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方舟物語  作者: 狛ノ上緒都
方舟物語・第二十章
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誰が為でなく


「大丈夫ですか」


聞き覚えのある、優しい声音が響く。

それは太陽のように暖かく、春の日のまどろみのように心地よい、ひどく懐かしい声音だった。


ノアはすうっと目をあける。

そこには壁も天井もない、見渡す限り白が広がる、一目みただけで現実ではないとわかる光景が広がっていた。


ノアはその真っ白な空間に仰向けで倒れており、緋色の髪に赤黒い目を持つ、誰かによく似た女性が、心配そうにノアの顔を覗き込んでいた。


「可哀想にね、こんなにボロボロで……。よほど怖いコトがあったのですね」


女性は優しくノアの頭を撫でる。

それはとても心地よくて、どこか安心する優しい手つきだった。


「貴方は、いったい……」


ノアは目の前の女性に問いかけるも、それと同時に昔の記憶が呼び起こされる。

もう忘れてしまった、何てことのない当たり前の幸せ。


その中で笑う幼い自分と目の前の女性。

幼い自分は楽しそうで、女性もまた幸せそうな笑みをこぼしていた。


「貴方は……!どうして……!?っ、おか──」


「しーぃ」


目の前の女性を思いだし、ノアは起き上がって女性を呼ぼうとするも、女性は人差し指でそれを遮った。


「あんまり騒いじゃご近所さんに叱られますわ。

ああでも、ここにご近所さんなんていなかったわね。

わたくしってばうっかりですわ」


女性はくすくすと笑う。

もういないはずなのに、あの頃と変わらぬ笑顔で。



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