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異世界最強の翻訳家  作者: 高田大輝
第二章 共和国捜索と新たなる師匠
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2.Vast landascape (大自然)

最近やりたいことが多すぎて時間が足りず、今回は雑&短めになっています。

投稿ペースは落とさないつもりですので、これからも楽しんで頂ければ嬉しい限りです。





 ゆさゆさと体が揺さぶられる感覚を、アオイの脳は感じ取っていた。それが現実かどうかの判断が付いていないのは、寝ぼけると言う感覚を忘れていたからかもしれない。


 断続的に、しかし一定のリズムで行われないそれに、アオイの意識はスーッと覚醒していく。そう言えば久しぶりに眠ったのだと、完全に覚醒した頭で考え、アオイは瞼を開ける。


 アルテナがいつも通りのメイド服で、ベッドに横たわるアオイに手を当てていた。先ほど感じていた感覚は、アルテナがアオイを起こすために体を揺すってくれていたのだろうと、簡単に推測できる。


「おはようございます。葵様」

「おはよう。と、起こしてくれてありがとう」


 部屋にある壁時計で時間を確認すれば、今の時刻は七時前だ。いつもは日の出とともに行動を開始するのだが、窓から見える陽光の明るさから、既に日の出から三十分は経っていることが分かった。


 恐らく、滅多に寝ないアオイを気遣って、アルテナが起こすのを待ってくれたのだろう。


 部屋を見渡し、何か足りないと感じたアオイは、思い当たったその所在を確かめるためにアルテナに尋ねた。


「ヴァル達の姿が見えないけど、どこか行ったの?」

「先に朝食を取らせています。ヴァル達のご飯は、人間と一緒のものにすると、他のお客様の誤解を招きかねませんので」

「そっか。待たせちゃっただろうし、俺達も降りようか」

「はい」


 アルテナは既にアオイの物腰の低さに慣れたのか、昔なら侍女への謝罪は要らないと言っていただろう今の場面で、何も言わずに頷いてくれた。自身が変わらなければならないのに、アルテナに頼ってばかりで、申し訳が立たない。


 アルテナが用意してくれていた肌着を着て、顔を洗い、一階の食事を取るためのホールに出る。


 夕食はメニューから選ぶ方式だったが、朝食はバイキング形式になっているようで、壁に沿う形で朝食の乗った長テーブルが並べられている。中央には四、五人が腰掛けられる円形のテーブルが何十個と置かれている。


 お盆を取って、その上に皿を乗せ、朝食を取っていく。アルテナはバイキングは始めてなのか、アオイの動きを真似しながら自信の欲しい朝食を皿に盛っていった。


 ヴァル達が何処にいるのか気になったが、軽く見回すと苦労せずに発見できた。と言うより、ヴァル達の周りが不自然なくらいに人が居なかったから分かり易かった。やはり、魔物は恐れられる存在なのだろう。


 誰も悲鳴を上げたり、取り乱したりしないのは、ヴァル達が一心不乱に朝食を食べているからだろう。


「おはよう、二人とも」

「おはようございます、アオイ様」

「おはようございます、主殿」


 床に置かれた骨を抜かれた焼肉と少量の野菜が盛られた朝食から顔を外し、ヴァル達は答える。挨拶を返した直後、再び朝食に貪りついたのは、まだ野生の感覚が抜けていないからだろうか。


 魔物の場合、野性の感覚が抜けることがあれば負け確定なので、それでいいのかもしれないが今は戦時ではないので、取ったりしないからゆっくり食べるんだぞ、と声を掛けアオイ達も近くの椅子に座る。


 アオイは自身の所為でロスした時間を取り戻すために、ヴァル達に言ったこととは対極に、しっかりと噛んだ上で、手早く朝食を済ませた。


 朝食を済ませたアオイ達は、一度部屋に戻り結愛捜索に向けての準備をしていた。


 寝起き直後に朝食を取ったので、アオイの準備が疎かになっていたのだ。とは言え、アルテナが大半は準備してくれていたので、腰にポーチを下げ、短剣を差し、自身の分の野営セットを背負って準備完了だ。


 そう言えば、アオイは短剣を獲物として使っているが、結局自分に合った武器がまだ見つかっていない。


 地球では素手しか習っていなかったので、比較的既に近い動きになるであろうリーチの短い武器を選んだが、やはりそんな浅慮で選んだ獲物が自身にぴったり! なんて都合よくはいかなかった。


