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異世界最強の翻訳家  作者: 高田大輝
第二章 共和国捜索と新たなる師匠
27/38

1.Scientific country (科学の国)

投稿間に合いましたので、年始早々投稿です!


昨年は沢山のご愛読ありがとうございました!

これからも精進していきますので、お付き合いくださるとうれしい限りです!


それでは皆様。あけましておめでとうございます!今年もどうぞ、よろしくお願いします!





 一閃。


 たった一振りで、目の前にいた三匹の魔物の首が落ちる。


 出会い頭の、しかも魔物が気が付くことのできないほど一瞬のことで、魔物たちは自分の身に何が起きたのか知ること無く命を落とす。


 指令部を失った魔物の肢体と切り落とされた首が、血を流しながら整備された床に倒れる。


 一方、魔物の首を一振りで切り落としたフード付のコートを着込んでおり、性別の見分けがつかない人影は、刀についた魔物の血を払うと腰の鞘に納める。


 刀も鞘も飾り気は一切なく、最低限の機能だけを付けたようなシンプルなものだった。


 その得物と魔物の首を落としたことから、フードの人影が無駄を嫌う性格だということが分かった。


 フードの人影は、魔物の死体から的確に魔石を取り出し、鞘とは反対に位置するポーチに納める。


 他の素材は、血抜きだけ行うと手慣れた様子で()()()()()へと放り投げる。投げられた魔物は、空間に吸い込まれるようにして――否、実際に吸い込まれ、その姿を消す。


 全ての魔物を投げ込んだフードの人影は、ふぅ、と一つ息を吐き、同時に足音を耳に捉えた。


 人の足音でないことを理解した人影は、自身の気配や足音など存在に関する事象を極限まで薄め、『ダンジョン』を悠々と歩いているであろう魔物を討伐しに向かった。




 * * * * * * * * * *




 トゥラスピース共和国


 人間が住まうウーヌム大陸において、唯一魔物が生息しない国で、更に、人が住んでいる場所が一つしか存在しない珍しい国だ。


 魔物が存在しないならば、人は何処にでも住めると思うだろうが、それはしていない。


 理由は、建国した初代勇者が、将来を懸念して自然を残すことを推奨していたからだ。この国の国民は、政治に関わる議員だろうが、何処にでもいる一般市民だろうが、初代勇者の教えを神聖視している。


 宗教国家じみてはいるが、決して初代勇者の教えに従順すぎて成長しないだけではなく、しっかりと自分達の意思を持って生活している。


 異世界モノでよくある宗教国家特有の固執した考えを持っていないようで、捜索の際に面倒が起こりにくいと安堵したものだ。


 王国を出発したアオイ達は、いつもの如く“身体強化”で走っていた。


 オディト王国とトゥラスピース共和国までの道は、石畳で整備された街道が通っているので、迷うことはなかった。


 丁度、移動距離の半分辺りにある川を越えたあたりから、木々の数が増え、THE自然と言うような光景が目に入ってきた。


 街道の周りこそ木々はないものの、街道から十メートルも外れればそこにあるのは大自然で、心なしか空気が澄んでいるように感じた。


 野宿の為に用意していた野営セットや、日持ちする食料などがあったので、アオイとしては苦ではなく、寧ろラノベなどで読んだ展開を実際に体験していると思うとテンションが上がった。


 本来ならば、馬車で旅をして一ヶ月弱かかる道のりだったが、アオイのように不眠気味で動けないアルテナや、初めてだろう長旅に慣れていないヴァイヴァルに気を遣いながら進んだアオイ達は、三週間弱で走破した。


 アルテナ達の疲労が溜まり始めた頃に着いた、トゥラスピース共和国の首都で唯一の町である『トゥラスレア』は、まずその規模から王国とは違った。


 遠目からでは分かりづらかったが、町を囲む外壁が半端ではなくでかかった。高さは二十メートルはあり、その外周は、なんとベガの五倍はあるのだ。


 ベガの直径は十キロなので、トゥラスレアは直径五十キロある計算になる。更には、外周の壁から中央に向かうように張られた半透明の結界は、ドーム状になっており、内部を完全に保護している。


 これだけの結界を張るとなると、相当な力が必要になるが、初代勇者とその仲間はそれを容易くこなしたという。結界は魔力を注がなければ自然と消えるが、この結界は大気中の魔素を直接取り込むことで機能しているらしい。


 魔素がこの結界に集約され、大気中に残滓しか残らないということは、魔物たちが生きることが出来ないということなので、この結界がある限り魔物たちはこの国には発生できない、という仕組みで魔物はこの国にいないのだ。


