表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/58

(54)オレは晒される

 え、マジか!?

 

 オレは思わず目を疑った。

  

 朝一番にパルピン冒険者組合の中に入ってすぐ目に入った派手な貼紙にデカデカとこう書いてあったのだ。


――――――――――――――――――

【冒険者組合便・号外】


ペピン冒険者の偉業!

6の月24から25にかけての2日間に渡り、ペピン冒険者組合からの依頼に参加した冒険者一行が、カカ山に集結していた亜人の大集団と異常発生した死霊の大群を掃討する活躍を見せた。


亜人は火属性ラドルガを頭目とするドルガとドルクの群れで総勢約200体。

死霊はザリオ2体をはじめ、死魂と死骨が数百体を超える規模で発生。

他にも魔物数十体程が確認されたが、これら全てを前述の冒険者一行が僅か一昼夜の内に完全に掃討した。


俄かには信じられないかもしれないが、ペピン冒険者組合が事後検証を徹底して行った結果これらが事実である事を確認した。


尚、大変残念な事にカカ山中腹にあったミト村が壊滅していた事実も合わせて確認された。

冒険者一行が山に入る直前に亜人の襲撃にあったものと推定される。

これについてはかの冒険者達が下山前に犠牲者を丁重に埋葬してあった点も合わせて報告しておきたい。

また、亜人に人質として拘留されていた村民3名が、冒険者一行により奇跡的に救出されたのは不幸中の幸いであった。


もし冒険者一行の入山があと一日、いや半日でも遅れていたなら、カカ山の麓の町ラシークが次の襲撃対象になっていた可能性は非常に高いと見られている。


この、カカ山近郊のみならずキャリオ全土への脅威を未然に防いだ功績は永く語り継がれる事になるだろう。

以下に、ギルド『森のジュリアス』を中心とした6名の冒険者達の名を記す。


ジュリア・ザナック

ロビーナ・パルティナム

アスカ

リー・ピンピン

エリザベス・フォン・メイガス

マリュウ・コパチェフ


(記)ペピン冒険者組合

――――――――――――――――――


 なんなんだこれは……。

 

 亜人も死霊もだいぶ数盛られてるじゃねぇか。

 しかもオレたち9人いたはずなのにワンウーチャンが完全になかった事にされてるw

 いや、2日目はシンだって大活躍したんだから本当なら10人だ。

 

 JAROってなんジャロ。

 

 ダモネフの野郎、やりやがったな!

 

「師匠、これって……」


 困惑顔のピンピンでオレの方を見るが、オレだって同じ気分だよ。


「まだ『森の』がついたままだわ。早く訂正しないと」

「え?」


 一瞬ジュリアが何を言ってるのか理解出来なかった。


「え、じゃないわよアスカ。ギルド名が違ってるのよ!」

「いや、だってそれはペピンを出てここに来る途中に変えたからだろ」

「そうだけど、もう『森の』はついてないんだから訂正してもらわなきゃ」

「どっちでもいいだろ、そんなの」

「よくない! 今からちょっと言って来る」


 言いながらもうジュリアは奥の窓口の方へ歩き出している。

 こうなったら止まらないのがジュリアだ。

 だがオレとしてはどうでもいいので放っとこう。

 

 リズとマリュウは何とも言えない苦渋の表情で記事を見詰めている。


「あ、そうそう。リズとマリュウがもうジュリアスの仲間だって事も一緒に伝えるわよ!」


 振り返ったジュリアがそれだけ言い捨ててまた窓口へ向かって行った。

 

 当のリズとマリュウは仕方がないといった表情で互いに顔を見合わせた後、また記事へ目を戻した。

 

「これってグルド全体に配られたんでしょうか?」


 ピンピンがどこか誇らしげに聞いて来るが、オレに聞かれてもそんなのわかるわけがない。


「おそらく」


 代わりにリズが短く、諦めたように答えてくれた。


「グルド内だけで留まってくれるといいのですが……」

「どういう事、マリュウ」

「いえ、何となくですが、他の国へも流れてしまいそうな気がして」

「えっ、それじゃグルド以外の国でも有名人になっちゃうの?」


 どことなく嬉しそうに聞こえるピンピンの声。

 そんな単純な事じゃないぞ、これは。

 

「ユミロフがちゃんと働いてくれるといいんだが……」


 思わず口に出してしまった。

 