 アルテナが遠距離武器の弓である以上、アオイは近接の方が良いし、そもそもアオイは近接戦闘しかできない。ゲームであれば話は別で、確かにこの世界はファンタジーではあるが、生憎ここは現実だ。


 白狐にも通用しなかったことだし、早めに自分に見合った武器か、誰か師事できる武器使いがいればいいのだが……と、白狐戦以降思っていたが、結愛の捜索がある以上回せる時間がとても少ないので、後回しにしていた。


 昨日、コージから聞いた話では、幼馴染に鍛冶屋を営んでいる人物がいるとのことなので、その人から有力そうな人物を聞くのも悪くないか、と考えながら、アオイ達は部屋を出る。


 今日は北にある森――通称、『白の森』の捜索だ。亜寒帯寄りの寒帯であるは、王国の北の森と同じで雪が降り易い。見た目が年中白いことから名付けられたそうだ。覚えやすくて助かる。


 十三区寄りの一区にある宿を出て、アオイ達が向かったのは北の門に繋がる十二番通りではなく、十三区だ。


 何故、十三区に行ったのかと言えば単純に、電車が存在するからだ。地下にあるので地下鉄の方が正しいだろう。この国の科学力の発展は、他国を圧倒的に凌駕しているのが昨日の今日で理解できた。


 円形の町の地下を、大外周りに一つ、十三区の周りを一つ、その中間あたりに一つの、三重の円で造られたレールと、東西南北に敷かれたレールの四種類があり、そこを列車が走っているのだ。全て上りと下りがあるので、日本の電車とあまり変わらないのは助かった。


 昨日のように、馬鹿正直に大通りを歩いて十三区まで来るような人間はいない、とコージに労われついでに教えて貰った。


 十三区のゲート付近にある入口から地下への階段を下り、地下鉄のチケットを買う。その際に、一ヶ月間限定で使用し続けられる月間パスポートがあると駅員さんに教えて貰えたので、それを二人分買った。ヴァル達魔物の料金は、必要ないと言われたので、買っていない。


 月間パスポートの代金をここに請求しておいてほしいとメモの書いてある紙を渡した。請求先は、コージのところ。正確にはこの国の税金だ。アオイの提案は了承され、パスポートが渡された。


 それを使い、タイミングよく停車していた北ゲート行の電車に乗り込んだ。始発だったことと、そもそもの人の数が少なかったので座ることが出来た。


 道中、二駅に停車し、アオイ達が二時間かけて歩いてきた大通りの下を、電車は十分弱で走破した。大幅に短縮できる移動時間があったことを知らなかった自分を恨みながら、それを取り戻さんと早足に電車を降りる。


 地下鉄から出る前に、コンビニのような役割を果たす売店から昼食を買って、アオイ達は地下鉄を出る。よくよく考えれば、これから向かう『白の森』はかなり広大で、共和国の町は首都以外に存在しないので、途中で何かを補充するということが出来ないのだ。


 地下鉄を受けたアオイは、日持ちする携帯食料を買いだめした。買いだめた食料は、ヴァル達に持たせてあるバックパック内に詰め込んだ。水は魔術で生み出せるので最低限だけ広場の水飲み場から貰った。“水は無料”と言う価値観はオディト王国でも広まっていたが、やはり異世界でこういうものを見かけるのは不思議な感覚になる。


 城壁の直ぐ傍は整備され平坦だが、壁から十メートルも離れると直ぐに木々が生い茂る森林地帯になっている。北と東の二方位は手の付けられていない森林地帯で、残りの二方位は農業と畜産が行われている。


 南と西の二方位は人の手が毎日入っているので、優先度は低いと考え、北と東を重点的に探すことにした。取り敢えずは、北だ。まだ暖かい気候である間に、寒い地は探しておいた方が良いだろう。


 ゲートを出たアオイ達は、いつもの如く“身体強化”を掛けながら“魔力探査”で当たりの捜索をする。共和国へ至る道中で“魔力感知”系列のスキル数種を会得したヴァル達にも、同じことをしてもらう。


 トゥラスピース共和国の面積が大体二百万平方キロメートルで、そこから大雑把な計算をした北の森の広さは、大体五十万平方キロメートルだと分かった。五十万平方キロメートルは、日本の面積よりも大きいので、それを捜索するとなればかなりの時間を労力がいる。