 因みに、この結界は魔素を集める範囲が決まっており、その為に他国には影響を及ぼしていないのだ。範囲など決めなければいいと思ったのだが、そうすると結界は自身の出力を上げるために魔素を集め続けるので、この世界から魔素が無くなってしまうらしい。


 改めて、よく考えているよなぁ、と感心させられた。


 この結界一つとっても、共和国の力が分かるがアオイ達が中に入る前の門も、共和国の実力が滲み出ていた。


 食べ物と同名の某ICカード乗車券を翳す仕掛けは王国の首都でも同じだったが、カードを認証し開いた扉が自動ドアだったことと、そもそも自動ドアに使われている素材が、王国では王城とギルド以外では見ることの無かったガラスだったことに驚かされた。


 始めて見る自動ドアに、ヴァル達も感動したのか、少しばかり目が輝いている。アルテナも一見すれば何もないようなすまし顔だが、しきりに辺りをチラ見していたので、浮ついているのが分かった。


 感情を表に出せばいいとアオイは思うのだが、それをしてしまえば歯止めが利かなくなりそうなのと、侍女がはしたない行動をとれば主の評価に繋がると考えているアルテナは、自制の利く限り、決して自分から感情を表には出さない。


 主がこんなのだから、アルテナがどんな行動を取ろうとマイナスにはならないと思うのだが、それを言ってもアルテナが頑として譲らないと分かってきたので、何も言わずに好きにさせることにした。


 王国に食文化の改革を齎したとされる共和国に少し期待していたが、いい意味でアオイの期待を裏切ってくれた。


 アオイが読んだ書物には、共和国のことはあまり書かれておらず、成り立ちと初代勇者のことが内容の殆どだったので、共和国このことはあまりよく知らなかった。


 だからこそ、アオイはさらに驚愕させられる。


 自動ドアをくぐり、抜けた先に見えた光景に、アオイは自身の目を疑った。


 まず一度瞼を閉じて目を擦り、目の前の光景を再確認する。


ようやく目の前の光景が真実だと分かり、アオイは感動と共に困惑する。


 何せ、目の前に広がるのは、アオイの住んでいた田舎ではお目にかかれない高層ビルだったからだ。外壁を超える高さを持つそれは、一棟だけではなく、何棟も立ち並んでいた。


 アオイが困惑しているのは、そのビルが外壁の外から見えなかったからだ。外壁をも超える高さのビルが、何故見えなかったのか、不思議でならなかったからだ。


 結界の効果だろうと予想はつけられるが、そもそも視覚に作用できる結界があるのだろうか? と物理結界と魔力結界の二種しか見たことの無いアオイは疑問に疑問を重ねる。


 呆気にとられていたアオイは、はたと意識を取り戻すと、同じく目の前の光景に呆気にとられているアルテナ達を正気に戻し、早速ギルドに向かった。


 道をそこら辺にいた人に尋ねると、アオイの連れるヴァイ達に驚きはしていたが、快く教えてくれたので、時間を浪費することなく道を知ることが出来た。


 広大な首都だけにかなり時間を掛けなければ着けないと思っていたが、近くに支部があるらしくそこまでなら十分もかからなかった。


 トゥラスレアは十三区画に分けられており、一番近いのは冒険者ギルド第三支部と称されるギルドだった。


 教えられた道に沿って進むと、問題なくギルドに辿り着けた。


 王国の首都にあるギルドよりは小さかったが、そこそこの大きさのある建物だ。三階建てのようで、中からはやはり、喧騒な雰囲気が漏れている。


 他国でも同じ言語が使われていることを看板から確認し安堵しつつ、アオイは中に入る。


 一階の内装は、酒場のようになっているらしく、ここでもベガ支店と同じように沢山の呑んだくれがいた。酒場に用はないので、二階に上がる。


 二階は受付や依頼の張り出しが行われているアオイが目当てとしていた場所で、早速依頼が張り出されているボードに歩み寄る。


 そこを確認する理由は、サンタクルにてアオイの手伝いを申し出てくれた冒険者が無事にこの街に辿り着けたかの確認と、アオイの頼んだことをやってくれているかの確認だ。


 絵の描いてある依頼書は珍しく、直ぐに発見できた。


 心優しい冒険者に感謝して、アオイは王から託された手紙を渡しに十三区に向かう。


 第十三区は、町の中心にある。


 第一区から第十二区までは円形になっている町を三十度で分けた扇形になっているが、十三区はそれらの中心にある円形の区画で、主に国を運営する機関が集合している。


 そこに、最初にできたギルド本部があるので、そっちに顔を出すでもよかったかな、と時間を無駄にした自分を叱責する。


 道幅は広いものの、王国と同じかそれ以上の人数がいる東西南北に奔る大通りを進むのはかなり苦労した。ヴァイ達が魔物ということで珍しさから人がはけてくれたのが幸いだった。


