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方舟物語  作者: 狛ノ上緒都
方舟物語・最終章
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166/167

3


静かな古城の中、グレンデルは、カインはノアの膝の上で目を覚ます。

血塗られた部屋だけが先ほどの惨状を示す、穏やかな時間だった。


「目が覚めましたか?」


「ノア……」


カインは床に寝そべったまま、虚ろな目でノアを見上げた。


「……不思議だな、ずっと腹の底にあった憎しみが消えてる……、これがハコブネの能力か……」


カインはそう自嘲気味に笑う。

だが意識がはっきりしてきたのか、その顔は少しずつ絶望に包まれたものとなる。


「あ……ああっ……!僕は……、僕は何てことを……!」


カインは震える手で自らの顔を覆う、自分がしてきた事の重さを理解したのか、カインは絶望に苛まれ、ふるふると肩を震わせた。


「ノア……頼みがある……。

僕を、殺してくれないか……。

僕は過ちを犯しすぎた……もう生きている資格なんてない……、このまま生きるなんてダメだ。僕は、殺されるべきなんだ……!」


カインが両手で覆った顔に、一筋の雫が伝った。カインは声を殺して泣き声をあげ、カインの声だけが古びた城に響く。


「逃げるな」


ノアはカインの手に自分の手を重ね、力強くカインに告げる。


「生きることから逃げるな、罪から、逃げるな。

……貴方は生きなくてはなりません、それに」


ノアはカインの手をどける。

そこにいたのは兄ではなく、罪の意識に泣きじゃくる小さな子供の姿があった。


「貴方がいなくなったら、私は今度こそ一人になってしまうじゃないですか。

私、そんなのさみしいですよ……」


ノアが泣きそうな笑顔を見せると、カインは目をまあるくさせる。

ぽつりぽつりと、心からの言葉をカインにぶつける。

ノアも泣いてしまいそうだった。


「私一人は嫌いなんです」


ノアの身体に刻まれた戦いの傷が少しずつ血を流す。

じわりじわりと、それは大きな血の池をつくっていった。


「だから、どうか……生き、て……」


ノアの身体がぐらりと揺れ、その場に倒れこんだ。

倒れる直前のカインの声や、ばたばたと部屋に入ってきたハク達の声。

その声に答えることなく少女は意識を闇に手放した。



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