 共和国より少し小さい程度の国土を持つオディト王国での探索を一日で終了させていたのは、そこの地域に人が入るからだ。魔物と言う存在がいて、それを討伐し生計を立てている冒険者が居るからこそ、冒険者達を最大限利用できる行動をとっていたのだ。


 と言っても、全て他人に任せるのは無理だし、そもそも赤の他人にすべて任せるのはアオイの心情的に不可能だったので、せめてもの安心感を得るために町の周辺を一日捜索していた。


 しかし、魔物が存在しないここ共和国では、冒険者は全てダンジョンへと向かっている。即ち、わざわざ実りのない町の外に行く冒険者などいないのだ。町の外に出る人が居たとしても、近辺に咲く花などを取りに行く人だけだ。


 町の中で完結できてしまう国だからこそ、外に出る人は少ない。故に、アオイは、日本の全土を上回る面積を捜索しなければならない。それぞれの“魔力探査”で捜索できる範囲が大体百メートル。それが×4なので、普通よりも広い範囲の捜索が可能だが、かなり厳しいものがある。それでも諦めるわけにはいかないのだ。


 捜索し、魔力が無くなったら休憩を挟み、捜索し、を繰り返し、気が付けば辺りが暗くなっていた。少し開けた場所を探し、そこに野営の準備を済ませ、夕食を取って寝る。


 ただしアオイだけは、夜中でも捜索を続けた。と言っても、迷子になれば時間のロスなので、そこまで遠くには出ない。絶対に帰ることのできる距離まで行き、何もなければそのまま帰る。帰ったら帰ったで、魔力量上昇の訓練をして、夜を過ごす。


 一日目も、二日目も、三日目も、毎日毎日似たような景色を駆け抜けながら、アオイ達は結愛の捜索を続けた。


 魔物もいないので、ただひたすらに捜索するだけの日々ではつまらないと思わせているだろうが、アルテナもヴァル達も文句ひとつ言わずに付いて来てくれている。本当に有り難い限りだ。


 捜索から約三週間が経過したある日の暮れ。


 見晴らしのいい小高い丘の天辺にいい塩梅の広場があったので、アオイ達はそこで夜を過ごすことにした。この三週間、特段珍しくもなくなった無眠の反動が来たのか、珍しくアオイも床に就いた。




 * * * * * * * * * *




 何か懐かしい感覚をアオイは感じていた。


 その感覚を思い出そうと頭を回転させ、そう言えば珍しく睡眠をとったのだと思いだす。となれば、この懐かしさと言うのは、きっと閉じた瞼に当たる陽光の感覚だろう。見晴らしのいい小高い丘で寝たのだから、太陽の光と言うのは間違いではないのだろう。


 そんな考えを抱きながら、目を醒ますためにゆっくりと意識を覚醒させる――




 * * * * * * * * * *




 ゆっくりを瞼を開け、その先にある景色を捉える。目の前に広がるのは、雲一つない晴天と呼ぶべき晴れやかな空。視界にとらえた光景と、背中に感じる感触から、仰向けになっていることが分かる。


 ゆっくりと体を起こし、辺りを見回すと、まだ眠っているアルテナとヴァル達の姿があった。


 太陽が出始めているのにまだ起きていないということは、それだけ疲れているということなのだろう。そう判断したアオイは、朝食の準備を済ませるために立ち上がった。


 立ち上がった際に、ふと、何気なく視界に入った丘から見下ろせる眼下の光景を見て、アオイは少しだけ鳥肌を立たせた。


 眼前に広がるのは、広大な緑の景色。何処を見渡しても緑色で、恐らく地球では滅多にお目に掛かれないような、素晴らしい自然の光景。朝陽のお陰で、その光景が一層昇華され、綺麗なものとなって、アオイの感性を刺激する。


 しばらくの間、感動で声が出ず、体も動かなかった。その光景に、見惚れていたと言っても過言ではない。あれだけ科学を発展させながら、周りの環境にも気遣って生きている共和国民達に、敬意を払えるほどの光景だ。


 日本も国土の三分の二が山地と言われてはいるが、このような光景は滅多にみられないだろう。


「結愛も、見られたらよかったのにな……」


 思わず、声が漏れていた。


 自身の意図とは違う行動をとってしまったことに驚きながら、結愛を無事に探し出せればそれも叶えられるだろう! と弱気になっていた自分を譴責し、同時に鼓舞する。弱気な自分を追い払うように手際よく朝食の準備を済ませる。終わった頃にアルテナが起床し、ヴァル達を起こして一緒に朝食を頂いた。


