第三十五話「最後にお話してもいいかな」
第三十五話「最後にお話してもいいかな」
二人は黙って対峙していた。どれほどの時間が経ったのだろう。再び剣戟の音が遠くの方で鳴り響き始めた。
「……追い付いたか。優秀な部下を持ったな?」
「……部下なんていないよ」
「はは、そうだな。お前は昔っからそうだった」
クルトは剣を壁に突き立てる。攻撃の意思はないと訴えるように。
「ダンジョンが崩壊したのに、空間としては保たれている。これはお前の仕業だろ?」
「さすが、お見通しだね」
幻惑魔法に並ぶ高等魔法……空間創造。ここはステラによって創られたもう一つの世界。普通の地下ダンジョンであれば崩壊したが最後、全員生き埋めとなるがここは違う。外側を覆う物質が失われただけで、例えるならおもちゃのメッキが剥がれただけ。
「お前くらいだよ。こんな高等魔法を身に付けようって考える奴は。今の魔界にそんな骨のある奴なんてそういない」
「私も、クルトじゃないかって思ったよ。幻惑魔法を素通りして……ううん、魔法を無効化するなんて普通の人にできるはずがない」
「それじゃ、俺はまるで怪物だな」
「うん……きっと、努力のモンスターだね。昔っから張り合ってたからかな?」
二人は静かに笑う。悪魔と人間。決して相容れないはずの種族が思い出話で。
「……なぁ、もう戻れないのか?」
「ごめんね、それだけは無理だよ」
「そうか……そうだよな。わかってはいたさ……あんなことがあったんだから」
「でも……聞いてくれて嬉しかったよ。ありがとう」
「……そんな目で、俺を見るなよ」
クルトは剣を掴み引き抜く。
「……さよなら、だ」
「……うん」
ステラは魔法陣を展開する。クルトはその大きさに目を見開いた。直径約十メートル。これだけの大きさ、魔王ですらも扱える者は少ない。
「私はまだやることがあるから……負けないよ?」
「……俺もだ」
魔法陣が光った時、クルトは駆け出した。




