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異世界最強の翻訳家  作者: 高田大輝
第一章 召喚と王国捜索
25/38

一章 閑話   とある年の葵と結愛のクリスマス

今回は史上最短の五千文字程度です。

葵と結愛のイチャラブ回になるのかな?

気軽に読んでいって下さい!





 とある年のクリスマス。


 空は既に暗くなり、家の外周をイルミネーションで装飾している家や、田舎町唯一のショッピングモールがキラキラと派手な催しが開かれていたりと、如何にもクリスマス然とした雰囲気が街中を包む中、葵は自分の部屋で、パソコンと睨めっこしていた。


 パソコンに移る画面で繰り広げられているのは、黒の混ざった混沌とした装いの巨大なサンタクロースと一人の剣士のような恰好をした葵のアバターとの激しい攻防だった。


 サンタの多彩な攻撃を紙一重で躱しながら、サンタと対比すればちっぽけな剣でちまちまと攻撃を与えている。


 既に葵は混沌サンタと戦闘を始めて、もうすぐで三十分になる。本来、このサンタを挑む相手は、大抵がハイランク装備を揃えた上で、且つ仲間を引き連れていく。混沌サンタは、所謂レイドボスという存在だ。


 だがイベントと言うだけあって、普通に挑めば十分もかからない難易度設定になっている。


 しかし葵が三十分近く戦闘しているのは、葵がたった一人で、しかも装備は全てがローランク装備と言う馬鹿げた装備で戦っていた。


 一撃を貰えば即死必死な相手に、三十分近く持ち堪えられているのは、ひとえに葵が事前準備を入念に行ったからだ。


 何度もサンタに挑み、その行動パターンや攻撃の種類などを徹底的に研究した。その上で、最低限必要な装備を見繕い、馬鹿げた戦いに身を投じている。


 葵がこのゲームを始めたのは、人間不信に陥った時期に両親が少しでも葵の気が紛れるようにとパソコンを買い与えたことから始まる。


 葵が人間不信に陥ってから、葵は家族以外とのコミュニケーションをほとんど取らなくなった。もはや家族との会話も、最低限の挨拶程度になっている。


 昔は人見知りで、あまり他人と話していなかったが、そんなものは些事だと言えるくらいに、葵は会話をしなくなってしまった。


 パソコンを買い与えたのは理由は、葵の人間不信から目を逸らそうとしたのではなく、もしかすればネットを使うことでコミュニケーションを図れるのでは? と画策したからだ。


 両親の考えは半分当たっていたようで、ネットでなら普通の会話が出来た。


 両親が予想しなかった半分の失敗とは、一人で孤独な時間を過ごしていた葵に与えられたネットという広大な場所が、葵を直ぐに熱中させてしまったことだ。


 一人で色々なことを知ることが出来、その上面白いこともたくさんあるネットは、人間不信である葵でも十分に楽しめる素晴らしい空間だった。単純に、目の前の現実から目を逸らしたかったということは、


 その生活が半月も続けば、葵は立派なネットサーファー(ひきこもり)になっていた。


 そこから、このままではいけない、と考えた両親の必死の努力と、幼馴染の結愛の尽力で、葵は引きこもりを脱したが、その時にハマっていたゲームやらは、そのまま引き継がれた。


 その結果が、まだ小学校三年生とは思えないこのゲーマーっぷりである。


 ネットで攻略情報を見るのではなく自分で調べているのは、まだ人間不信が完治していないからと言うのと、自分が体験した方が実際に対応が立てやすい、と言う結愛の教えがあったからだ。


 では何故、クリスマスの夜にアオイは自分の部屋でゲームをしているのかと言うと、単純に、家に葵一人しかいないからだ。


 父親は、急な仕事の影響で海外におり、母親は担当している患者さんの容態が悪くなり病院に泊まることになり、弟と妹はそれぞれ友達の家で開かれるクリスマスパーティーに参加しているのだ。


 唯一家族と同等に話せる幼馴染の結愛とその家族は、いつもの如くクリスマス旅行に出掛けている。彼女の両親が大の旅行好きなのだから、仕方ない。それに、結愛自身も一週間前から楽しそうに予定を話してくれたのだから、それを引き留めるなてことは出来なかった。


 人間不信から立ち直ったとはいえ、それはまだ一部だけだ。しかも、悪い噂が広まっている葵と、好き好んで友達になりたがる子供などいないだろう。そんなわけで、葵は友達がおらず、一人寂しく部屋でゲームをしていた。


 画面に映るサンタは今日の日付と関係があるクリスマス限定のイベントで現れるボスだ。今日を逃せば倒す機会が無くなるので、葵は今日一日中情報収集の為にサンタと格闘している。


