占い 裏
俺は女の人が得意ではない。
別に幼少期にされた先生の占いで女難がどうとか言われた事が影響している訳では無く、あの独特の距離感というか、そういうのが苦手なまま育ってしまった。
しかし、大学生となり音大へと進学した結果、周りに女性が多くなり、男女比でいうと3:7。
積極的に関わる必要のなかったこれまでと違い、楽器によってはほぼ100%女性演者しかいない楽器もあるので、苦手だからといって避ける訳にも行かなくなった。
なので女性の知り合いも出来た。
そんな中には先生と同種と言えばいいのか、オカルトに傾倒している娘もいた。
まぁ、芸術とオカルトは隣り合わせ、遠い所にはないので、理解できることではある。
どちらも精神世界の話が絡むことも多いので、傾倒する趣味趣向は似たところがあるのだろう。
男女で好む内容に違いがあるのか、どちらかといえば先生の様に自分と関係のない不思議な話を蒐集しているよりは、占い等の自分が関わる方向に詳しい人が多い印象だ。
そんな折、なんかの話題から占いをしてもらう機会が出来た。
それならと俺は失せ人探しを占ってもらう事にした。
いつしかプツリと来なくなった先生の事が気になったのだ。
先生をことを占ってもらうとおうと考えたのは、会いたいのは会いたいのだけれど、何がなんでもというほどではないし、探偵を使ったり戸籍を調べたりする本格的なものは、家族でもない俺がそこまでして探すのも変だ。
俺は人の気持ちを推し量るのが苦手なので、もしかしたら普通に怒らせてしまって来なくなった可能性もあるのだから。
正直俺は占いなど1ミリも信じてないのだが、彼の愛したオカルトの力で偶然、運で、ばったりと出会う方が先生との再会っぽい。
そう思ったからだ。
◆
同級生の女の子に連れられてやって来たのは、中野の端っこにある寂れた建物の地下。
階段を降りていくと、なんらかのテナントが開店しているみたいだが、名前からなんのお店か分からない。
小さな飲み屋の集まりの様な、実際は名前がそれっぽく無いので分からないが、とにかくそういう雑多に店が集まる通路を抜けると、また地下へと降りる階段があった。
RPGなら一度セーブしてから降りるべき雰囲気のそこは、シャッターが下りている店が並び、やはりダンジョン感があった。
光が漏れているのが3軒で、その中の1軒が目的のお店らしい。
ボスが居るか、宝箱があるかはまだ分からない。
「当たるんだって、ここの占い。
予約してあるから。」
予約までさせてしまうとはかたじけない。
手をかけると想像したよりも重い扉に掛かっている飾りが、シャンシャンと音を鳴らしながら開いた。
「いらっしゃいませ。
どうぞお座りになって下さい。
占いたい事は何でしょうか?」
占い師の問いに、彼女が答える。
「二人の相性を占って下さい。」
「違う、悪ふざけしないでよ。
失せ人探しです。」
「どっちだい?
二つまとめてやってあげることもできるよ。」
「失せ人探しです。」
「失せ人探しね、あ、そう。
それでいいのね。」
偏見だが、こういうお店は魔女みたいなお姉さんがやっているもんだと思っていたが、占い師はねるねるねるねの魔女に普通の格好をさせた感じのお婆さんだった。
惜しい。
「あんたの方が占いたいんだね。
それじゃあ、名前を教えてくれるかい。」
「橘花 誠也。
誕生日…は、12月25日。」
「相手の名前と誕生日は?」
「森山 樹。
誕生日は6月6日。」
「はいはい。
じゃあなるべく相手のことを頭に浮かべて頂戴ね。」
魔女はパタパタとカードを並べていく。
静かな部屋にその音だけが聞こえてくる。
何故か隣に座る同級生が緊張している様だが、俺とはしては気楽なものだ。
当たると思っていないのだから。
俺にとってタロットカードは、中華まんを切る道具だ。
カードは円状に並べられて、その真ん中に一枚だけ置いてある。
「はい、じゃあ、はじめるよ。
まず、真ん中のカードをめくってご覧なさいな。」
そう促されてカードをめくると、派手な服の若い男が逆さまに描かれていた。
「ありゃりゃ、珍しい。
これは愚者。
トランプで言うジョーカーだね。
実際元になったカードではあるんだけど、ちょっと扱いが特殊なのさ。
やり直すよ。
本来、探し物ならこのカードを外す人もいるくらいなんだけど、これが出るのも運命さ。
ま、もう一度やるよ。」
魔女はパタパタとカードを並べ直す。
手際がいいので見ていて気持ちがいいし、その方が当たりそうだ。
これも占い師の腕の見せ所なのだろう。
「さ、もう一度引いてみな。」
言われた通りもう一度真ん中のカードをめくる。
しかし結果は先程と同じ、愚者が逆さまになっていた。
「ありゃ、こりゃダメだね。
私じゃ探せないかもしれない。
珍しいけど、まぁ、カードを信じるしか無いね。
この場合ハズレと言っていいカードが連続して出るのにもなんかの意味があるんだろうさ。」
ハズレ。
意味のないカードを連続で引いたらしい。
22枚のカードから1つの図柄を2回引くのは484分の1。
出ない確率ではないが、確かに珍しそうだ。
「いや、なんとなく先生らしいかなって思いますよ。
なんか、なんというか、持ってないんですよね。
だからなんか納得しました。
先生のことを考えたらハズレを引くのはすごく納得です。」
「変な人をさがしているんだね、アンタ。
ま、アンタがいいならいいんだけどね。
折角だから他の事も占ってやろうかね。
占えなかったからタダでいいよ。
二人の相性でも占おうかい?」
「いや、大丈夫です。」
「え?あ、そう。
はあ…アンタね…ちょっと先に出てな。
お嬢ちゃんを占ってあげることにするから。
このままじゃ、あんまりだからね。」
魔女に促されて外へ出る。
せっかくなので、よく分からないテナントを探検する事にしてしばらく時間を潰す。
よく分からないテナントで、何故だか置いてあった知らない味のルートビアを飲みながら夜を待っていると、30分位で出て来たのが見えた。
「お疲れ様、いい結果だった?」
「私も愚者を引いたわ。
あのカード愚者しか入ってないんじゃ無いかって疑っちゃった。
でも、解説を聞いたら当たってると思う。」
「面白い偶然だね、3連続だなんて。
あ、これ、コーヒーあげるよ、自分の分と一緒に買ったんだ。」
そう言って缶コーヒーを渡そうとするが、ルートビアの方を取られた。
「ごめんね、コーヒー苦手だからこっちを頂戴。」
正直そんなに美味しいものじゃ無いし、飲みかけだったので心配はあったが、真剣に飲んでいる様なので好きな味だったのだろう。
帰りにお礼がてらご馳走しようと寄ったイタリアンのお店で、食後にコーヒーを選択していたのは釈然としないが。
「そういえば、誕生日、クリスマスなのね。」
「そう。
聖夜に産まれたから誠也。
プレゼントも、ひとまとめ。
そういう運命の日に生まれたのさ。」
「そうなの、可哀想に。
じゃあ今年は私が祝ってあげようか?」
「いや、クリスマス周りはコンサートとかで忙しいよ。
君もそうでしょ?音大生なんだから。」
「…そうね。」
今までの誕生日ケーキはそれしか売っていないのでクリスマス仕様だった。
なので自分の誕生日の思い出はかなり曖昧なのだが、先生にヴァイオリンをもらった日だけは、よく思い出せる。
よく分からなかった占いの結果で、俺は先生をより思い出した。
得たものといえばそれぐらいだった。