 約二十キロの距離を途中で昼食を買い食いしながら二時間で歩き、ようやく辿り着いた十三区画は、再び半透明のドームで覆われていた。結界に触れてみたが、物理結界の効果を持っているようで、結界より先に進むことが出来なかった。


 等間隔にゲートのような場所が用意されているので、そこから中に入るのだろう。そう考えたアオイは、早速ゲートに近づく。


 すると、アオイに反応したのか、ゲートが無音で起動する。


「――十三区へようこそ。ご用件をどうぞ」

「……音声案内ってマジですか」


 ゲートが発した機械然とした様子の無い自然な声と、音声案内と言う意外と進歩した科学技術に、アオイは驚愕する。声が発せられ、ゲート脇に合ったモニターが文字を映し出す。


 取り敢えず、用事を果たすためにそのモニターに近づいて、『面会』と表示された箇所をタップする。


「――『面会』でよろしいですね? どなたへの面会でしょうか?」


 アオイの選択後、一拍間を空けてそう問われた。


 確か、王に渡された手紙に名前が書かれていたな、と封筒の裏を確認し、『コージ・クラウチ』の名前を確認して、並べられた人名からスクロールして同名を探し出すとそこをタップする。


 再び間を空けて、機械はアオイに問いを投げる。


「――『コージ・クラウチ』さまは、本日面会の予定はありません。面会証はお持ちでしょうか?」


 王のこれが面会証になるのかアルテナに確認し、重要なことかもしれないので一応『はい』を押しておいた。すると、機械はしばらく無音になり、モニターには『しばらくお待ちください』と表示された。


 予定にない面会な筈なのに、面会証を持っているという矛盾が機会を困らせでもしたのかもしれない。


 ただ待っているのも時間の無駄なので、アルテナ達と今後の予定について話し合いながら待つことにした。






 モニターに『しばらくお待ちください』と表示されてから、かれこれ一時間は経過した。


 最初の十分程度で今後の予定を話し終えてしまったアオイ達は、大通りの喧噪さをBGMにしながらいつものように魔力量の鍛錬をしていた。


 いつまで待てばいいのか分からず、気楽に何処に行くこともできないので、少しばかりフラストレーションが募る。


 だが感情が乱されても魔力の操作を乱さない訓練にはなるか、と前向きに考え始めた頃。


 ようやくモニターの表示が切り替わり、音声が流れた。


「――長らくお待たせしました。矢印に従い、お進みください」


 そう言うと、モニターの一部に、角の丸い長方形のマークが表示される。その下には、上矢印と『タップ』と文字が書かれていた。


 意図が分からず、しばし空白の時間が出来る。


 すると、機械がアオイの困惑を察してくれたのか、丁寧に音声で指示を出してくれる。


「――表示されているマークの箇所に、カードを提示して下さい」


 カードと言えば、アイデンティティーカードと冒険者ギルドのカードがあるが、この場合ギルド関連ではないので、IDカードを翳してくれということだろうか。


 カードを取り出して、それを翳す。すると、カードが淡い光を放つ。


 こんな機能があったのか!? と驚くアオイを他所に、カードは光を放ち終えると、モニターの表示もマークが無くなり、『お気をつけてお進みください』と、役目の終わりを伝えた。同時に、ゲートに張られていた半透明の結界がスーッと消える。


 なんだったんだろう? と思いながらカードを見ると、そこには簡易的な地図と、アオイ達を導くように描かれた矢印があった。


 先ほど言っていた「矢印に従い」、というのは、このことだったのかもしれない。


 取り敢えず、ようやく目的を達せられると、ゲートをくぐり矢印の通りに進む。十三区は意外と広かったが、大通り程ではなく十分も進めば目的地に着けた。


 着いた目的地の建物が、“円”の漢字を模して造られた、いつかの校外学習で見た覚えのある建物だったが、気にしないことにした。いちいち気にしていたら、時間が足りなくなってしまう。


