしまえば、あとは実戦で引き出せばいいのだから。


「次に、剣と刀では、その用途が異なると聞きます。私はこの世界で言っても筋力がある訳ではない。それならば、速さで斬れる刀の方が適していると思ったからです」


 異世界モノを読んでいれば、必ずと言っていいほど聞くであろう叩き斬る“剣”と、斬るや突くに特化した“刀”。力があれば剣の方が使えるのだろうが、生憎、この世界の冒険者に比べ、アオイは筋力が無い。同年代の人間と比べても、同じくらいしかないだろう。


 だから、アオイのステータスの中で一番目に高い速さを活かした“斬る”ができる刀が良いのだ。


「最後ですが、これはまぁ単純に、自分が刀と剣だとどっちが好きか? と言われた時に、刀の方が好きだからです」


 理由は、二本持ちにしたときに、剣だと“双剣”と呼称されるが、刀だと“二刀流”となるからだ。アオイの五感には、後者の方がビビッと来ただけである。


 後ろで、アルテナが頭を抱えている気がするが、それをスルーして続ける。


「なので、俺はあなたに刀を教えて貰いたい。俺には、どうしても、強くなる必要があるんです」


 真っ直ぐ女性の目を見つめ、確固たる意志を持って告げた。翡翠色の双眸は、アオイの意思を確かめるように瞳を覗いてくる。目を通じて心の奥を見透かそうとしているような、何とも言えない感覚に襲われたが、負けじと見返していると、突然目が逸らされた。


「おやじさん。刀の調整とは別に、この子に刀を一本仕立ててくれる?」


 エルフの女性は、アオイから視線を逸らし、コウキに向き直ると何気ない様子で刀を一本頼んだ。コウキは一瞬だけ動きを止めたが、直ぐに頷いた。


「刀の調整ならもう終わってるよ。それにしても、アオイの師匠になるって本当か? 厄介事だぜ?」


 女性の愛刀と思われる刀を手渡しながら、コウキはそう言った。事実なので、否定できないのが悔しい所だ。


 刀を受け取った女性は、それをスッと腰に刺し、軽く様子を確かめながら答えた。


「問題ないよ」


 一言で、会話を終わらせた。あまり口数が多い訳では無いようだ。


 刀を鞘から出して、軽く振っていた彼女は、刀の具合に満足したのか、腰から金貨を取り出して、コウキに渡していた。


「よしアオイ。こっちゃこい。あぁ、それと、金は――」

「あ、それは俺がコージさんに請求しときますんで」

「わあった。良い身分だな、全く」


 コウキはカラッと笑いながら、手招きしたアオイの体を触って確認する。恐らく、アオイの身体の筋肉量などを基にして、一から刀を作ってくれるのだろう。


 取り敢えず、アオイ専用の刀が出来るまでの繋ぎとして渡された刀を受け取り、腰に差す。今までが短剣だったので、腰にかかる重みがぐっと変わった。それでも、行動に支障が無いように持ち物で重さのバランスを整える。


「そうだ。もう一つ言っておかなければならないことがあるんです」

「何?」


 エレベーターに向かう女声を呼び止める。細められた翡翠の目に、若干威圧されながら、アオイは大事なことを告げる。


「俺は、人探しをしているんです。その為に、この国の森を探すことになるので、師匠にはその旅に同行してもらうことになると思うんですけど……」


 あくまでこちらが頼む側で、向こうが選択する側なのだ。ただでさえアオイの師匠と言う面倒事を抱えた上に、更に人探しに付き合わなければならないともなれば、ここから断られる可能性だって十分にある。


 アオイの言葉が尻込みしたのも、仕方のないことだった。


「分かった」


 しかし、断られるかも……と、ビクビクしていたアオイとは裏腹に、彼女はあっさりと了承の意を示し、エレベーターに歩み寄る。あまりにあっさりとしていたので、自身の反応が過剰に見えてしまった。


「それと――」


 女性は、歩みを止め振り直り、真っ直ぐアオイを見据える。


「私はブラム。君に刀を教えるけど、師匠になった覚えはない」


 ブラムと名乗ったエルフの彼女は、それだけ言うとエレベーターに乗り込んだ。


 アオイ達は、慌ててブラムを追うはめになり、全く締まらない形で新たな師匠を得たのだった。





次回は1/26日投稿予定です。調子に乗れれば、連続投稿もあるかも……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