絵 裏
「大学のセッションコンサート近いやんか、それでな、ポスター作らなあかんらしいねん、伝統的に。
大体はウケ狙いのメンバーの写真とかやねんけど…誠也と蓮の横に私がいるのはめちゃくちゃ顰蹙を買いそうだから、絵にしようと思うねんけど、どう思う?」
「良いんじゃない。
僕らがやるやつっていわゆるアングラ物だからね。
人をメインにしない方が「ぽい」よね。」
という訳でデザインを考えることになった。
土方巽を完コピするならポスターもそれっぽい方が良いのだろうが、彼のポスターは寺山修司のようなバッキバキのアヴァンギャルドデザインだったり、版画の様な物が多い。
しかもエログロにナンセンスまで乗っかった様なデザインが多く、学生セッションのジョークポスターとはいえ誰かに怒られてしまいそうな物ばかりだったので困ってしまう。
ポスターの中に、ほぼ唯一と言って良い、魚のマスに雷が落ちているデザインという、パロディのしやすそうな物があったので、動物を別のものに変えて制作しようかということになった。
「女の子が混じっているから錦鯉とかにしたら良いんじゃない。」
蓮からそういう案が出て、じゃあそれで行きましょうとあきらが下絵を描き始めたが、なんというか、味があり過ぎた。
「二郎系ラーメンよりくどい。」
「は!なんやねん。
誰の絵が胸焼けするほど癖が強いって?」
「俺には…魚には見えない。」
「僕には…ギリギリ…いや、ごめん。
見えない。」
「なんやおら、そんなこと言うなら貴様らが描いてみ?
人様にいちゃもん付けたんやからな、覚悟して描けよ!」
「批評家の圧が強い。」
「音楽家なら批評家に怯むなや。
ほら、描け。」
蓮はため息を一つ吐くと、画像を見ながらサラサラと、鯉と分かる絵を描き上げた。
元のポスターと合わせた、水面を跳ねる様な動きをしていて、きちんと鯉だと分かる上手な絵だった。
「あかんわ、ニイちゃん。
無難やでぇ、こんなんな。
躍動感が無いわ。
見てみ、私の方。
躍動感がえげつないやろ。
芸術に携わるもんはな、爆発させな、感性を!
はい、ボツ。
次、そこの無愛想なアンちゃん、描いてみいや。」
「俺のこと?
…絵は苦手なんだけどな。
躍動感いる?
あきらのは躍動感しか無くて、何描いてあるか分からないんだけど。」
「いるに決まってるやろ。
そんなんやからそんな無愛想な子に育つんやって。
エネルギーや!
パッションや!
ほらほら、あきらちゃんを超える作品を産み出して…。
…上手ぁ。
嘘やん。
2分くらいしか経ってないって。
錦鯉やん。
鉛筆一本なのに、何故か赤いところと白いところがそう見えるわ。」
「うっま!
苦手じゃないじゃん。
目の前で形ができて来る度に、感動するレベルだって。」
「いや、見たまましか描けないからさ、物心ついた頃からこんな感じだよ。
小さい頃は他の子の絵と違って本当に嫌だった。
やっぱり苦手だなぁ。」
「なんやねんコイツ…神の悩み方やん。
踊りはへぼいくせによ。
…ちっ。
まだ魚だけやん。
背景も描きなや。
水墨画風の岩場に雷や。
参照する物がな…くても描けるんや。
そう。」
「でもなんか、レイアウトが微妙だね。
魚はもう少し左下にやった方がいいよ。」
結局、俺が絵を描き、蓮がレイアウトを指示、あきらは買い出しに行ってくれた。
下絵が出来れば早いもので、その日のうちに
絵は完成して、学生課にポスター作成の依頼も済んだのだった。
「いやぁ、3人の力が見事に合わさった良いポスターやな!」
「…そうだね。」
「なんやねん!
含みがあるな。
食いもんとか奢ってやったのに!」
「いや、助かったよ。
焼きそばが絶品だった。
あれどこの?
異常に美味かったんだけど。」
「え?ありがとう。
家でパッと作って来てん。」
「そうなんだ。
凄いな。
俺は料理なんて全く出来ないから、自分で作るって発想がなかった。」
「なんか誠也君って出来ることと出来ないことの差が酷いよね。」
「確かになぁ。
誠也は何が出来て何が出来ないん。」
「えー…?なんだろう。」
「家事はやってんねやろ?
地元北海道なんやから、一人暮らしだろうし。」
「ううん。
フィッツさんの家に居候してるから。
俺…掃除も洗濯も料理もやった事ないかもしんない。」
「えぇ!
高校生くらいになったらなんとなく手伝ったりせんかったん?」
「高校生の頃はホテル暮らしだったし…。」
「誠也くん…もしかして生活能力皆無なんじゃ…。」
その後、俺が何が出来て何が出来ないかの話になり、思いの外知らない事が多いと分かった。
いわゆる、のびしろというやつだろう。
多分。