 友達がいなかったせいで、寂しい思いをしている今だが、友達がいないお陰でイベントボスの攻略に必死になれたと言えるだろう。


 ともあれ、戦闘回数が53回目のこの戦闘は、時間切れで敗北した。


 くあーっと悔しそうな声を上げ、葵は椅子にもたれ掛る。長時間座っていた所為で、お尻が痛む。


 早く誕生日が来て、ゲーミングチェア買ってくれないかなぁ、と小三とは思えない発言をかましながら、葵は一度ゲームを中断し、お腹が減ったので一階に下りる。


 リビングには、母親と行う予定だったクリスマス会の準備がされていた。壁にはキラキラな装飾が施され、机の上には豪華な料理が並んでいる。きっと、この回が開かれていたら、弟達のクリスマスパーティーに負けないほど楽しいものになっていただろう。


 冷めてしまった料理を温めるために机に寄ると、端っこに殴り書きで、謝罪の分と先にご飯を食べておいていい旨が書かれた紙が置かれており、母の気遣いに感謝して、用意されていた料理を温める。


 せっかく、母が作ってくれた料理なのだから、温かい状態で食べたかった。料理が作られた直後に母親が病院に行ってしまったので、年相応に少し拗ねていたから、料理が冷めてしまった。


 電子レンジで温められる物は温めて、葵は六人座れる机に一人で座る。


 五人家族でそこそこ広いと感じられるリビングが、一人だとさらに広く感じる。


 やはり、何かに集中していた方が、寂しさを覚えずに済む。込みあがってくる寂しさをグッと抑え込み、チンッと音を鳴らし、温めが終了したことを告げるレンジからローストチキンを取り出そうとした。


 ――ピーンポーン


 家のチャイムが鳴った。思わず時計を確認し、既に八時を回っていることを確認する。基本、宅配便は母親が夜勤から帰り起きている午後から夕方にかけて届けるようにしてある。


 となれば、NHKかセールスマンだろうか。NHKはタチが悪いとネットで見たことがあるので、正直後者であることを祈りたい。葵の辞書に、“居留守”という言葉はなかった。


 背伸びをしてようやく届くボタンを押し、どちら様ですか? と問いを投げかける。


 しかし返答がない。


 クリスマスの気分にあてられたガキのピンポンダッシュと言う線が見えてきた。


 脚が辛いのでもう一度だけ、同じ問いかけを行う。


 やはり返事はない。


 ガキのピンポンダッシュだと決め、葵はインターホンから遠ざかる。


 その葵の耳に、玄関の鍵が開く音が聞こえた。


 もしかして、母親が帰ってきたのか? と思ったが、母は帰る前に葵のことを気遣って必ず電話を入れる。それは父も同じなので、両親のサプライズ、と言う線はなくなった。


 ならば、弟か妹かだが、二人は今日はその友達の家に泊まる予定なので、帰ってくることはないだろう。鍵も持って行っていないので、音が聞こえたことからその二人と言う線は消える。


 とすれば、今の音は聞き間違いだろうか。


 そう考えた葵の耳に、再びガチャっと鍵の開く音がした。


 一人で寂しいと言う気持ちは彼方に消え去り、今の葵の中には泥棒かも知れない! という恐怖が蔓延していた。


 子供である葵が、大人の泥棒に何が出来るだろうか、と必死に頭を回転させるが、残念ながら思い浮かばない。


 ひたひたと迫る足音に怯え、隠れようとした際に壁のスイッチに手が当たり、リビングの電気が消える。明るかった部屋が急に暗くなり、恐怖が加速する中、取り敢えず中々ばれないだろうカーテンの裏に隠れる。


 家に誰も居ないと思っているのか、迷うことなく真っ直ぐ進む足音は、リビングではなく二階へと上がっていった。意味が分からず混乱している葵を他所に、足音は一度止み、再び鳴ったかと思うと今度はリビングへと入ってきた。


 暗くてよく見えないが、月明かりのお陰でその図体は確認できた。


 葵が思っていたより小さい、というより、葵と同じかそれより低いくらいの身長だった。


 実は鍵を持って行っていた弟か妹か? と、恐怖心が少し和らいだ葵は油断してしまった。


 その一瞬で葵の場所が悟られ、バッとカーテンが捲られた。直後、パンッ! と音が鳴った。


 カーテンを捲られた時点で目を瞑り、少し涙目になっている葵は、音の数秒後に髪の毛に当たる何かの感触と、鼻についた火薬の臭いを感じる。


 恐る恐る顔を上げ、侵入者の姿を確認する。


 そこには、ニヤニヤした表情で紐が引かれ発射光が開かれているクラッカーを片手に持った幼馴染の結愛の姿があった。


 結愛は、黒一色のオーバーニーソックスに、白のヒラヒラのスカートで、黒を基調とした胸にクリスマスと印字されているの長袖の洋服を着ていた。とても御洒落で、結愛が着ていることでその可愛さも昇華されているが、今の葵はそれどころではない。


