居なくなった友達 裏
ビルの隙間に入り込んでいく猫を何となく追いかけた。
何を期待していた訳ではないが、こんな所にも道があったのか、程度の好奇心だった。
ビルの隙間を進んでいくと、そこには猫が集まっており、そこは猫の集会所の様だった。
「猫には魂の色が見えて、それで人を判断している。」
昔先生にそう教わった。
ここにいる猫たちは俺を見ても動揺もしなければ逃げる事もしない。
どうやら認められた様だ。
ここに入り込んだ俺と同じくらい好奇心の高いらしいキジトラが寄って来て俺の靴をじっと見ている。
正直困る。
俺は猫が苦手なのだ。
子供の頃は平気だったのだが、先生が猫アレルギーで変貌したのを見て、何となくダメになった。
元々犬派ではあったが、今は猫を触るのも嫌なのだ。
自分が何かされた訳でもないというのに。
いつの間にか入って来た隙間の方にも猫がやって来て座っており、俺はここに閉じ込められた形になった。
無理をしたら抜けられるだろう。
でも、嫌なものは嫌なのだ。
仕方なく郷に従い、ビルを背にして座る事にした。
すると、足元にいたキジトラが膝に座って来てしまい、所謂詰んだ状態になってしまった。
撫でんのか。
撫でてええんやで。
そんな目で俺をみるが、無視だ。
にんじんと猫は苦手なのだ。
畑のカラーコーンことにんじんは人の口に入れる色をしていない。
それと比べれば猫なんて少し撫でるだけで満足してくれる子供だと思えばどうってことない。
そう自分に嘘をついてキジトラを撫でてみた。
撫でられると重さを増して喉をゴロゴロと鳴らしている。
騙された。
猫ではなく、子泣き爺とかそういった類の怪異だ。
くつろぐキジトラを見てか、他の猫も好奇心のまま寄って来て、俺は猫に囲まれてしまった。
膝に2匹、周りに6匹おり、どうやら逃がしてはもらえないらしい。
俺はここで死ぬのだ。
死体になるまで猫を撫で続ける、そんな物となったのだ。
猫が暖かくて眠くなって来た。
寝たら終わりだ。
…ポケットに入れていた携帯の振動で目を覚ますと、猫が2匹増えていた。
普通このパターンは全員居なくなっていて、なんだ夢か、となるのが一般的だと思うのだが、増えていた。
着信とメッセージは共にあきらからだった。
「お前今どこにおんねん。
ついでにレッドブル2本買ってこい。
お前の奢りでや。」
お怒りも当然だ。
遅刻しているのだから。
そうだ携帯で人を呼べば良いじゃないか。
助けを呼べば良いじゃないか。
俺はあきらに位置情報を通知しながら助けて欲しいと連絡して、少しだけこの苦行に耐える事にした。
足が痺れているのに、膝の猫は3匹になっている。
喉が渇いた。
ここに入り込む隙間の角には自販機があるのに俺はいま10mも歩けない。
幸い今日はスタジオに入る予定で、もう時間も過ぎている。
そこへ向かう途中の道だし、心配したあきらと蓮のどちらかはすぐに来てくれるだろう。
ちっ…猫が携帯の上に乗ってしまった。
これでもう何も出来ずに待つことしか出来ない。
あきら、蓮、助けて。
◆
連絡もなく遅刻しているアホからようやく連絡が来た。
アホからのメッセージを開くと、位置情報と共に助けてと書いてあった。
「蓮、誠也がこんなん送って来たんやけど。」
「…おぉ。
血気盛んなお姉様に拐われでもしたのかな。」
「さぁ。
どうする?ほっとく?」
「近いし行ってあげようよ。
ここって…どこだ?
こんな道ないよね。
すごい変な所にいる事になってるんだけど。
ビルの中にいるのかな。
じゃあ本当に困っているのかも。」
「せやな。
ボーッとしとるもんなぁ。
ボったくられでもしとんのやろか。
しゃーない、助けたろ。」
私と蓮が念の為コンビニで5万円ずつ引き出し、誠也が待つ場所へ行くと、そこは商業ビルなどでは無く銀行や事務所の入っているビルで、とても無関係な人間が入っていける様なところではなさそうだった。
「ヤクザにでも捕まってんのかアイツ。」
「とりあえず何階か聞いたら?
そんなヤバそうな会社が入ってる様には見えないけど、芸能事務所とかは入ってるから、そっちの方向で困っているのかもしれないし。」
なるほどな、と誠也にメールを送るが返信はなかった。
こんな都会のど真ん中で遭難するアホを基準に地図アプリは作られていない。
いくらスワイプして詳細に表示したとて、そこが具体的にどこかは分からなかった。
「…もしかしてこの隙間の先じゃないよね。」
蓮が指差す人一人がようやく通れる様な隙間。
良い年してそんな所に入るやつがおるかいな。
…いやぁ、入っていきそうではあるな。
「見るだけ見てみよか。」
二人でソロソロと隙間に入っていく。
意外と長い道でこっちのビルと裏のビルの間にある空間に出るらしい。
ぽっかりと開いたらそこに、アホが寝てた。
猫に囲まれて。
「なんやこれ。
え?私今寝てる?
ファンタジーな夢でも見とんの?」
「いやぁ…僕も全く同じ事を思ったよ。
4…8…16匹も居るんだけど。
すっごい猫に好かれるんだね。」
「とりあえず写真撮っとこ。」
私と蓮がパシャパシャと撮っていると、猫はそれが気に入らないのか何匹かどこかへ行ってしまった。
その振動で気がついたのかアホは目を開けてこっちを見た。
「二人とも…助けて。
俺、猫が触れないんだ。」
何でやねん。
触れる触れないの次元やないやろ。
お前の周りの空気より猫の方が濃密や。
「よう寝てたやん。」
「暖かくて眠くなるから仕方ないだろ。」
「蓮、避けたりや。」
「僕はアレルギーで触れないんだよ。
正直この空間にいるだけでも辛い。」
「お前も踊り以外大概なんも出来んな!
ちっ…。
ごめんなぁ、皆、このお兄ちゃんはそろそろ行かなあかんねん。
避けてもらえるかぁ。
あ?
今、シャー言うたのお前か?
保健所送ったろか?
ほら!
いけ!
去れ!
「お前は、はよ立て!」
ぱちん
猫を追い払う勢いそのままに頭を叩かれた誠也は、服をパンパンと叩きながらゆっくり立ち上がる。
腹が立って来た。
私は猫が好きやのに、こんなもっそりしたヤツのせいで、私がなんであんな嫌な顔をされなあかんねん。
「立てって。
…何やその優しい笑みは。
行くで。」
「足が痺れて立てないんだ。」
「ほう。」
「なるほど。」
「喉が渇いて死にそうだから、飲み物を買って来て欲しい。」
「ほう。」
「なるほど。」
このガキこの期に及んでわがまま言いやがって。
分かったわ。
蓮の言う通りなるほどやわ。
弱点晒しといてそんな言い分通ると思うなよ。
「まぁ、ええわ。
自販機でアクエリ買って来たるわ。」
「ポカリ派なんだけど。」
「アクエリな。
飯くらいは奢れよ、せっかく来てやったんやから。
近くのお店でええからさ。」
「うん。いいよ。」
バカめ。
スタジオがどこにあると思ってんねん。
今日だけは私も港区系女子や。
お肉たべよ。
お肉たべよ。




