ピアノ 裏
「おい、やめろや。
これから暗黒舞踏やんねん。
真逆やろ、その曲。
ゆるいねん、雰囲気が。
甥っ子呼んできたろうか?
きゃっきゃと喜ぶで。」
俺がヴァイオリンでアンパンマンたいそうを弾いていると、あきらが愚痴を放って来た。
手の体操がわりによく弾いているこの曲は、たしかにこれから練習しようとしている暗黒舞踏とは程遠いが、別にいいじゃないか。
「…いや、別にええけどもやな、違和感がえげつないねん。
あぁ、頭の中で歌ってしまう。
勘弁してくれやぁ。
いいことだけ考える身体になってまうやん。」
「…え?
これ歌詞とかあるの?」
「は?お前なんやねん。
知らん曲弾けるか?
そもそもアンパンマン知らんの?」
「いや、知ってるよ。
あれでしょ?
アンパンを配るおじさん。」
「誰が原作絵本の話すんねん。
アニメや。
朝にやっているアレや。」
「見たことない。」
「うっそー!
マジで?
アンパンマンとかトトロとかで育つやん普通。」
「トトロも見たことない。」
「嘘やん。
山内かお前。
ジブリ見て育ってこんかったん?」
「いや…ゲド戦記だけあるよ。」
「ふざけんな、あんなんジブリちゃうわ。
小さい頃何見てたん?」
「クレヨンしんちゃん。」
「なんや、アニメみてるやん。
安心したわ、テレビもない貧しい家庭で育った想像して、これから幼少期の話はせんどこと思ってたわ。」
「ミスタービーンとかも見てたよ。」
「コミカルやけど、実写やん。」
「モンティ・パイソンとかも見てたよ。」
「…なんそれ、知らんわ。」
「えぇ…!
知らないの?
そんな人いるんだ…。
お笑いだよ、海外の。
大阪の人は大阪の笑いが全てだと思っているから、他の先人へのリスペクトが足りないよね。
どうせあれでしょ、ドリフとか水曜どうでしょうとか大阪以外のお笑いは認めてないんでしょ。」
「おぉ、おぉ、急に反撃してくるやんか。
そんな偏った思想はないよ。
それに私は京都の出や。
二度と間違うな。
誠也の子供時代に見てたんが変やねん。」
「フォルティタワーズとか。」
「知らんわ。
さっきから何やねん。
日本の話をしてくれよ。
なぁ、ここは日本や。
海外のやつ出すのでも、ギリはアレフやろ。
なんや、お前、外国人にでも育てられたんか。」
「そうなんだよね。
おじいちゃんが外国人で、小さい頃は共働きの両親に変わって自営業の祖父母に育てられたんだ。」
「おー、ホンマにそうなんか、なら仕方ないなぁ。
たしか、クレヨンしんちゃんも海外でも人気あるらしいもんな。
自営業されてたん?おじいちゃん。
英会話教室とか?」
「空手道場。」
「いい加減にしろよお前。
は?空手道場?
そんなに日本が好きならな、孫にアンパンマンくらい見せとけや。」
「原作のファンだったからゲド戦記の出来に怒り狂ってたよ。」
「そらそうかもなぁ…原作者もキレてたらしいもんなぁ。
なに?
じいちゃんの人物像が見えてこないわ。
どんな人なん?
空手道場やってたって、クマみたいな人なん?」
「えーとね、誰にでも空手を教えようとする人。
ハロー、キミも、カラテをやらないか!みたいな。」
「いやぁ、その辺自転車で勧誘して回る外国人の空手版やん。
民族的なもんなん?あれ。
アングロサクソンの本能に備わっている行動なん?
いや、そうじゃなくてさ、見た目の話よ。
正直誠也と空手家外人が結びつかんねん。」
「見た目?オスカル。」
「オスカル?
…アライグマ?」
「それはラスカル。
ベルサイユの薔薇のオスカル。」
「…あぁ、いや、あれ女の人やん。」
「でも昔はよく言われたらしいよ、オスカルに似ているって。」
「オスカルが空手勧誘してくんの?
脳がバグるやろ。」
「うん、父さんも初対面の時バグって教わるハメになったって。」
「断るとかの前に理解が追いつかんやろしなぁ。」
「綺麗な顔で、腰とか触りながら、肩幅に足を開いてって言われたから、ドキドキしたって。」
「嫁のパパにドキドキすんなや。」
「でも、娘は父に似るものらしいから。」
「嫁に似ているからセーフってか?
なんでやねん。」