 シャイア教にとって、この記事はある意味手配書みたいなものなのだ。

 計画を潰した張本人の名前をわざわざこんな大々的に公表するなんて……。

 

 ダモネフがそれを意図したのか、単なる天然ボケなのかはわからないがとんでもない事をしてくれたのは事実だ。

 せめて死霊について伏せていてくれれば、余計な憶測を生む可能性は排除出来たはずなのに。

 

 とは言え、まだこれだけならオレたちがシャイア教の計画に気付いて潰したのだという結論には至らないかもしれない。

 そのためにもユミロフには是非いい感じに頑張ってもらいたいのだが……。

 

 ユミロフがヤルタだけでなくオレたちもまとめて上層部に売る可能性もなきにしもあらず。

 とりあえずユミロフという駒があるだけまだマシだと思っておこう。

 

 それにしてもダモネフには心底がっかりだ。

 オレたちの事は完全に伏せてでもシャイア教の悪事の方を暴くのが本当だろうが!

 それをあろう事かリスクは全部こっちに被せて、自分たちはいいとこ取りしようなどと……許せん。

 

 ひとり静かに怒りに震えているとなんとも皮肉な声が聞こえてきた。


「昨夜の努力が水の泡にならないと良いわね」

「リズ様、そのような言い方はあまり……」

「そうね。ごめんなさい、アスカ」

「いや、いいんだ」


 リズはオレが独断専行で色々とやらかした事を快く思っていないのだ。

 まぁ当然と言えば当然なのだが。

 

「あ、師匠! こっちの隅にも記事がありますよ」


 ピンピンが指差した先にも確かに関連記事があった。

 

――――――――――――――――――

リー道場、ミト村復興を支援


プンクル宗家のリー道場師範リー・ユンロンは先頃、ミト村の復興支援のための合宿所建設を発表した。

入門生に復興のための作業を手伝ってもらいながら、高地訓練と集中合宿を同時に実施する試みらしい。

当面はリー・セイラン師範代が中心になって事業を進める模様。

早ければ来月初めには現地で作業を開始する予定。

――――――――――――――――――


 あー、こんな事まで記事になるんだ。

 冒険者とも組合とも直接関係なさそうな気がするけど、何らかの政治的配慮か忖度とかいうヤツなんだろうか。

 

 スレイたち3人の事に触れてないのはグッジョブだ。

 こっちの記事を書いたヤツはちゃんと物事がわかっていると見える。


「良かったな、ピンピン」

「はい。これも師匠のおかげです」

「でも、こういう記事に出るのって親父さんは好きじゃないのかと思ってたけど」

「これはきっとセイランの考えだと思います」

「ああ、なるほど。それなら何となくわかる気がする」


 新規入門生獲得のためのいい宣伝になるとでも踏んだのだろう。

 商魂逞しい所もありそうだったからな、セイランは。


 そこへ、浮かぬ顔のジュリアが戻って来た。


「どうしたんだよ、そんな顔して」

「うん……これはペピン冒険者組合の書いたものだからパルピンでは修正出来ないんだって」

「そうなの?」

「だって今そう言われたのよ。なんでこう融通が効かないのかしら」


 まぁお役所仕事の典型だな。

 冒険者組合も公務員的なアレなのかなぁ。

 

「それでおとなしく諦めたの?」

「まさか! それならペピンの方へ記事訂正の要請をするように言ってきたわよ。なんかイヤそうな顔してたけど」


 そりゃそうだろう。

 オレがもし担当でも面倒くさいのが来たな、ぐらいにしか思わんぞ。


「それなりに時間がかかりそうだな」

「そうなのよ。だからこうするの!」


 突然ジュリアが貼紙に向き直って何かやり始めた。

 

 あ、直接訂正しちゃうのね。あーあ……。


「ま、こんな所ね」

「それ勝手に書いちゃっていいの?」

「知らない。でもウソが書いてあるよりマシでしょ!」


 おーい、許可取ってないんかーい!

 

「見つかったら怒られるわよ、ジュリア」


 ピンピンまでもが諌めに入る。


「見つかったら見つかったでその時よ。ウソの記事を書かれて迷惑してる、訴えてやるって言うわ!」


 いや、この世界もそんな司法制度になってんの?