 建物内に入ると、カードが淡い光を放ち、その表示を変える。


 再び地図が表示され、矢印に従って進む。


 五分と経たずに着いた部屋は、扉に『総理大臣待機室』と文字が入ったプレートが嵌まっていた。


 カードが表示を終え、光を失っていくのを確認し、目的地がここであることを理解したアオイは、コンコンと臆することなく扉をノックする。


 時間をかなり失っているので、少し焦っていたのかもしれない。


 ノックのすぐ後に、中から「どうぞ」と声が掛けられた。失礼します、と丁寧を心掛けて入室する。


 部屋は質素なものだった。素材をそのまま使っている木材の机に、数人が座ることのできるような小さめのソファ、観賞用の植物が四隅にあるが、その部屋の雰囲気にはちょうどよい。


 待機室としての最低限の機能を詰めたような部屋で、アオイのノックに反応した声は、立ちながらアオイの入室を待っていた。


 日本で仕事をするサラリーマンなら見慣れたであろうスーツを纏った、この国の政治の頂点に立つ男、コージ・クラウチだ。


「初めまして。私はこの国の総理大臣をやっております。コージ・クラウチと申します」

「こちらこそ、初めまして。私は召喚者、アヤノアオイと申します。今日はプロディ・ティーネ・オディト王からの手紙を持ってまいりました」


 挨拶を交わし、アオイは早速本題に入る。王からの手紙を取り出し、コージに差し出す。すると、コージは低い物腰でソファへどうぞ、とアオイを促す。


 アオイは結愛のことを色々省いて説明したが、やはり少し待っていてほしいとのこと。召喚したこちらがあなたのことを知らないのでは、色々と問題になりかねないと、苦笑いと浮かべながら必死に食い下がられた。


 NO! とはっきり言えたらよかったのだが、日本人の部分を持つ葵が出て来てしまい、やむなく待機することにした。許可を貰ってコージが手紙を読み終えるまで鍛錬で時間を潰すことにした。


 意外と量があったのか、十分程度の時間を掛けてコージは手紙を読み終える。


 ソファの背もたれに寄り掛かり、フゥと軽く溜息を吐いた。直ぐにハッと気を取り直し、アオイに無礼な姿を見せてしまったと謝罪する。


「何か困ったことでもあったんですか?」

「ああ、いや、大したことではないんだ。ただ色々と面倒なことが重なっていてね。少し気分が沈んでいるだけだ気にしないでもらえると嬉しい」


 どうやら、手紙の内容が今の溜息の理由の全てでは無いようだ。


「それで聞きたいことがあるのだけど、いいかな?」

「自分に答えられる範囲でなら、何でも」

「まず、アオイ様の――」

「――アオイでお願いします」

「呼び捨てか。二人きりだから、それでも構わないか。ではアオイ君。まず聞きたいのは、自己流で“魔力操作”系列のスキルを会得したと言うのは本当かな?」


 てっきりヴァル達のことが聞かれると思っていたので、少し虚を突かれた形になったアオイは一瞬の間を要して、コージの言葉に顎を引いて肯定する。


 アオイの肯定を受けて、コージは今までの人達と変わらない反応を見せる。


「次の質問は、手紙にあったオディト王国内での魔物の総数の減少についてだけど、これは本当かい?」

「はい。実際に自分が体感したことと、王国中の冒険者ギルドに顔を出して集まった情報なので、間違いないかと思います。一応、王にもお話ししましたが、白狐に関連があるのではないかと思っています」

「白狐……“身体強化”を使える人間二人と銀狼二匹でようやく対抗できる魔物……ですか」


 手紙に視線を落としながらコージは言った。恐らく王が書いてある内容を読み上げたのだろう。確認の為か視線を向けてきたので、肯定する。


「あの時は運よく勝つことが出来ましたが、正直なところ、二度と戦いたくない相手ですね」

「それほどですか……。魔人との戦争があると言うのにそんな厄介ごとまであるとは、本当に恵まれていないですね」


 コージは面倒だと言わんばかりに愚痴を洩らす。実際、コージの愚痴は理解できるので、内心頷いておく。


 そこからは、手紙の内容やここに来るまでの道中で何か変わったことはなかったかなど、情報交換を行った。結愛捜索に乗り出したかったが、情報収集も大事だと自分に言い聞かせた。


 その結果、十分に実のある時間を過ごすことができた。


 気が付けば窓の外は暗くなっており、時計を見れば午後七時を回っていた。昼過ぎから話していたので、ゲート前での待ち時間を考慮しても五時間は話したことになる。


「ありがとうございます。参考になりました」

「いやいや、気にしないでくれ。これが私にできる最大限の配慮だからね」


 この数時間で、少しだけ砕けた話し方が出来るようになっていた。一見あまり変わってはいないが、実は少しだけコージの人となりに心を許していたりする。


「あ、そうだ。これを」


 コージは思い出したかのようにスーツのポケットから一つの徽章を取り出す。ドラマなどで弁護士が付けているような、円形で中央に花が模られた徽章だ。


「これは?」

「これは我が国の政治に関わることのできる議員に与えられる徽章だよ。君たちの国と似ている政治体系と書いていたから、議会への参加権を得られる物、と言えば分かり易いかな?」