 今日は食料がもう少しで尽きそうなので、それを補充しに町に帰る予定だ。だが今まで走ってきた距離が距離なので、数日では帰ることが出来ない。既に持ってきた食料が半分を切っているので、帰らなければなければならない。


 店に売っていた携帯食料の殆どを買い占めてこれなので、これ以上の量を得るとしたら、自分達で携帯食料を作らざるを得ないかもしれない。


 そんな危惧をしながら、朝食を終えたアオイ達は町への帰路を行った。






 帰りはほぼ一直線に帰ってきて二週間弱かかった。手持の食糧はあと二日分しか残っておらず、タイミング的にもギリギリだったと言えるだろう。


 そもそも日本の領土を上回る面積の捜索なのだから、これくらいの年月が経ってしまうのも仕方のないことなのだが、やはりもっと効率のいい移動手段が欲しくなる。とは言え、現在のアオイ達は“身体強化”を掛けた状態だと、時速百キロ近い数字が出せる。


 地球上最速は某陸上選手の百メートル記録で約四十五キロらしいので、アオイ達はそれの倍は出せていることになる。木々があり、直線的に進めないことと、地面が整備されていないので、陸上競技場などで走ったタイムより遅くはなるが、それを差し引いても地球で考えれば既に超人の域であるアオイの速度を上回る移動手段など、技術の発展した共和国でも殆どないだろう。


 町の中は、約一ヶ月が経ってもあまり変わり映えはしなかった。


 初めて来たときは、建造物や売店で売っている物などに気を取られていた所為で気が付かなかったが、住民の中には人ではない種族――獣人の姿がちらほら見えていた。始めて見るケモ耳に僅かな高揚を感じた。


 気分をそのままに、地下鉄を使って十三区へ行き、コージに諸々の報告を済ませるためだ。


 前と同じ待機室で対談した。


「こちらでも捜索はしているが、この一ヶ月で手応えは全くないよ」

「ですよね。それでも捜索してくれているだけでありがたいです」

「冒険者にも呼び掛けはしたから、町の周辺の捜索は多分任せても問題ないと思うよ」


 コージは、総理大臣として忙しい身であるにも拘らず、結愛の捜索に手を貸してくれていた。


 召喚を止められなかった詫びと言っていたが、この国で掛かるお金の全援助と、それに加えこの尽力となれば、高待遇が過ぎる気がする。それでもありがたいことに変わりはないので、無理しない程度にはお願いしておく。


「そう言えば、前回言っていた鍛冶屋の知り合いのことだけど」

「何かありましたか?」

「うん。そこに一人の冒険者が来たらしい。彼曰く、その人の得物は滅多に見ない刀なんだそうだ」

「刀……ですか」

「そう。君の短剣は鞘の形状から見て片刃だろう? だったら、その人に指南してもらうのも悪くないんじゃないかと思ってね」


 確かに、アオイが使っている得物は片刃の短剣だ。だが、結愛を探しながら稽古をつけて貰いたいので、アオイの旅に付いて来て貰う必要がある。


 果たして、そんな無茶をしてまでアオイに教えてくれる人なのかどうかと言う点が、アオイを躊躇わせた。


 一応、頭に入れておき、他に旅での食料の話やもう少し細かい地形など、コージから色々な話を聞き、夜になるまでの間、情報収集に励んだ。


 夜になったので、コージとの話を切り上げて、アオイ達は宿に戻った。ここ一ヶ月間、同じ味の食べ物しか食べておらず、温かく美味しいご飯は久しぶりだったこともあって、あの自然を見た時とは違う感動を覚えた。


 一応、コージに会った際に、時間がお昼時だったこともあり、サンドイッチを御馳走になったが、あれはあれだ。美味しかったことに変わりはないが、今のアオイは、温かいご飯に感動を覚えている。


 前回寝たのが二週間前で、食料が無くなるかもしれないという見えない恐怖と戦っていたアオイは、かなり疲労していた。風呂を手早く済ませたアオイは途切れそうな意識をどうにか繋いでベッドに潜りこみアルテナに「すまん。先に寝る」とだけ告げて、死んだか? と勘違いされるような勢いで眠りに就いた。





次回投稿は1/12です。【次回予告】はないです。

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