 あのトット村の判事みたいなヤツばかりだったら絶対相手にされなさそうだけど。


 どっちにしろその民事ゴロみたいなやり方はあまりお勧め出来ませんよ。

 

「もうそれはいいから。依頼の方に行きましょう」

「そうです。本来の目的はそっちなのですから」


 リズとマリュウが本題を思い出させてくれた。

 

 そうなのだ。

 オレたちはこれからパピコ村へ行くのだ。

 それは昨夜のうちに満場一致で決まっていた。

 

 ただ、その前に一応現地の情報確認と、何か近場で出来そうな依頼がないか確認するためにここへ立ち寄ったのだ。

 

「ジュリア、これなんかどう?」


 ピンピンが指差した依頼の内容はこんな感じだった。


――――――――――――――――――

依頼番号:GRD148303055

依頼内容:マムルの森の亜人分布図作成

依頼主:エイザック・グリコム

募集人数:規定なし

募集条件:なし

期日:完了次第締切

支払い:任務完了後一括払い

報酬:総額で金貨10枚

 ※分布図の完成度により増減

手当:

 魔物討伐時/魔物等級に応ずる

 亜人供物納品時/供物の価値に応ずる

補足事項:

・魔物討伐手当に亜人は含まない

 ※亜人を殺傷し敵対関係になった場合報酬減額の対象とする

・詳細はパピコ村で依頼主から直接説明

――――――――――――――――――


「場所はピッタリだけど、これって結局何をするの?」


 確かに分布図作成と言われてもピンと来ないな……。

 それよりオレは依頼者の名前の方が気になって気になって仕方がないw


「師匠、何がおかしいんですか?」

「ん? いや、なんでもない」


 ついニヤけた所をピンピンに目ざとく見咎められてしまった。

 

 だがパピコ村といい、エイザック・グリコムといい、オレ専用のネタとしか思えない名前なのだ。

 多少笑うくらいは許して欲しい。

 

「亜人が討伐手当の対象外というのが気になるわ」

「補足事項にも、報酬減額すると書いてありますね」

「それじゃ、亜人と戦闘になったら逃げるしかないって事?」

「どうして逃げなくちゃいけないのよ、倒した方が楽に決まってるじゃない」


 そんなに張り切らなくてもいいんだぞ、ピンピン。


「でも金貨10枚は太っ腹よね」

「ですが、逆にそれが気になります」

「どういう事、マリュウ」

「依頼から想定される難易度と報酬との間に乖離が見られるという意味です」

「ごめん、もうちょっと簡単に言うと?」


 おいおいジュリア……。


「一見簡単そうに思える依頼なのに金額が高いのには裏がありそうって事よ」

「ああ、そういう事ね。確かにそうかも」

「ありがとうございます、リズ様」

「それじゃ、この亜人供物っていうのは何なの?」

「申し訳ありません。それは私にも判り兼ねます」

「ジュリア、何でもマリュウに聞けば教えてもらえると思わないことよ」

「でもホラ! 詳しくはパピコ村で直接説明してくれるらしいわよ」


 ピンピンの言う通り、最後の一行にそう書いてある。

 って事はこれからパピコ村へ向かうオレたちには願ったり叶ったりというわけだ。


「ま、行けばわかるだろ」

「アスカ、何その投げやりな言い方」

「そうですよ師匠。もう少し真面目に考えてください」


 いや、パピコとかグリコとか真面目に考えろって言われても無理っす。


「私達は賛成よ、ねぇマリュウ」

「はい。リズ様がそう仰るなら」


 お、味方が増えた。


「リズ達まで、そんな簡単に……」

「ジュリア、ここで幾ら考えても時間の無駄よ。それなら現地に行って直接話を聞いてからの方が早いわ」

「幸い、パピコ村までは1日もかからない距離のようですし」


 おお、さすがはマリュウ。調べが早い。

 ま、バシャ移動前提だろうけど。


「確かにそうね。それじゃ私も師匠に賛成!」


 手の平返しが早いぞ、ピンピン。


「何よピンピンまで。私も別に反対してるわけじゃなくて、もっとよく考えてから決めようって言ってるだけなのに……」


 ジュリア、下手な考え休むに似たり。

 いや、もちろん本人には言えませんよ。


「他のも見てみたけど、やっぱりこれが一番だよジュリア」


 ざっと見た感じだとパピコ村近辺に関する依頼は実際これだけだった。


「そう。それならいいわ、決定ね。早速手続きしてくるわ」


 いつもながら切り替えの早いジュリア。

 すぐに窓口の方へ行って係の人と話を始めている。

 

