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方舟物語  作者: 狛ノ上緒都
方舟物語・第二十章
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162/167

3


女性はやさしく微笑んだ。

握りしめられた手は暖かくて、懐かしくて、涙がでそうだった。


「それにね、あなたはもう知っているはずですわ。

小さくても、強い意思は大きな力になるの。

思い出して、鍵はあなたの心の中にある……」


女性は愛しそうにきゅっと手を握りしめると、名残惜しそうにその手をほどき、立ち上がる。


「ほら、そろそろ時間ですわ。あなたはまだやるべき事があるのでしょう」


白い世界は突然ノアを中心として闇が広がる。

闇はどんどん広がり、光を覆い尽くさんとしていた。


「ま、待って!私……っまだ貴方と──!」


──ノア、いきなさい。

──あなたは、あなたの意思で戦いなさい



──



目を覚ますと、自分は赤い血溜まりの海に倒れていた。

冷たい床に倒れた感触。

刺された傷口の痛み。


その全てが少しずつ鮮明になり、あの出来事が夢だとノアに気づかせる。


恐らく気絶していたのは数秒。

だがその数秒はとても長いものに感じられた。


握られたナイフはマフラーに戻っており、力の入らない手だけが力なくそれを握りしめていた。


「まったく、末恐ろしい妹だよ。あの一瞬で身体を反らして急所を外すなんてさ」


コツンとグレンデルは靴をならしてノアの前に立ち、ノアの身体、傷を見下ろした。


傷は胸元から反れた腕付近に生々しくつけられており、そこからじわりじわりと出血していた。

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