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常世神話譚 ー夜姫と最高神の千年恋譚ー   作者: 福山蓮
【第一部 星を見上げる少女】
24/31

【第23話】 紅い果実飴編 常世の街に嵐落ちる

 ハヤテの店は、

 思わぬ「美の暴力トリオ」の来店により、

 開店三分で常世の名所になっていた。


 夜姫は紅い果実飴を半分かじり、

 とろけそうな笑みで小首を傾げる。


「……おいしぃっ!

 アマテラス様と食べる飴が、

 こんなに美味しいなんて知らなかった!」


 飴の紅が、夜姫の唇と同じ色に光る。


 天照はその様子を、

 先ほどまでとは思えぬ穏やかさで見ていた。


 頬がほんの少し緩んだ——その瞬間。


 ゴロロロロ……!


 大地が震えるような雷鳴が町を走る。


 澄んだ青空。

 雲は無い。

 なのに風だけが牙を剥いた。


 石畳が鳴り、果実飴の列がガタガタ震え、

 旗がばさばさとはためく。


 人々の視線が空へ吸い上げられた。



 屋根の上。


 紅い果実飴をかじる 嵐の男。


 漆黒の髪は風に乱れ、

 首元には雷の痕のような刺青。

 金属飾りがじゃらりと音を鳴らす。


 翡翠の瞳が稲光となって天照と夜姫へ刺さる。


 男は飴をバリッと噛み砕き、

 大声で吠えた。


「夜姫ちゃああああああんーーーーーーーー!!」


 ドンッ


 屋根から跳躍。

 着地と同時に風爆が起き、人々が後退る。


 嵐の神・須佐男、降臨。


「みずくせぇよ!!

 なんで一人で来てんだよ!

 俺、常世のどこ探しても居ねぇから

 泣く泣く迎えに来たんだぞ!?

 しかも今日はデートの日じゃねぇか!?

 俺と!夜姫ちゃんと!

 ラブラブデーーーーートの日!」


 周囲

 \誰!?カッコよ!!嵐の神!?/

 \夜姫ちゃん両端がイケ神とか反則!!/

 \太陽×夜×嵐とか…尊……?!/


 予想外のゲストの登場に、

 三柱は驚きを隠せない。


 ここは、黄昏都ではなく人の暮らしが降り積もる、常降なのだから。


「えっ…あっ……あれ?

 須佐男スサノオ?なんで?

 デート?翡翠湖の?

 …来週じゃなかったけ?」


 予定の確認を怠った覚えはない。


 須佐男と時間を潰すことを天照に隠しているわけでもない、しかしあえて言う必要もない。


 そして、今は翡翠湖での約束を夜姫は知られたくはなかった。


 隣に立つ天照を、夜姫は恐る恐る見上げる。


「…翡翠湖?…来週?何の話だ」


 菩薩のように微笑んでいた天照の眉が、

 僅かに吊り上がる。


 夜姫「…ぇ。あ、いや。

 ただの水遊びだよ…」


 天照「水?」


 須佐男「アマちゃんは出てくんなって!

 細かいこと言わないで早く俺様と遊ぼうぜ♡」


 須佐男が夜姫の手を 当然の権利 のように掴む。


 ガシッ


「やめろ」


 秒で天照が割り込み、その手首を極める。


「…ツ!あっぶねぇなアマちゃんっ!

 折る気まんまんの握り方すんなよ!!」


 天照の片眉がみるみる上がる。


 須佐男はさらりと手を払い、

 今度は夜姫の肩を当然のように抱き寄せた。


 夜姫(小声)「須佐男、あれ。

 やっぱり来週だった気がするんだけど…」


 夜姫の口はそれ以上パクパクしたまま声が出ない。

 なす術もなく、須佐男にやりたい放題弄ばれている。


「来週?そうか?

 まぁ気にすんなって!

 しかし、お前昼間っからこんがり太陽に焼かれてんじゃねぇぞ?

 ほら、俺の影に入れ!