「亜人の分布図ねぇ……」

「面白そうですよね、師匠」

「でもオレ、亜人の事全然知らないけど」

「私もです!」


 自慢気に言うなw


「マリュウさんは?」

「多少の事ならある程度は。ですが本格的に学んだわけではありませんので」

「アスカ、あなたまでマリュウを辞書代わりに使うの?」

「そんなつもりはないけど……」

「当たり前でしょ。そのつもりでやってるなら許さないわ」

「……ごめん」


 やはり今日のリズは当たりがきついなぁ。


「リズさんは亜人は詳しいの?」

「アスリーデで確認されている種類なら。ただグルドの方まではよくわからないわ」


 あ、そうなんだ。

 もしかしてマリュウよりリズの方が詳しかったりするのかな。


「でもオレたちなんかより全然知識があるんだろ。頼りにさせてもらうよ」

「私は辞書にはならないわよ」

「いいよ人間のままで」

「そういう事じゃないでしょ!」


 はいはい、私が全て悪ぅございました。

 もう今日はリズには何言ってもこんな感じになりそうだから撤退あるのみ!


「依頼、登録してきたわよ」


 そこへジュリアが戻って来た。

 救世主現る!


「お疲れ様」

「でも何かヘンな感じだったのよね。この依頼、私たち以外にも受けた冒険者が過去に何組もいたみたい」

「え、どういう事?」

「ああ、あの依頼ですね。今回はうまく行くといいですね、だって」


 そこへリズが黙っていられないという感じで割り込んで来た。


「どういう事? 気になるわね」

「でしょ!? だから今回はってどういう意味って聞いたら、すみません、前にも同じ依頼に申し込んだ方を何度か見たものですからって言ってたわ」

「そんなに何度も出すような依頼内容ではないように見えるのですが……」

「だから私もおかしいと思ってもう少し話を聞こうとしたんだけど、後ろに並んでた男が早くしろってうるさくって」


 あー、順番待ちしてる前のヤツがヘンなクレーマーで待たされるとイライラするんだよな、わかるわかる。

 って違うだろ!

 

 そういう所を律儀に気を使って譲ってしまうような所がジュリアには確かにある。


「窓口、どこだった?」

「ああ、あの右から2番目の所よ。そんな事聞いてどうするのアスカ」

「オレが行って聞いてこようかと」

「無駄よ、きっと」


 リズが諦めたように言う。


「どうして?」

「あの受付の子がそれ以上の情報を持ってるように見える? ただ単に前にも同じ依頼を受け付けた記憶があったというだけ。聞くだけ時間の無駄だわ」


 まぁリズの言う事もわかる。

 というか、確かにあの受付のちょっとぼーっとした感じの子が何か有益な情報をくれるようには見えない。

 

 だが、人は見かけに寄らないかもしれないじゃないか。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だぞ。


「ちなみにジュリアさんの後ろに並んでいた男も同じ依頼に申し込んでいましたが、たった今受け付けたばかりなので、と断られたようです」


 おお、さすがマリュウの地獄耳!

 

 依頼にも幾つか種類があって、公募タイプ的にいつでも誰でも申し込んで自由に登録できるものと、他の冒険者が依頼に登録している間はロックされて他の冒険者が登録できなくなるものとがある。

 

 で、後者の方が一般的な形式になっているようなのだ。

 ウルズスラで受けたベガスの仕事(依頼人は……名前忘れた)のようなものが前者に該当する。


 ロックされた依頼は掲示板の貼り出しに『済』の札が付けられるのだが、さっきは直前のジュリアが登録したばかりなのでそこまで手が回っていなかったようだ。

 

 そしてまさに今、係の人らしき女性が依頼の上に『済』札を貼り付けた所だった。


「どうする?」


 一応ジュリアに聞いてみる。


「もういいわ。何だかどうでもよくなってきちゃった。早く行きましょう」

「あと一歩遅ければあの男の方が先に登録していたのですから、私たちは運が良かったのです」

「そうね。マリュウの言う通りよ。その幸運を信じましょう」


 そうだそうだ。

 なんかいい感じになって来た所で先を急ごう。


 オレたちが外へ出ようと入り口の方に向かうと、例の号外前に結構な人だかりが出来ていた。


 似顔絵とかはないのでオレたちだとバレないのは幸いだった。

 だが、どこで誰が見ているかわからない。

 騒ぎになる前に退散した方が良さそうだ。

 