 それを知ったような悪戯な笑みを浮かべながら、結愛はハッピークリスマス! と満面の笑みで言った。


 頭の上の感触は、きっとクラッカーから放たれた中身だろう。


 だが、そんなことを気にする余裕も、結愛の言葉を聞き入れる余裕も、今の葵にはない。


 泥棒かも知れないと言う恐怖から、もしかしたら弟か妹かも知れないという油断に変わり、その隙を突かれ驚かされた葵は、泥棒でなくてよかったと言う安堵と、クラッカーによる驚愕と言う攻撃により、葵の涙腺は若干崩壊した。


 温かい水が目から流れ、床を濡らす。


 予想外だったのか、あわあわと慌てふためく結愛をからかう余裕もない程に、葵の心は厳しい状況にあった。


 だが幼馴染の前でこれ以上泣いていられないと言うプライドと、これ以上泣いていたら後々弄られると言う確信に近い予測から、葵は意地で泣き止む。


 その様子にホッと胸を撫で下ろした結愛は、早速葵にサプライズの結果を聞いてきた。


「どうだった? 私のサプライズ、驚いた?」

「うん、とっても。でもどうして此処にいるの? 旅行に行ったんじゃなかったの?」

「んー? 実はあれね、このための嘘でした!」


 素直に結果を答え、満足そうにする結愛に、何でこんなことが出来たんだ、と質問を投げかける。


 それを受けた結愛は、ふふっと妙に似合うからかい顔を見せて、嘘だと言い放った。


 このサプライズの為に、一週間も前から準備してきたのだと思うと、その執念を向ける方向が間違っているよ……と、少し呆れてしまう。


 だが、一人ではなくなった嬉しさが、そんな気持ちを吹き飛ばす。


 結愛に一緒に料理を食べない? と誘って、母と二人で食べる予定だった料理を、結愛と二人で食べた。


 結愛のお陰で、一人で寂しい夕食から、とても楽しい夕食に一転した。


 その後、結愛と一緒にゲーム内のイベントで混沌サンタを倒し、無事イベント限定アイテムを手に入れられた。


 一年前まで人間不信に陥っていたなんて思わせないくらいにはしゃいでいた。


 その後もベッドの上で布団に包まりながら色々とおしゃべりをして、葵は疲れたのか結愛を置いて寝てしまった。


 結愛は、眠ってしまった葵の髪を弄りながら、可愛い寝顔を堪能する。


 実は、結愛が葵に言った『旅行に行くのは嘘』というあれは、それ自体が嘘だ。


 結愛は確かに旅行に行ったが、家族が一緒にいるとは言え、葵が心配で戻ってきたのだ。結愛が葵に会いたかったと言うのも勿論ある、と言うよりそちらの割合が大きいが、それは恥ずかしいから絶対に内緒だ。


 因みに、結愛が葵の家の鍵を持っているのは、葵の人間不信治療の為に夏妃が大地との協議の結果渡す事にしたスペアだ。きちんと結愛の両親に許可は取っている。


 葵の頬を突きながら、サプライズ時の葵の反応が少しだけ予想外だったことに反省する。


 (なつき)といると思っていたとはいえ、もう少しやりようはあっただろうなぁ、と寝ている葵に謝罪の言葉を述べる。




 * * * * * * * * * *




 患者の容体が悪化したと思われたそれは、実はただの激しめの腹痛だったことが判明し、その処理を終えた夏妃は、葵の治りかけた人間不信を、ここで再発させてしまっては結愛に申し訳が立たないと安全に配慮した上で全力帰宅した。


 一先ずリビングの料理が食べられていることに安堵し、物音がしないことから部屋で寝ているのだろうと、二階に駆け上がり葵の部屋を音を立てないようそーっと開ける。


 その隙間から見えた光景に、夏妃は驚きの表情を見せる。


 葵の部屋の扉から見えるベッドには、葵と結愛の二人が同じ布団ですやすやと寝息を立て眠っていたのだ。


 結愛の母親である真耶から結愛がサプライズで葵に会いに行くというメッセージは受け取っており、結愛がいることは知っていたが、まさか同じベッドで寝ているとは思わなかった。


 驚きはしたものの、可愛い寝顔をみせ、同じ布団で寝る二人に微笑ましいものを感じ、そっと部屋の扉を閉める。


 真耶に状況報告を行い、夏妃も就寝する。


 翌日、葵より早く起きた結愛が、葵のベッドで寝ていたことは黙っててね! と赤面しながら夏妃に言いに来た姿は、本当に可愛かった。






 こうして、とある年の葵のクリスマスは終了したのだった。




次回「classmate side story 1」 次回投稿は12/29です。

次回は未完成ですので、【次回予告】はなしです。



ではでは皆様。メリークリスマス!

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