 夜姫ちゃんは日に弱ぇんだから。

 さぁさぁ、ほら俺が守ったげる♡

 やっらか〜い、いい匂い♡

 うーん、ちゅき♡」


 天照が僅かに震えていることを、

 水波女 は見逃さない。


 水波女 (須佐男…もっと。いけ)


 夜姫は須佐男の腕から逃れようとも、

 なぜか逃れられないでバタついている。

 2人きりの時よりずっと激しい…


 夜姫

「ススッ…須佐男!?

 ここ!人いっぱい居るから声下げてぇ!?

 それに私、日に弱くないってば!!

 知ってるでしょ?!」


 夜姫を守った気でいるのか、

 須佐男は天照へ余裕のピース。


 そして、街中に響き渡るような煩い声で吠える。


「いやぁ!あの日の翡翠湖、

 最高だったよなぁっ!?

 また行こうな!アマちゃん抜きで!

 あれからな♪俺見えちゃったの。

 夜姫ちゃんが俺の家で──

 “スサノオ〜ご飯できたぁ♡”

 っていうミ・ラ・イ!

 未来視、開眼♡」


 夜姫、顔面土色。

「な、何言ってぇ…?!!!!」


 震える男がもう一人。

 颯、殴りたいの我慢。


 水波女は地面に崩れ落ち、

 肩震わせて笑いを堪える(限界)


 我慢できない若い雄が叫ぶ。

「はぁ!?神はパートナー何人でもあり!?

 なら諦めてたまるかよ!

 2番でも3番でも受け入れてくれよ!

 夜姫はオレの唯一なんだよ!」


 夜姫は絶望の瞳で颯を見る。


 人々が噂する。

「なんだ、なんだ?」

「神様の三角関係だってよ、いや四角?」

「あの銀髪の女の子の取り合い?

 結構歳の差ないか?さすが長寿族だな…」

「神と人の略奪愛だって!!」

「…全員、美形すぎない?」


 願いもしない注目の的。

 騒がしい須佐男と颯を中心に、

 人がどんどん夜姫と須佐男、颯を囲う。


 いつのまにか天照と水波女みずはめ は蚊帳の外だ。


 水波女は隣に立つ天照に声をかけた。

  「天照様、大丈夫?」


「………………。」


 彫像のように動かなくなった

 天照の眉間に皺が深く刻まれている。


 須佐男

「おいおいおいおいっ!

 人間小僧がこの俺様にケンカ売ってんの

 かぁ?死ぬぞ?心臓止まるぞ?!

 俺様は 常世一のイケメン嵐王子 だぞ!」


  「きゃ〜〜〜!♡♡♡♡」

 どこから湧くのか黄色い歓声。


 夜姫はいまだ腕の中のまま、

 須佐男は髪をかき上げて、

 小麦色の肌に白い歯をキラリと見せながら

 挑発する。


 たじろぐ颯…だが噛み付いた。


「夜姫嫌がってるだろ?!

 それに…!

 お前…。

 ビミョーにイケメンでムカつくんだよ!」


 須佐男の額に血管が浮く。

「ビミョーって言うなぁあ!!

 しかも今強調したろ?おい!

 地味に傷つくじゃねぇか!

 この俺様、常世一のイケメン

 って噂で持ちきりなんだぜ?」


「ほーら!人間の可愛い子ちゃんたちぃ〜!♡」


 ⭐︎バチン!!(ウインク)


 女子

「きやぁあああ〜〜!!♡

 須佐男様サイコー!!カッコ良すぎる〜!!♡」

 \須佐男様ーー!!好きーー!!/

 \天照様派だったけど揺れたーー!!/

 \夜姫ちゃん許してえええ!!/


 どうだ!と腰に腕をあて、鼻息を荒くする。


 人間達が大歓声。

 須佐男、勝ち誇った顔で両手を広げる。


「みたか太陽♡

 俺こそが夜姫ちゃ……」


 ──その時。


 闇 が滲んだ。


 天照の影が、ゆっくりと長く伸びる。

 陽光を歪ませるほどの重い気配。


 空気が、ぴしりと凍る。


 夜が、片足だけ先にこの場所へ降りてきたように。


 水波女(小声)

「……あ。

 キたわね……天照様の本気」


 夜姫の指先が震えた。


 天照の声音が、低く落ちる。


「――離れろ」


 漆黒の太陽が

 いま、嵐を焼き尽くしに動き出す。


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