 何故か顔を伏せ気味にしながら足早に外に出るオレたち。

 傍目には結構な不審者だったような気がしないでもない。


 外に出るとピンピンがもう我慢出来ないといった感じで話しかけて来た。


「みんな注目してましたね、師匠」

「ああ、うん。そうだね」

「でも記事の内容についてはほとんどの人が信じてないようでした」

「まぁそりゃそうだろ。実際数はウソだし」

「それはそうですけど……なんかスッキリしません!」

「ははは。そんなの気にしてもしょうがないよ」

「アスカはそうでしょうけど、私たちは違うのよ。ね~ピンピン」

「こういう所は話が合うわねジュリア」

「私たち、冒険者なんだから目立ってこそ、有名になってこそでしょ」

「そうそう。もっと師匠は有名になるべきよ!」

「え、オレ? いいよオレは別に」

「ある意味充分目立っているわよ。ひとりだけ正体不明な感じで」

「リズ様、そういう仰り様は……」

「ちょっと! 本人の意に沿わない詮索は禁止! これジュリアスのルールに追加ね」


 サンキュージュリア。

 それはすごく助かる。


「リズさんって意外と根に持つ人なんですね。もっとサバサバしてる人かと思ってたけど」

「……悪かったわね」


 最後にピンピンの援護射撃がきれいに決まった所で、移動を促す。

 


 その後は特に問題もなく、南門の馬車止めで無事シンたちと合流。


 シンは仮眠をとっていたのか、まだ少し眠そうな顔で出迎えてくれた。

 一方、ニナはパカラに水や馬草をやるのに忙しそうな様子。


「お帰りなさい、アスカ」

「ただいま、ニナ」


 ニナは何故かいつもオレに最初に呼び掛ける。

 それによく目が合うというか、いつも見られているような感覚になる事がある。

 

 なんなんだろう、この子は一体。


 そのニナだが、実はパピコ村行きにひとりだけ難色を示していたのだった。

 記憶がないのにどうして行き先に好き嫌いが発生するのかまるで意味不明なのだが、もし記憶喪失がフェイクならパピコ村には何かニナにとって都合の悪い事があるのかもしれない。

 

 それなら尚の事行って確かめずにはいられないじゃないか。

 さぁ、どうするニナ。

 ピンチだぞ。


 出発の支度をしていると、いつの間にかオレたちを取り巻くように人だかりが出来始めている。

 

 どうやら組合の貼紙の冒険者がオレたちだと誰かが吹聴したらしい。

 こんな所にも顔見知りがいたのだろうか。

 まぁ、ウルズスラやらペピンで見られたのかもしれないし、ここに来る途中の襲撃を街道から見かけた者がいたのかもしれない。

 

 人の口に戸は立てられないというがまさにそれだ。

 

 確たる証拠がなくとも、もしかしてあれが……という憶測でも充分なのだ。

 

 それにしても、ピンピンが組合の前で言ってた以上に懐疑的というか否定的な受け止められ方をしている事に驚いた。

 漏れ聞こえる声がみんなそんな感じなのだ。

 売名行為などという言葉も聞こえた。

 

 まぁ確かにオレたちは小娘ばかりのギルドには違いない。

 客観的に見れば、簡単に信じられないのもわからないでもない。

 だが、残念ながらオレたちは当事者なのでそれを黙って受け入れる心境にはなれないのだった。

 

「早く乗って!」


 ジュリアが声をかけている。

 準備は出来たらしい。

 

 リズとマリュウはビスマルク卿の情報についても確認したがっていたが、そんな余裕はなかった。

 すまんがこの依頼が終わった後にしてくれ。

 

 こうして半ば逃げるように、オレたちはパルピンの町を出発したのだった――。

読んでいただき、ありがとうございます。

随分と間が空いてしまって本当に申し訳ありません。

突発仕事と愛猫の急病が重なってちょっとテンパってました。

どちらもようやく落ち着いたのでまた更新を再開します。

引き続き、応援よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