龍
いつもの公園から車で1時間と少しのところに鍾乳洞がある。
そこには番の龍伝説があり、彼らがその地の守り神となったとか。
「楽しそうだよ、行ってみる?
龍が見られるかもしれないよ。」
龍に興味はないが、先生と遠くへ行くのは好きだ。
なので楽しみなのだが、前もって龍とやらを調べてみるとよく分からない生き物だった。
鹿、牛、ラクダ、ウサギ、鯉、鷹、虎、みずち、蛇を合わせた生物で、雷雲を掴み空を渡り、火を吹き、大きさは空にかかる虹と同じくらいだったり、80cmくらいだったり色々だ。
正直想像がつかない。
昔、初めて原人の化石が見つかった時に考古学者が例えに出したのは、猿の頭にウサギの身体だったらしいので、実物を見ることができればもう少し統一感のある見た目なのかもしれない。
しかし俺は気が乗らない。
「龍は格好いいからそれで良いじゃない。」
「かっこよくない。
顔がラクダの時点で、なんか、ぽやっとしてる。」
「えぇ…。」
龍の欠点は顔がラクダだと明記されてしまっている点だと思う。
あのまつ毛が長い眠そうな顔にヘビの様な身体がくっついていて格好良くなる未来などない。
それに、余計にわからない。
強い動物は前に目が付いているのだが、ラクダは草食で被捕食動物だ。
目は左右に離れていて、逃げるための視野を確保している。
描かれている龍に付いている牙は、はっきり肉食。
なのに逃げる気満々の頭蓋骨。
それなのに、肉食獣面をしているのが最高にカッコ悪い。
爪も牙も、なんだったら火も吹くし雷だって操る。
というのに、逃げ腰。
「そんな生き物かっこよくない。」
「…まぁ、そう聞くと…そうだね。
まさか龍に蛙化するなんて思わなかったよ。」
「まだ生き物増えるの?」
「いや、それはこっちの心持ちというか…。
ヤンキーが普通のことしたらいい行いをしている様に見える逆というかさ、憧れは憧れのままの方がいい、みたいな。」
「でもね、先生。
まだ可能性はあるんだ。
ラクダを実際みたらめちゃくちゃかっこいいかもしれない。」
◆
正直、誠也に龍の話をしたら突っ込まれるとは思っていた。
なんで羽もないのに空を飛べるのか、とかね。
そういう方向だと考えていたので、それ用の言い訳は考えておいたのに、全然違う角度から突っ込まれてしまって、僕は何も答えられなかった。
先生失格だ。
「火を吹くのに必要な可燃性のガスが、空気より大分軽いから浮いているんだって言えばいいか…。」
そう思っていた昨日の僕は考えが浅かった。
まさか顔と生き様が格好悪いと言われるとは思わなかった。
しかしながら、我が街には有名な動物園があるので、今度はそっちに連れて行ってみよう。
もしかしたらラクダを実際に見たら格好良く見えて、ついでに龍も格好良いと思ってもらえるかもしれない。
ん?別にいいのか。
鍾乳洞があるから行ってみようかって話であって、龍を見に行くわけじゃないもんな。
龍伝説があるからといって、龍を楽しみにされたらそれはそれで困る。
絶対見られないから。
まずはラクダか。
もしかしたら誠也は鍾乳洞じゃなくて、動物園に行きたくてそんな回りくどい説得をしているのかもしれないしね。
ラクダが格好良かったとしても、生き様の問題が出てくるからそっちは僕がストーリーを考えないと。
…武器をこれでもかと目一杯持っているのに、逃げる為の骨格を持つ奴。
…うーん…強いから、あえて戦いを避けている、とか?
いや、だめか。
骨格からって事は、代々というか、種族として捕食者が存在しているって事だもんな。
そいつからは逃げる気満々なのに、自分より弱い者には牙やら爪やら火を吹く顔がぽやんとした生き物。
マズイな、僕も格好良く思えなくなってきた。
僕が誠也ぐらいの頃は、裁縫道具の柄に選ぶくらい格好良く見えたというのに。
まぁ、ともかく動物園だ。
早速土日に連れて行って、ラクダを見てみよう。
◆
弁当は作らずに、最近栄えているらしい動物園周りで、二人してラーメンを食べた。
園内に入り、パンフレットを見て気が付いたのだが、北国の動物園にラクダは居なかった。
少し考えたらわかる事だったのに。
あ、いや、かなり昔は動物の生態なんかを無視して展示していたので、居たには居たらしい
とっくに死んで、剥製標本だけ展示してあったのを見つけた時は、もの悲しい気持ちになった。
誠也は龍を格好良く思えては居ないだろうなぁ。
でもまぁ、動物園が楽しそうだからいいか。
感情を表に出す事の少ない誠也の、ラクダの剥製を見た時のちょっと引いた顔は見なかった事にしよう。
あれは…幻。
龍と一緒だ。




