一瞬のきらめき
大祭からの帰り道
クラ、サエ、藤一郎は大淀川を渡って川沿いを南下した。
大淀川には西陽が反射して、水面がキラキラ輝いていた。
藤一郎の傷は本人の言うとおり、深くはなく出血も程なくして止まった。
「んー。岡田以蔵の生まれ変わりか」
「はい、正右衛門がそう言ってました」
クラが答える。クラとサエは藤一郎からあられを買ってもらい、それをちょいちょい口に入れながら歩いていた。
「以蔵のぞうはクラって字じゃかい、そんなこと言うたんやろ。お会いしたことはないけんどん、岡田さんは情けない侍なんかじゃ絶対なかったわ。世のため人のためにご尽力なさったに違いない。恥じんでいいど、クラ」
「はい。あんな状況やったけど、武士の生まれ変わりって言われて、ちょっと嬉しかったです」
「そうそう、その意気じゃ」
後にわかったことだが、正右衛門の父は姑息な手しか使えない我が息子にお灸を据える意味で、クラの竹を割ったような性格や自分の信念を曲げない態度が、まるで天誅の名人である岡田以蔵先生のようだと話していたのだった。
「おねえちゃああああああん」
ふと進行方向を見ると、マツが駆け寄ってきている。その少し後ろには祖父母と両親、次郎兵衛が見える。どうやら逸れた家族は少し前を歩いて帰っていたようだった。
「おお、マツ。大きゅうなったな」
藤一郎は駆け寄ってきたマツを抱き上げた。
「とういちろうにいちゃんや!あ!おねえちゃんあられもっちょる!」
マツは藤一郎と同じ目線になり、見下ろしながらクラに言った。
「や・・・やらんよマツには。もうほとんど食べたし」
クラがあられの紙袋を後ろに隠して言った。
えーっと不服そうな声を出したマツに、藤一郎が懐からあられの袋を取り出して渡した。
「いいと?とういちろうにいちゃん!」
マツは笑顔であられの紙袋を受け取った。藤一郎も笑顔でどうぞどうぞと答えた。
その様子を何気なく見ていたクラの耳元で
「マッちゃんのこと羨ましいって思っちょるやろ」
とサエが囁いた。
「は・・・はぁ?なんで?」
クラが慌ててサエの方を見て言った。藤一郎に聞こえないようにできるだけ声を絞った。
「クラちゃんも藤一郎さんに抱きつきたいんやないかなぁと思って」
「なんでね!もう怒るよサッちゃん!」
クラが右手を振り上げるとサエが走り出した。サエを追いかけてクラも走り出す。
「こらこら、転ぶなよ二人とも」
この日見たキラキラ輝く大淀川、藤一郎の笑顔。この一瞬をクラは一生忘れることはなかったのであった。