「どうしてそのような大切なモノを俺に?」


 コージの説明は理解した。だが意図が理解できない。


 アオイは政治のことをニュースや授業などで知っていても、所詮そこまでだ。ましてやこの国と政治体系が似ているからと言って、この国の国政のやり方や方針などを知っているわけではない。


 ただでさえこの国の情報を得難かったのだから、尚更だ。


「だからこそ、だよ。正直なことを言えば、今この国は私の所為で少し分断していてね。外の立場でありながら、外のどの勢力にも与していない貴重な人材である君ならば、もしかすれば議会で有力な発言をしてくれるかもしれないだろう?」

「なるほど。それは分かりましたが、俺には結愛を探すと言う目的があります。徽章を貰ったとしても、一度も議会に参加しない、という可能性もありますが?」

「それでも、私はこれを君に持って貰いたい。このことを他言はしないし、決して君に強制することはしないと誓おう」


 どうして、コージがここまで固執するのかは、分からない。アオイが参加できない可能性があっても徽章を渡す意味がない。


 だがコージは不退転の意を示している。


 余計な問答は時間の無駄になってしまうと判断し、再度アオイが政治に参加することがないことを念押しして徽章を受け取った。


 本来ならば、何か書類に残すべきことなのだろうが、召喚者の人権保障を最初に言いだしてくれたコージを信用し、言葉だけにした。単に時間の浪費が面倒だったと言うのもあるが。


「では俺達はもう行きますね」

「引き留めて悪かった。今日はありがとう。お陰でとても有意義な時間が過ごせたよ」

「こちらこそ、ありがとうございました。結愛のこと、何か情報があればお願いします」

「自分の伝手で最大限出来ることはしよう。私達が招いた種だから、本来は私達が率先して行うべきなのに、巻き込んでしまって申し訳ない」


 もともと召喚さえなければこんな事態にならなかったけどね! と、声を大にして言いたかったが、元凶はコージではなく、寧ろコージはアオイ達を救ったかもしれないいわば恩人なのでやめておく。


 部屋を退出したアオイは、コージが手配しれくれた魔物を連れていても問題が無いと保証してくれたホテルへと向かった。


 この国に滞在している間に使ったお金は、全て持ってくれると言ってくれたので甘えることにしたのだ。


 お金は王から貰っているとは言え、持っておくことに越したことはない。


 ホテルに着いたアオイ達は、風呂に入る。ヴァル達も部屋に入れられるとのことだったので、お言葉に甘えついでに二匹の体を洗った。


 ヴァルは水浴びが好きだったようで、最初こそ温かい水に驚いていたものの気持ちよさそうに目を細めていた。


 一方ヴァイは、水浴びをするとアオイが言った瞬間に脱兎の如き逃げ足を見せたが、部屋は何処も彼処も閉められており逃げ場はなかった。


 捕まってからも暴れ抵抗していたヴァイに、アオイは容赦なく水を掛けた。決して結愛のSっ気が移った訳ではない。温水に意外とハマったのか、最初の抵抗も鳴りを潜め、終了の時に至ってはまだ温水を浴びていたい! と駄々をこねられた。


 水浴びと飯を天秤に掛けさせ、強引に納得させたアオイは、その後夕食を食べてベッドに潜った。


 王国から共和国に至るまでの道中、実は一睡もしてない。夜警は全てアオイが請け負っていたのだ。


 常人離れし始めた自分に少しばかりの恐怖を抱いていたが、こうやって睡魔が襲ってくるのはまだ自分が人間である証明だと、言い聞かせ正気を保っている。尤も、結愛を失っているかも知れないと言う狂気的な思考に比べたら、常人離れなどアオイにとっては大した問題ではない。


 アオイにとって、結愛こそが全てなのだから。


 その日、アオイは久しぶりの睡眠だったからか、とても深く眠ることができた。





一章の改稿に手をつけられなかった為、改稿次第前書きに書いていくことにします。


第二章と言っていたのに一章がないという不思議な状況になっていましたので、今更ながらですが、章を分けました。困惑させてしまい申し訳ありません。


それと、【次回予告】はお休みです。次回投稿は通常投稿の1/5になる予定です。

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